prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ジャンパー」

2009年08月11日 | 映画

なんだか「どこでもドア」みたいな能力で、主人公の考えが浅くて幼児的でろくな使い方しないところ、体だけ大きくなったのび太みたい。
しかも図書館を水びたしにして逃げるわ、銀行の金庫から金は盗むは、世界遺産はオモチャにするわ、やることがタチが悪い。
途中から恋人のためにちっとは成長するのかと思うとそんなことないし、敵役の設定はいいかげんだし(サミュエル・L・ジャクソンの言うことの方が筋が通って聞こえる)、見せ場の作り方もちょこまか移動するだけで案外スペクタクルにならないしで、見ていてだんだんアホらしくなってくる。
(☆☆★★)


「トランスポーター」

2009年08月10日 | 映画

運び屋って設定が、途中からかなりどうでもよくなってくるね。
見せ場はカーアクション、ドンパチ、肉弾戦と揃っているので、まあまあ飽きないけれど、特に興奮もしない。油まみれになって滑って立っていられない立ち回り、という「空手バカ一代」にもあったような趣向がちょっと目新しいくらい。
リュック・ベッソン・ブランド(原案・脚本)って、アメリカ映画ほど見せ場のパンチは効かず、フランス映画的なエスプリは薬にしたくもない。
(☆☆☆)

「ボルト」

2009年08月09日 | 映画
ボルトと仲良しの女の子のキャラクター・デザインが日本のアニメの萌え系キャラみたいに過剰に可愛らしくなく、ちょっとそばかすが浮いたようなリアルな調子なのがいい。ボルトも「可愛い顔」を覚えるくだりで可愛いところは見せるが、それ一辺倒ではない。
皮肉屋の猫とオタクっぽいハムスターという脇役の性格づけもしっかりしている。

字幕版で見たのだが、突然字幕が黒くなるところがあるのにはちょっと当惑した。バックが白っぽいからには違いないが、白い字と黒い字がかわりばんこに出てくるのは違和感がある。

ボルトは現実とドラマの境目の見分けがつかないキャラクターなのだが、ドラマには大幅にCGが取り入れられているわけで、視聴者はともかく出演者が撮影時には見えてない部分を自分が生きている「現実」と思うのはムリがある。

いったんアメリカ大陸の東西の端から端に運ばれてしまって、そこから帰ろうとするロード・ムービーでもあるのだが、ストーリー上の省略が利きすぎてその運ばれた長い距離があらかじめぴしっと観客に打ち込まれていないのが、ちょっと弱い。

併映は「カーズ」のスピンオフの短編。なんと東京が舞台で、東京タワーのてっぺんをゴールにしてドリフト走行を競う。東京タワーに自動車が上れる螺旋通路があったり、なぜか「ハリーハウゼン」とカタカナで書かれた店があったりするのが変。「ワイルド・スピード3」でもやっていたが、東京ってドリフトの本場のイメージがあるのか?
(☆☆☆★★)


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「いのちの食べかた」

2009年08月08日 | 映画

キューブリック作品のようなクールで左右対称の構図の多いヴィジュアルで、極度に清潔で無機質な環境と血や臓物などの生々しさのコントラストが強烈。ナレーションも字幕も音楽も使わない、ちょっと環境ビデオみたいな美的な作り。

牛の額に何か棒のようなものを当てるとぱたっと息絶えてしまい、そのまま逆さ吊りにされて運ばれる、生物が一瞬にしてただの物になってしまう衝撃。前はボルトを圧搾空気で頭に打ち込んで屠殺していたと思うが、あれもその一種なのか。ばかに軽々と扱っていたが(後注・今だとスタンガンを額に当てて気絶させてから殺すらしい)。

豚の足をぱちりぱちりとチェーンカッターみたいな鋏でちょんぎっている光景や、切られた牛の喉から工業廃棄物のような勢いでどっと血が流れ出る情景、あるいは興奮した牛の精液だけ横取りして交尾させずにお役御免で連れ去るシーンなど、おそろしく淡々としている分、逆に目に焼きつく。

工場労働者の食事の場面が何度もはさみこまれるが、これがもういちいち不味そうなのだね。前後の文脈のせいもあるだろうし、あちらの下層労働者(でしょ)の食事自体がかなり殺風景なものなのかもしれないし、一人きりで食べているからでもあるだろう。
今の日本の屠殺場に勤めている人は何を食べているのだろう。コンビニ弁当だろうか。(「被差別の食卓」 (新潮新書)によると昔は、臓物を油で揚げたりしていたらしいが)。
(☆☆☆★★)



「拳銃王」

2009年08月07日 | 映画

グレゴリー・ペック扮する有名なガンマンに、彼をやっつけて名を上げてやろうという若者がぞろぞろまとわりついてくる、いつ殺されるかわからない神経症的なスリルが眼目。
撃たれたあと、撃った相手にこれからの運命を告げるあたりで、かつて彼自身かつてそういう野心満々の若者だったことがうかがわれ、元無法者でもうまく立ち回って保安官におさまっている旧友の設定が皮肉なコントラストを作っている。

