チロ基金支援者の皆様には何年も前からお話していたのですが、壺井栄の六つの作品をロシア語に翻訳した壺井栄ロシア語訳作品集「二十四の瞳」がようやく完成しました。これは新美南吉ロシア語訳・ベラルーシ語役童話集に続く、日本文化情報センターの翻訳プロジェクトの一つです。
当初の予定ではミンスク市内でチロ基金で集めた寄付金を使って出版するつもりでしたが、翻訳作業と校正に時間がかかり、その間にベラルーシの出版事情が悪化してしまいました。
皆様ご存知のように、「二十四の瞳」は戦中戦後の物語です。主人公である大石先生の同僚が警察の取り調べを受けたり、小学生が書いた作文集が職員室の火鉢で燃やされたり、警察による拷問で命を落とした作家、小林多喜二のことなどが登場します。
残念ですが、今のベラルーシでは表現の自由、思想の自由がありません。実際に警察の取り調べ中に命を落としているベラルーシ人もいます。(公にはいませんが。)そのため他の壺井栄作品は問題ないのですが、「二十四の瞳」のベラルーシ国内での出版は今は検閲で止められてしまう可能性があり、翻訳は完成したものの、出版できないままでいました。
出版したら、ベラルーシなどロシア語圏の図書館に寄贈する予定でした。販売などの営利目的はありません。新美南吉ロシア語・ベラルーシ語訳童話集のときと同じです。しかしベラルーシ国内の図書館に寄贈したら、禁書扱いになるのではと心配していました。
そこへ、新美南吉ロシア語・ベラルーシ語訳童話集を出版したときに、多大なご支援をしてくださった仙台市のA様が、印刷所を経営されていたこともあり、今回の壺井栄ロシア語訳作品集の日本国内での出版を申し出てくださいました。一冊一冊手作りです。
正規の出版社を通しての発行ではありませんが、本の形になるのですから、大変ありがたいことです。
今まで翻訳・校正作業をしていた苦労が報われた瞬間でした。
しかも紙代など必要な経費、印刷・製本作業など全てA様お一人が出してくださっています。心から深く感謝申し上げます。
今回日本で生まれた初版本は、手作りのため、多くの部数は印刷できません。希少な本ですので、一冊は国会図書館に納本し、日本で関心のある方、壺井栄文学研究をされている方の一助になればと思っています。
収録作品 (作品の発表順に並べて編集しました。)
まつりご
ともしび
妙貞さんのハギの花
柿の木のある家
坂道
二十四の瞳
この他にも、ロシア語読者のために「壺井栄の生涯と作品」「『二十四の瞳』主な登場人物名一覧」「日本語用語集」なども収録しました。
翻訳したのは日本文化情報センター日本語教室の生徒とミンスク言語学大学の学生、25名と1名の校正者です。
翻訳者と校正者の氏名は、日本文化情報センターのベラルーシ人向けサイトで、ロシア語と日本語で公表しました。
こちらです。
翻訳者のうち日本文化情報センター日本語教室の生徒は、翻訳量に応じて、
ランキングが更新されました。
画像は表紙です。まだ記念すべき第1冊しか完成していませんが、仙台で印刷・製本作業が今も続いています。
何年もかかったプロジェクトがようやく日の当たるところへ出てきた気がしています。
しかし、次の目標はやはりミンスクでたくさん印刷して、ベラルーシ各地の図書館に寄贈し、壺井栄文学にベラルーシの人々に触れてもらうことですね。
まだしばらく時間がかかりそうですが、チロ基金支援者の皆様、どうかお見守りください。
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壺井栄ロシア語訳作品集「二十四の瞳」は国会図書館に納本されました。
2021年9月以降、
国会図書館サーチで検索できるようになります。
また
壺井栄文学館にも寄贈いたしました。
二十四の瞳映画村内にあるブックカフェ、
書肆海風堂でも閲覧できるようにしていただきました。
部数が少なくて申し訳ないですが、小豆島に寄贈できて感無量です。