リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

Easy Baroque Pieces (4)

2020年12月11日 16時22分11秒 | 音楽系
ポーランドのワルシャワ大学の図書館にはなかなかいい写本があります。Rps Mus 36 Mf 2004など20**が末尾についた写本で、有名なヴァイスのあまり知られていない「大」パルティータなんかもあります。ただEasy Baroque Pieces の視点から行くと、少しレベルが高くて簡単に弾ける作品は少ないです。

同 Mf 2008 には丹念に探すと初心者フレンドリーな曲が見つかります。写本の19ページのメヌエットはとても愛らしいメロディーが印象的には技術的にはそんなに負担はありません。これは採用ですね。

あと53ページのフーガなんかも短い曲ですが初心者、中級者にはぴったりです。このワルシャワの写本には結構フーガと題された曲が入っています。多くはとても短く刺身のツマみたいな曲で、バッハのフーガみたいに込み入った曲はありません。バロック・リュートのために書かれたフーガはあまり見られないのですが、このワルシャワシリーズには結構入っています。


こちらは別のフーガ。前の曲は手の込んだプレリュードです。プレリュードとフーガという風に組んで弾くことができます。でも中級レベルではちょっと難しいかも。作者は不明です。

この写本の冒頭には、「修道院の図書館より」とドイツ語で書かれたシールが貼られています。どっかの修道院からワルシャワ大学の図書館に寄贈されたか転所されたものらしいですが、修道院でリュートを弾いていた人がいたということでしょうか。それもかなり高度な技術を持っている人です。

12月8日は・・・

2020年12月10日 15時49分53秒 | 日々のこと
書くのが遅くなってしまいましたが、12月8日は真珠湾攻撃の日です。決断はもっと前に行われましたが、それがが今の日本の成り立ちに大きく影響していることはご存じの通りです。この真珠湾攻撃に至る日々のドラマを描いた小説が、佐々木譲作「択捉発緊急電」です。「ベルリン飛行指令」に続く三部作の第2作目、第3作が「ストックホルムの密使」になります。いずれも時代の空気を感じさせる傑作です。

「今日は真珠湾攻撃のあった日なんだよね」などと、とある女性と話をしながら車を運転していたら、道が急に渋滞し、消防車が何台か並んでいます。火事のようですがよく見ると道のすぐ近くにある小学校が火元のようでした。あとで新聞のニュースでしりましたが、A町立のB小学校で火事があったそうです。

その時はその女性の実家に婚約のあいさつに向かっていたのですが、火事現場を過ぎてしばらくすると、つけていたラジオがジョン・レノンが自宅のすぐ前で狂信者により銃殺されてたと伝えていました。あまりに急なことなのでしばらくは何の話か理解できなかったくらいでした。

12月8日は私たち夫婦にとってはいろんなことが重なりとても思い出深い日になっています。でも40年も経つと記憶もいい加減になってくるものです。火事を見たあとラジオのニュースでジョンの訃報を聞いたとばかり思っていましたが、実はそれは東部時間の12月8日23時で日本時間では翌9日でした。長い年月が人間の記憶を(というか私の記憶ですが)よりドラマチックな方向に盛ってしまったようです。

ルネッサンス・リュート・オン・ザ・ウェイ

2020年12月09日 15時43分43秒 | 音楽系
Larsから写真が送られてきました。超厳重な梱包ですね。ガムテープにぐるぐる巻きにされてまるでミイラみたいです。彼もミイラだと言っていました。(笑)「ミイラ」は今空港のどっかで送付を待っているか、飛行機に乗せられているか、どういう状況なんでしょうね。



本来ならもうぼちぼち着くころですが、クリスマスシーズンとコロナが重なってかなり時間がかかるようです。新型コロナウィルスはスウェーデンでも感染急拡大しているようで、諸行動制限を全く取らなかったスウエーデン政府も方針を変えたようです。その成果が出てきたのか、12月始め頃をピークに感染急拡大はストップしつつあるようです。

「ミイラ」の表面にウィルスが付着している可能性もありますが、ウィルスは紫外線の入らない暗いところで最長28日生きているらしいので、あまり早く到着するとウィルスに感染するリスクもなきにしも非ずです。でも幸か不幸か到着は今年の年末か来年初めだそうなので、まず大丈夫でしょう。(最近アメリカやドイツから弦も買っていますが、別に感染していませんしね)ウィルスの数が一定以上にならないと感染しないということを聞いたことがありますので、物品の場合はそんなに問題にしなくてもいいのでしょう。

