prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「牛泥棒」

2008年09月26日 | 映画

牛泥棒と疑われた三人組を町の人間が証拠もなしに集団ヒステリーからよってたかってリンチにかけて吊るしてしまった直後に、泥棒は別にいて捕まったのがわかるという、最近だったらイラク戦争勃発を彷彿とさせる何やら肌に粟を感じさせる話。
クリント・イーストウッドが若いときに見て強い印象を受けたというが、行き過ぎた自警思想の現れという点で「ダーティハリー」に自然に結びつく。
1943年製作で、エンドタイトルの後に映画館で戦時国債を売っているから買いましょうという呼びかけのタイトルがついている。日本で劇場公開されそびれたのも、戦争をはさんだ上、アメリカ・デモクラシーの暗部を扱っていたからだろう。

ヘンリー・フォンダが一応主演だが、街にたまたまやってきたよそ者という傍観者的な役で、吊るすかどうか多数決を取る時に反対にまわるが、結局は多数に押し切られる。まるで1957年に製作・主演した「十二人の怒れる男」の裏返しのよう。

上映時間は75分という短さで、牛は一頭も出てこないという舞台劇的ですらある構成。リンチ場面の吊るされた男たちのシルエットの見せ方など、簡素で効果的。
全編の締めに当たるリンチで殺された男の家族への手紙をフォンダが朗読する場面で、相棒の帽子のつばで顔が隠れたまま、というのが手紙の内容を映画全体のテーマとして強く打ち出す効果あり。
DVDの特典についているオリジナル予告編では、フォンダがラマー・トロッティの原作本を見せてすぐれたストーリーであることをアピールしている。

「怒りの葡萄」でフォンダの母親役をやっていたジェーン・ダウエルがリンチ側のイヤなババア役で出てくる。何やら「東京物語」の慈母役の東山千栄子が「風花」では嫁いびりの姑役で現れたようなイメージの落差(顔がちょっと似ている気がすることからの連想)。
メキシコ人役で英語がわからないふりをしているが実は十もの言葉を使えるとうそぶいて吊るされる男が、当時28歳のアンソニー・クイン。撃たれた脚から自分で銃弾をナイフでほじくり出すというふてぶてしいところを見せる。
原題The Ox-Bow Incident。
(☆☆☆★★)



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