伝道者の書について

 「エルサレムでの王、ダビデの子、伝道者のことば。空の空。伝道者は言う。空の空。すべては空。」(伝1:1-2)

 「私は事業を拡張し、邸宅を建て、ぶどう畑を設け、庭と園を造り、そこにあらゆる種類の果樹を植えた。木の茂った森を潤すために池も造った。
 私は男女の奴隷を得た。私には家で生まれた奴隷があった。私には、私より先にエルサレムにいただれよりも多くの牛や羊もあった。
 私はまた、銀や金、それに王たちや諸州の宝も集めた。私は男女の歌うたいをつくり、人の子らの快楽である多くのそばめを手に入れた。
……
 私は、私より先にエルサレムにいただれよりも偉大な者となった。しかも、私の知恵は私から離れなかった。
 私は、私の目の欲するものは何でも拒まず、心のおもむくままに、あらゆる楽しみをした。実に私の心はどんな労苦をも喜んだ。これが、私のすべての労苦による私の受ける分であった。
 しかし、私が手がけたあらゆる事業と、そのために私が骨折った労苦とを振り返ってみると、なんと、すべてがむなしいことよ。風を追うようなものだ。日の下には何一つ益になるものはない。」(伝2:4-11)

 「あなたの若い日に、あなたの創造者を覚えよ。わざわいの日が来ないうちに、また「何の喜びもない。」と言う年月が近づく前に。」(伝12:1)

 「兄弟たちよ。私は、自分はすでに捕えたなどと考えてはいません。」(ピリピ3:13)

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 最初に旧約聖書をざっと読んでみて理解できたのは、この伝道者の書(コヘレトの言葉)だけだ。
 そのことは、当時、妻と共に共感し合った。
 「分かる分かる、『空の空』、この『かそけさ』、分かるねえ」、と。
 今の私は、当時のその見解を撤回させて、180度転換させている。

 この伝道者の書の作者は、ソロモンだろうと思う。1:1を、ほぼ額面通りに、私は受け入れている。
 彼は、知恵のある人だった。
 知恵によって国を興隆させ、「ソロモンの栄華」(マタイ6:29)にまで至った。
 すると、そこでおぼれてしまって、妻700人、そばめも300人という王様に堕してしまった。
 そしてこのソロモン没後、栄華を極めたはずのイスラエル王国は、あっという間に南北に分裂する…。
 これらのことは、やはり史書をご参照いただこう。
 繁栄しすぎた結果、著しく腐敗してしまったのではないか、どうもそのような気がする。

 「あなたの若い日に、あなたの創造者を覚えよ」、この箇所に至っては、老ソロモンの絶望感に満ちた叫び、そのような気もする。
 ソロモンは(ダビデと違って)、神に頼まずもっぱら自らの知恵に頼って成功しまった。そこでおぼれてしまって、あれこれやって、しかしどこにも満足など見いだせず、遂に神を見いだすことが叶わなかった老いた自らに思い至る。
 「俺のようにだけはなるな! お前は神を見いだせ、それもできるだけ早く!!」、そのような絶叫のように聞こえるのは、私だけだろうか。
 「何の喜びもない」、この言葉は、ずしりと重い。

 ダビデはなにしろ、あれだけの波瀾万丈の人生、その一生を、神と共に歩んだ。というよりか、何度も裏切りに会うダビデは、神に頼るほかなかった。
 そう、神を見いだしたダビデ。
 対してソロモンは天下太平、繁栄の浮き世に身をやつし、気付くと神を完全に見失って、そうして気付くと絶望的な絶叫をせざるを得なくなった。
 そう、神を見いだせなかったソロモン。
 裏切りに次ぐ裏切り、周り中皆が敵、そのさなかにあって孤独から程遠かったであろうダビデ。
 対して、1000人の女、数多の部下、子どもたちの中に囲まれ、孤独の極みを痛感したであろうソロモン。

 以前、どこかの記事で「ダビデとソロモンの違い」の仮説について少しだけ書いたが、その「仮説」とは、ここに記したように、二人は対照的な存在なのではなかろうか、ということであった。

 そして私は全く知らなかったのだが、今私が綴っているこの「見解」は、とある高名な先生と全く一致している…、つい最近になってそう指摘してくれた妻自体が、その「一致ぶり」にひどく驚いていた。

 繰り言になるが、「何の喜びもない」、この言葉は、ずしりと重い。

 さて、旧約聖書の諸書物のなかには、私は個人的には御用済み、というものがある。
 「雅歌」のお世話になったことは一度もないし、また、これからもなかろう。この「雅歌」もまた、ソロモンの作と聞く。
 今日取り上げた伝道者の書、この書物も、今の私は御用済み、そう思う。
 そう、この「伝道者の書」から「卒業」できるかどうか、これは、とても大きい分水嶺の類のような気がしてならない。

 かくいう私も、最晩年のパウロをして「すでに捕えたなどと考えて」などいないと言っているの同様、いや、それ以上に、「これで分かった!」なぞとは、つゆだに思っていないことは付記したく思う。
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