深海の街、超一流と伸びしろ

2020年12月08日 15時32分03秒 | 音楽系
ユーミンが39作目となるアルバムを出しました。早速購入して聞いてみました。最近というかここ10年くらい前からキーが随分下がってきて、20代前半のようなトーンでは歌えなくなってきました。ユーミンは今66歳ですが、66歳の歌い方があるとは思います。それに楽曲自体は自分で作るので自分に一番都合のいいように作れるし、アレンジもすぐ近くがするのですから、それらは大いに強みになると思います。

アルバムのタイトルになっている「深海の街」は、TBSのWBSというニュース番組のエンディングテーマ曲として発表されていた曲です。あとCMで流れていた曲も何曲かあります。「知らないどうし」はTBSで放送中の金曜ドラマ『恋する母たち』のテーマ音楽です。ユーミンがテレビドラマの主題歌を書くのは1993年のTBS系ドラマ『誰にも言えない』の主題歌「真夏の夜の夢」以来です。「真夏の・・・」ではドリア調イントロが印象的ですが、新アルバムの「知らないどうし」のイントロもドリアンモードが少し入っていて、サウンドの共通性を持たせています。

発売前に行われたインタビューでとても印象に残ったことばが2つありました。ひとつは、「今まで一流の人から沢山のことを吸収してきて、自分は超一流を保ってきた」です。自分のことを超一流とシャーシャーと(今風だとシラっと)言ってのけるなんてさすがですねぇ。(笑)でもユーミン作品の音楽性(アレンジも含めて)、文学性を本当にわかるって評価できる人は実はほとんどいないでしょうから、自分で言ってみたんでしょう。人のことを評価、理解できるのはその人と同じくらいのレベルかそれ以上の人でないてできないものです。

もうひとつは、「まだ伸びしろがある」です。あの高さのレベルまで行っている人が「まだ伸びしろがある」なんて言っているのですから、凡人の理解できる領域の人ではありません。天才的な人というのはそういうものです。でもじっとしていると天才でもそのうち干からびて凡才になってしままうかも知れません。一般庶民が待望していて当然のように出てきた最新アルバムの陰にはものすごい努力と苦闘があったに違いありません。




Easy Baroque Pieces (3)

2020年12月07日 16時21分07秒 | 音楽系
次に見てみましたのは、チェコにある A13.268という番号のついた写本です。Scribdから入手したもので直接所在地にあたったわけではないので、チェコのどこにあるかはわかりません。この写本の最初の方に組曲としてまとめられる曲が5曲あります。ニ短調ですが、P.4 Prelude, P.5 Menuet, P.9 Saraband, P.7 Gavotte P.8 Gigueの順でまとめてみました。いずれの曲も、私の教本のレイティングで★と★★の曲が中心です。GavotteとGigueは★★★ですがこれらも★★★を松と竹に分けると、竹の方です。でもこの5曲全体を一つの組曲としてきちんと仕上げるのはそこそこの力が必要でしょう。この可憐な小組曲をきれいな音でセンスのいい華麗な装飾を入れて弾いてみたいものです。きちんと仕上げようとすればするほど奥の深さを感じると思います。

その中のP.8 のGigueです。


たとえば同じニ短調のヴァイス作曲ソナタ第34番のGigueがどうもよたってしまって上手く弾けないという方やフレンチの速い曲がどうもとおっしゃる方は、遮二無二その曲を練習するのではなく、まずこのくらいの曲を流れるように、そして6小節目や終わりから2小節目のトリルを綺麗に決まるように練習した方が近道でしょうし得るところも大きいでしょう。きちんと弾けない曲を遮二無二練習しても弾けるようにはなりません。まずは無理のない曲をきちんと仕上げることが大切です。

私はヴァイスなんかの知られた曲を初心者のうちから弾くなというつもりは毛頭ありません。自分の部屋でいろいろ「つまみ食い」するのはとても楽しいでしょうし、弾けた気分に浸るのもいいでしょう。でもその弾けない曲を、全く弾けてない状態のまま人前で弾いたり、You Tube なんかにアップするのは先人に失礼ですから止めるべきです。別にプロ並みに弾く必要は全くありませんが、先人に尊敬の念を込めて弾くべきです。アマチュアだからどんな弾き方でも許されるという意見には与しません。

Easy Baroque Pieces (2)