オープニングとエンディングの雲が厚くたれこめた空の下を馬で往くガンマンの姿のが頭の上に蓋をしているようで(撮影・アーサー・ミラー)、全体に西部劇としてはアウトドアの場面が少ない。50年代にはかなりこういう欝的ウエスタンが増えたらしい。ハリウッドが赤狩りの最中だったせいか。
主舞台になる街の酒場と保安官事務所が通りを隔てて対角線上に位置していて間を人が行き来したりするほか、なんともいえず画面に奥行きを出している演出。
(☆☆☆★)


「光州5・18」

2009年08月06日 | 映画

市民といいながら、軍に行ったことのある者と言われて、大勢名乗り出る。ああ、なるほど韓国は徴兵制があるのだなと思わせる。
棍棒でボコボコに殴り倒すだけでもひどいが、自動小銃での一斉射撃というのには、これが1980年の出来事というのに驚く。

アン・ソンギ扮する予備役軍人がやたら格好よく、「軍隊」の本来のあり方を模索している感じがする。これも日本ではなかなかありえない。
ヒロインのイ・ヨウォンが清楚で魅力的。

どういう経緯でこういう大弾圧になったのか、というのはわかりにくい。韓国本国では説明するまでもないのだろうか。日本だと同じ頃のバブルの様子を大学生に説明するのは難しいのだが。

軍がずらりと勢ぞろいしているシリアスな局面で、相手が手を出せないからとなめているからとはいえ、ものすごいベタな笑いをとろうとするのにびっくり。関西的な感じというか。
(☆☆☆★★)


「わが幼少時代のポルト」

2009年08月05日 | 映画
自伝的作品で、ここまでセンチメンタリズムやノスタルジアといった情緒が薄い作りも珍しい。
生家の様子はボケた写真だけ、さまざまなエピソードも感情移入できるドラマ仕立てではなく、いったん多くは他人の手による音楽や舞台といった作品のコラージュといった体で、自分の人生をポルトガルあるいはヨーロッパの文化史と重ねて描いていて、まあ100歳近い監督だとこういう作り方をしてもいいのだろうけれど、およそとっつきにくい。
(☆☆★★★)


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「REC/レック」

2009年08月04日 | 映画
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「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」「クローバー・フィールド」式の擬似ドキュメンタリー風ホラー。どういうわけかあるアパートにゾンビが発生し、当局によって住民とテレビクルーが閉じ込められてしまう展開はなかなか工夫が利いている。カメラを無造作にまわしっぱなしにしているようで、ゾンビに噛まれて血が噴き出ている特殊効果を併用するというのは、かなりの高等技術ではないか。

若い女のテレビレポーターのはしゃぎっぷりが最初からかなりうざくて、しばしば被写体になる人に「撮るな」と言われているのにカメラを回し続けるあたり、どこの国も不愉快なものらしい(これはスペイン映画)。それにしっぺ返しがくる展開はちょっと爽快。カメラマンがやられて、カメラが死者の目になるのが不気味。
(☆☆☆★)


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●REC@映画生活

「歓喜の歌」

2009年08月03日 | 映画

小林薫扮するいい加減な公務員の仕事ぶりは、原作の落語だったら通るけれど映画でリアルな形で見ると、コレ訴訟ものだぞと思わせる。ラストでできもしないのに服の手直しをしようとするあたりも、本来笑うところが微妙に頬がひきつる。難しいところ。

コーラスが見せ場になるからとうぜん数々の音楽が使われるわけだれど、途中でぶちっと切れたり、題名にもなっているベートーベンの歓喜の歌を歌いだすずっと前から前奏が流れたりと、あまり処理がうまいとは思えない。
(☆☆☆)


「夜顔」

2009年08月02日 | 映画

ルイス・ブニュエル監督、ジャン=クロード・カリエール脚本による「昼顔」の38年後の後日談。
出だしからドボルザークをえんえん流し、正面切った固定画面を重ねていくのだが、おそろしくまわりくどい語り口。もったいぶっているのと格調高いのとが背中合わせになっているみたい。
わけあり女性の、その「わけ」を知っている爺さんの下心ばりばりのつきまといっぷりが煩悩まんまんなのは面白い。
(☆☆☆)


「サンシャイン・クリーニング」

2009年08月01日 | 映画
日本で実際に自殺や孤独死した人の部屋の後始末をしている業者さんのブログ「特殊清掃『戦う男たち』」では、下手すると数週間放っておかれた遺体がどれだけものすごい状態になるか詳しく書いてあります(特に昔の記事)。
死体が転がっている室内で襖を開けると生首が並んでいる!と思ってぎょっとすると、マネキンの首だけがなぜか並べてあっただけ、とか、握りこぶしほどもある巨大なウジが!と思ったら石鹸だったりといった笑いも混ざっているけれど、そういう具体性やディテールはこの映画には乏しい。

だいたい、主人公たちが現場に来た時すでに片付けられて死体は出てきませんからね。そこまで描いたら、いかにインディ系でも商業ベースには乗らないだろうが。
だから「仕事」そのものの大変さやブラックさが、それほど強く感じられない。
もう少し一般的な家族の話に寄せてまとめましたという感じ。

「24」の仏頂面の捜査官メアリー=リン・ライスカブがやはり仏頂面で登場。
(☆☆☆★)


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