キューブリック作品のようなクールで左右対称の構図の多いヴィジュアルで、極度に清潔で無機質な環境と血や臓物などの生々しさのコントラストが強烈。ナレーションも字幕も音楽も使わない、ちょっと環境ビデオみたいな美的な作り。
牛の額に何か棒のようなものを当てるとぱたっと息絶えてしまい、そのまま逆さ吊りにされて運ばれる、生物が一瞬にしてただの物になってしまう衝撃。前はボルトを圧搾空気で頭に打ち込んで屠殺していたと思うが、あれもその一種なのか。ばかに軽々と扱っていたが(後注・今だとスタンガンを額に当てて気絶させてから殺すらしい)。
豚の足をぱちりぱちりとチェーンカッターみたいな鋏でちょんぎっている光景や、切られた牛の喉から工業廃棄物のような勢いでどっと血が流れ出る情景、あるいは興奮した牛の精液だけ横取りして交尾させずにお役御免で連れ去るシーンなど、おそろしく淡々としている分、逆に目に焼きつく。
工場労働者の食事の場面が何度もはさみこまれるが、これがもういちいち不味そうなのだね。前後の文脈のせいもあるだろうし、あちらの下層労働者(でしょ)の食事自体がかなり殺風景なものなのかもしれないし、一人きりで食べているからでもあるだろう。
今の日本の屠殺場に勤めている人は何を食べているのだろう。コンビニ弁当だろうか。(「被差別の食卓」 (新潮新書)によると昔は、臓物を油で揚げたりしていたらしいが)。
(☆☆☆★★)
淡々と流れる映像の衝撃性があります。でも私たちはこの「いのち」を頂いて生きているので、避けられない。
苦しいけどやっぱりというジレンマを感じました。
この映画にはやっぱり言葉は不要ですね。
「いのち」がいのちとして扱われていない、という不気味さも強く感じました。