そよ風つうしん

小さな自然の発見をご紹介してきましたが、転居で環境が激変。内容を一部変更し日々の雑感を綴ったりもしています

散り急ぐ花の下にて想う

2021年03月31日 | どんぐり屋のつぶやき
あっという間に満開になったさくらが、今日はもう、はらはらと風に舞っています。

毎年この風景を見ると、想い出す一編の漢詩と一枚の絵、

杜甫の最晩年の詩「江南にて 李亀年に 逢う」

橋本関雪の絵「失意」です。

これも何度もご紹介してきましたので、長くこのブログをご訪問くださっている方は、ご記憶でしょう。

玄宗皇帝や楊貴妃が花やかであった頃の宮廷で、李亀年は歌手として、杜甫は詩人として活躍していました。
けれど、大きな戦いが起きて世の中は一変し、人々の運命は押し流されていきました。

それからどれほどの時間が流れたのでしょう。
あるとき、江南の街角で偶然に二人が出会います。

杜甫は失意の心を胸に抱いての流浪の旅の途中。
李亀年は、雑踏の中で歌を歌い、周囲の人たちからお金をもらって暮らしているようでした。
驚いた杜甫が声をかけて、二人はしばし語り合います。
その時の様子を画家の橋本関雪が描いたのが、冒頭の絵「失意」です。

季節は春。
満開を愛でられた花も、枝を離れて地に落ちれば無残に人々に踏みつけられています。
そんな情景を眺めながら、語り合う二人の心にはどんな想いがあったでしょうか。


ずっと以前ある展覧会でこの絵を見たとき、しばし立ち尽くして見入ったことを覚えています。

初めて見た絵でしたが、ぽつりぽつりと来し方を語りあう二人の声が聞こえてくるような気持ちがして、しばしその場を動くことができませんでした。

毎年さくらの季節には、この絵を想い出して心がしんとするのです。



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2 コメント

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詩は (小坊主)
2021-03-31 21:13:11
七言絶句なのですね。
読んでみると、ごく普通の再会に思えてしまいますが、二人の境遇を知ってみれば、辛い再会ですね。
玄宗の老いらくの恋、安禄山の乱、中国史が思い浮かびます。
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森のどんぐり屋より (小坊主さんへ)
2021-04-01 10:34:49
この出会いの後、数ヶ月で杜甫は無くなったようです。
李亀年がそれを知るのは、おそらくずっと後のことでしょうが、どんな気持ちであったことか・・・

李亀年は、唄の名手であったそうですが、どんな声だったのか、聴きたいような気がします。
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