2020年12月06日 14時01分24秒 | 音楽系
まず当たってみた写本はニューヨークにあるLord Danby's Lute Bookです。アメリカの東部にはリアルタイムでヨーロッパからもたらされた写本がいくつかあります。17世紀初頭にもたらされたと思われるダウランドゆかりの写本がワシントンDCにありますし、このDanbyも多分17世紀の後半にアメリカに入ってきたものかも知れません。

この写本にはComte Logy(ロジー伯)とタイトルに書いてある作品が何曲か収められています。タイトルのない曲でも作風からロジー伯のような感じがするのもあります。他にはコレッリやヘンデルの編曲も収められていますので、この写本の成立は17世紀後半から18世紀初頭にかけてでしょう。本写本から1曲選んでみました。作者は不明ですが、すぐ前の曲が同じ調で、ロード公のジグというタイトルがついていますので、同じ人が書いたのかもしれません。この写本はとてもいい曲が多いのですが、ちょっと難易度が高めです。

次に見てみたのがBaltic Lutebookです。とても丁寧な字で書かれた写本で初級者から中級くらいのレベルの作品が多いです。作曲者は書かれていませんが、増6度の和音が出てくる曲もあるので、18世紀の第2四半期以降頃に書かれた感じがします。この写本からは技術的にあまり無理がなく聴き映えのする6曲を選んでみました。

最近手に入れている写本はすべてPDFで、購入先はサブスクのScribdが多いです。あとTree Editionとか無料で手に入るロンドン、ドレスデン、ブザンソンの写本もみなPDFで持っています。ロンドン、ドレスデン、ブザンソンの写本は昔は手に入れるのは結構手間でしたが。曲を選ぶのはアクロバットで次から次へと見ていきます。このとき楽器は使わず頭の中でサウンドを再現しながらタブを読んでいくととても効率的です。楽器をいちいち弾きながらだと三倍も四倍も時間がかかることでしょう。

バーゼルの定宿も営業休止

2020年12月04日 15時18分11秒 | 日々のこと
スイスのバーゼルに行くとき定宿にしているのが、Hotel Brasserie au Violonというホテルです。多分観光案内では出てこないような小ぢんまりしたホテルですが、旧市街の中心部に位置しトラムの停留所からも5分くらいのところに位置しています。


奥のゲートをくぐってこちらに入って来ます


ホテルの入り口

久しぶりにホームページを覗いてみましたら、「当局の要請により11月23日から当分の間営業休止します」とありました。あまり日本では報道されていませんが、スイスも相当コロナ禍がひどいようです。バーゼルは人口が17万人あまりで、面積は平成合併以前の三重県津市とほぼ同じくらいです。日本で言えば小都市ということになります。日本でこの規模の都市でホテルに営業停止をかけている都市はありませんので、状況の深刻さが伺われます。


入り口の前のお庭

このホテルはもともとは監獄だったところで、囚人用の牢屋だった部屋は少し安く、高級な部屋は看守用だったところです。私はいつも「牢屋」に泊まりますが、入り口の高さが低くて壁が妙に分厚いところが牢屋だったことを思わせます。


「牢屋」から外を覗いたところ

このホテルのすぐそばには楽器博物館、それと並んでレオンハルト教会、ここには古いオルガンがあり毎週金曜日にコンサートが開かれます、そして5分くらい歩くとバーゼル・スコラ・カントルムがあります。

またいつものようにこのホテルに宿泊し普通に市内を散策できる日が待ち遠しいです。

Easy Baroque Pieces (1)

2020年12月03日 14時12分58秒 | 音楽系
ヴァイスやバッハが弾きたくてバロック・リュートを勉強し始めた方は多いのではないかと思います。でも実際弾いてみるととても全く手が届かないという経験をされたことがある方もいらっしゃるでしょう。

物事には順番があります。ヴァイスやバッハを弾くためには音楽的な基礎(特にバロック音楽の基礎)が必要ですし、技術的な基礎トレーニングも必要です。また五線譜を書いたり読んだりするルールを知らないのに通奏低音はできません。

昔ギターでプロギタリストが弾くような難しい曲をカジってそれを人前で弾いている人が沢山いました。50年くらい前です。もうボロボロの演奏でピアノやヴァイオリンの学習者が聴いたらあきれてしまうくらいの低レベルでした。でもこれは本人のせいではなく、当時のギター界には教える人もきちんと教えてなかったし、そもそも教程もしっかりしていなかったからでしょう。でも今日ギターの場合はエチュードなんかも充実していてきちんと順序だてて上達していく道筋がついていますので、すでに他のクラシックの楽器と同じレベルの環境で学べます。

