鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

どんでん返しが面白い「壊れた風景」

2007-04-08 | Weblog
 東京・六本木の俳優座劇場で別役実作の演劇「壊れた風景」を観賞した。別役実の70歳だかの記念で「別役実祭り」の一環とかで、1970年代の作品のリバイバル上演だ、というが、少しも古さを感じさせない見ていて面白い演劇であった。1時間半を一気に見せ、最後にアッと驚かせる一幕までいき、大団円を迎えるところで終幕になる後味にいいものだった。
 舞台中央にピクニックに来た家族連れが蓄音機をかけたまま、どこかへ行ってしまったの荷物がビチパラソルの下に広げられたままになっているところから始まる。そこへ自転車を引いた母娘連れが通りかかり、地図を眺め、場所を確かめる。傍らの蓄音機が壊れかけたまま、同じところをリピートしだしたのが気になるが、人のものだからと手を出しかねながら、会話を続けている。そこへ、セールスマンらしき男性が通りがかり、場所の確認の作業に加わるが、これも壊れた蓄音機が気になって会話がはずまない。
 そして、突如現れた中年のマラソンランナーが飛び込んできて、蓄音機を止めてしまう。このあたり、高度成長期のどこかの農村での牧歌的な人々の交流を思わせる感じで、進んでいく。4人がやれ地図を見たり、やれメガネを取り出したり、トイレに駆け込んだりのドタバタを繰り広げる。
 で、誰もいなくなったピクニックの場にたまたま通りかかったアベックがそっと食べ物をあさっている。そのうちに脱いだ靴下がどこかにいってしまい、探しているうちに先ほどの4人が戻ってくる。驚いたアベックは早々に引き上げようとするが、4人ともピクニックの当人ではないと知り、ホッとする。
 アベックがピクニックの食べ物を少し食べたことを知った4人はそれならと、ビスケットやお菓子に手を出し、ついにはコーヒーまで飲みだしてしまう。最初は遠目に見ていたアベックも誘われ、最後には6人そろって大宴会にまでなってしまう。
 最高潮に盛り上がってきたところへ、トーキーを持った警官らしき人が通りがかり、前を歩き去っていく。関係ない、とわかってホッとしたら、直ちに引き返してきて、トーキーでからの指示を受けたあとで、「あなたたちは一体‥‥‥」と誰何し、一同青ざめたところで、幕となった。興行を妨げることになるので、詳細は書けないが、最後は一体どうなることやら、と思って観ていた予想を上回るものだった。小市民の小市民たる小賢しいところを風刺した劇ともいえる結末であった。
 とても30年以上前の作品とは思えない、現代性のあるいい作品であった。出てくる俳優のいずれもがどこにでもいると思えるさりげない姿と演技で、普段ありそうな話だと思わせる、これも演技だとしたらうまい演技であった。会場が明るくなって、アンケートに記入していると、すぐ前の席に人が集まっているので、見ると大滝秀治と樫山文枝のご両人がいた。演劇人というのはお互いの出来を見合うものなのか、と思った。会場の出口で、大滝秀治氏は「これから稽古だ」と言って別れていったのが印象的だった。
 観客はほとんどが50年輩の人ばかりで、若い人はチラホラといった感じで、鈴木忠志氏が演劇の未来を嘆くのもうむべきことかな、と思った。
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