ではバロックリュートではどうかというと、実はいい先生も何人かいらっしゃるし楽器もちゃんとしたのが手に入るので、50年前のギターの世界みたいなことはありません。ただ、教材、曲集が極端に不足しています。特に中級者向けの曲集がとても少ないです。いきなりヴァイスのロンドン写本、まぁ見るなとは言いませんが、少しは易しい曲もあるでしょうけど、大体は難しいでしょう。ブザンソンのセズネ写本もなめてはいけません。いやいや、オレはワタシは難しいことにチャレンジするのが生き甲斐だ!という方もいらっしゃるでしょうけど、まぁそうあせらずに。物事には順番があります。いきなりエベレストには登れません。

1年ほど前にバロック・リュートの教則本を上梓(っておおげさなものではないですが)しましたが、後半に名曲集を付けました。10曲ほど初心者レベルから中級に入るくらいのレベルの曲を集めてみました。バロック・リュートを練習する人はまずこのレベル曲がきちんと弾けないとだめでしょう。で現在その続きになる曲集を編纂中です。レベルとしては中級を松と竹の2つにわけると竹の曲を中心に松の曲もおりまぜる、という感じでしょうか。教本の曲集よりは少しレベルが上になります。

Windows10 20H2が落ちてきた!

2020年12月02日 15時20分22秒 | 日々のこと
先月の中頃、私が仕事に使っている自作8号機(実質的には9号機ですが)にWindows10の最新版(20H2)がインストールできるようになった話を書きました。インストールは無事終了しましたが、USB接続の周辺機器のドライバが古いので少してこずった話も書きました。(その後は何も問題は起きておりません)

我が家にはあと2台ノートパソコンがありますが、これらにも20H2が「落ちて」来ましたので早速インストールしました。2台同時にWi-Fiで行いましたので恐ろしく時間がかかりました。放っておいただけなので別に手間はかかりませんでしたが、時間的には6時間くらいかかりました。(8号機は有線で直接ルーターに繋いでいるので3時間くらいで済みました)

ひとつ前のバージョンは2004でその次は20H2となり、このバージョンから名前の付け方が変わったようです。最初の「20」は2020年の下二桁、「H」は半年(half?)、最後の「2」は二つ目の半年、セカンドハーフを表すそうです。ということは次は「21H1」ということになるのでしょうか。

我が家の2台のノートパソコンはほとんど素のままなので、何事もなく普通に稼働しています。これでウチにある3台のWindowsコンピュータはすべて最新のOSになりメデタシメデタシです。

霧の会議

2020年12月01日 14時15分23秒 | 日々のこと
学生の頃は名古屋に向かう電車内でよく本を読みました。読む本は小説か言語学関連の本です。言語学といってもガチガチの専門書ではなく、一般教養的な本でしたが。

小説は圧倒的に松本清張が多かったです。当時文庫で出ていた作品の大半は読みました。たしか読んでいなかったのは時代物の「かげろう絵図」だけだったかな。でも77年発表の「渦」を最後にぱったり読むのを止めました。もう読みつくしたという感じがして飽きてしまったからでしょうか、そこはよく覚えていませんが。そうそうノンフィクションものには興味がなかったので全く読みませんでした。

少し前に「ゼロの焦点」を読み返してみましたが、内容的に古い時代のものという感じが強く残りました。女性のことば遣いとか町の描写なんかが特にそう感じましたが、昔読んだときとは印象が異なり、それはそれで興味深かったです。

ある時本屋さんで「霧の会議」という清張作品をふと見つけ手に取ってみると、比較的晩年の作でヨーロッパが舞台になっているとあったので買って読んでみました。1987年刊行の作品で、1992年に氏は没していますので最晩年の作品です。舞台となっている国はイギリス、イタリア、フランス、スイスで、ストーリーの展開も面白かったですが、それに絡む歴史的な内容、街の詳細な描写が作品に厚みを与えていました。

同作品は私が氏の作品を読まなくなった10年後に刊行された作品ですが、調べてみましたら「その後」も沢山作品を書いていました。うかつにも知りませんでした。「霧の会議」は「ゼロの焦点」のような古さは全く感じませんでした。バブルに至る日本の状況も作品に反映されていてとても興味深かったですが、今の若い世代の人が読むとそれでも古い時代の話だという感じはするのでしょうね。まだ氏の晩年の作品でいい作品がありそうなので、また読んでみようかと思います。