今日は地元釧路信用金庫が主催する釧信フォーラムが開催されました。
今回のテーマは「東日本大震災への対応~地域にできること、なすべきことは」というもので、さすがに今は最もホットなテーマであるために人気もホット。プリンスホテルの広い会場がほぼ満員です。
まずは基調報告として四人の方がそれぞれの立場で震災について語ってくださいます。メンバーは、釧路信用金庫の森村理事、ほくとう総研の石森顧問、釧路市の蝦名市長、そして鶴賀グループの大西社長の皆さんでしたが、印象的だったのは大西社長のお話でした。
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まずは、3月11日の大震災以降の宿泊観光への影響としては、262千人の予約キャンセルがあり、海外客は100%キャンセル。JTB発表では先行予約は東北海道で、対前年60%以下に落ち込んだのだそう。以下は大西さんの発言です。
大震災以降は、旅行も予約の形態もいろいろなものが変化してきました。四月の初めはどうなるかと思いましたが、不思議なことにGW直前の四月末から予約が急に盛り返してきて、ゴールデンウィークの結果としては対前年95~120%となりました。是非この先も何とか乗りきりたいという希望を抱いています。
長く北海道を引っ張ってきた団体ツアー観光や台湾からなどの外国団体からは、福島県を含めて『東北以北』と捉えられているようで、北日本全体で放射能の影響が心配だと思われています。東北も北海道もひとくくりにされる風評被害が起きているのです。
その原因は、「福島の上を飛行機で飛びたくない」という原発を避けたい心理が働いているようで、やはり早く原発事故は収束させていただきたいものです。
一方、個人旅行では道外へ行けないためか、道民による道内旅行が盛り返してきているのですが、これもまた地域や業態の格差が著しく、団体大型旅館やドライブイン、バス会社などは相変わらず厳しいようです。
こうした業態はこれまでも少しずつ厳しくなるという変化でしたが、大震災以降はその変化が断層的に大きく変わった感じがします。
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残念な話ばかりではなく、少しは目線の上がるような希望の持てる良い話もご紹介いたしましょう。
①道央圏の中学生が大挙して東北海道方面へ修学旅行の行く先を変えてくれました。修学旅行は行く先変更を決めてから三年先くらいにようやく実現するくらいのゆっくりした動きだったのですが、今回の事態の中で急遽事情が変わりました。
道教委にはこれからも、「中学校までは北海道の地元意識を醸成するために郷土文化、アイヌ文化などを学んで欲しい」と訴えていきたいと思っています。
②海外からのお客様の中でも、5月28日には台湾立法院の王院長が来釧してくださいました。おかげで台湾からのお客様が4月は1600人程度でしたが、5月には数千人になりそうです。
中国へは高橋知事も自ら中国へ行き安全性を自らアピールしてくれてありがたいことです。
③またその一環として、宿泊業界も1000万円を出した総額1億円で、6月1日から『暑い内地を離れて涼しい北海道へきてください』という『北海道クールキャンペーン』を行うこととしています。
長年の懸案だった道東道の夕張~占冠間はこの秋に開通を果たすことから、道央圏と道東へ向かう大きな流れができるのではないかと思っています。
これに向けた大キャンペーンを行うつもりですが、残念なのは高速道路無料化の社会実験が取りやめられることです。
社会実験の廃止は、震災復興財源の捻出が目的ということですが、我々北海道も被災地なのであって、二次被害が大きいことを忘れて欲しくありません。北海道は東北、関東についで被災額が大きいのですから、こういうダメージから地方が立ち上がるためには、地方の疲弊度を救うような、きめ細かな地域対応が社会実験としては相応しいのではないでしょうか。
④ミシュランのグリーンガイドに、8箇所新しく三つ星認定を受け、それに知床、摩周湖、阿寒湖が含まれました。三つ星クラスの自然の宝庫なのだということを欧米やアジアに伝えられる大きなチャンスだと考えて作戦を考えたいと思います。
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私たちは長い間自国の歴史を『戦前・前後』と分ける歴史教育を受けてきましたが、後の歴史家は、『震災前・震災後』という時代区分を用いて社会を説明するようになるのではないでしょうか、つまりパラダイムの大きな転換を迎えたということです。
観光面で言うと、長期休暇を取ろう、分散休暇を取ろう、サマータイムを取ろう、という風に都会のライフスタイルは変わるでしょうしレジャー形態も断層的に変わるに違いありません。
これだけ社会の環境やライフスタイルが変わる中で、我々の観光という業種自身も根底から変わらなくては行けないのではないでしょうか。実は今までずっとやりたいと思っていながらやれなかったこと、平時ではできなかったであろう改革に手をつけられるのではないか、と思うのです。
例えば、宿泊で言うと、お客様と業者との間にミスマッチができていました。例:一泊二食でお仕着せ料理、子供料金は大人の七割、ひとりのお客は嫌われている…、ペットはお断り…、などなど時代のニーズを捉えられずに見ないふりをして対応せずに来たのではないか、と思われる事柄は多いです。
我々観光業者の側からお客様の方に飛び込めるチャンスが来たと思う。
最近聞いた中で心に残ったのは、阿寒湖温泉のアイヌの長老の話でした。アイヌは常に天の神を恐れ敬ってきたが多くは畏れであったこと。
そしてそれをいましめとして子々孫々に伝えてきたこと。昔のアイヌの知恵は地名や伝承で残っていたはずだが、人間がある種のおごりの中で、自然の力を「想定内」と「想定外」に勝手に押し込めてしまったのではないか。
津波の高さ、原子力を人間が制御出来ると考えてしまったのであって、人類は初心に返らなくてはならないのではないだろうか、というのです。
また先日、湿原塾の月尾先生の講演を聴きましたが、そのお話のなかで、ほとんどの神社仏閣など、時間によって長く洗礼を受けたものはことごとく大丈夫だったのだそうで、アイヌは初心、月尾先生は謙虚という言葉で表現されたことは同じようなことだと思いました。
多くの国民も同じようなことを考えたのではないでしょうか。大震災はそれを考えるきっかけだったわけで、アイヌの人たちの教えの中にはそうした事への道しるべがあると思います。
「北の大地でもう一度人生を考えてみませんか」というメッセージをこれからなお一層発して行きたいと思っています。
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この大震災直後という時期は、変えたいと思っていたけれど日常に流され、着手するきっかけをつかめずにいた事柄に真剣に手を付ける絶好の機会なのかもしれません。
やれることをコツコツと、それでいて素早く続けることで新しい時代の観光の姿を見極めてゆきたいですね。
北の大地で世界を深く考える「北の哲学ツアー」などが売れるようになればまた北海道に人気が集まってくることでしょう。
これもまたコツコツの一つです。
都会の真ん中で考えたことと、北海道の広い自然の中で考えたことでは思うことは違うような気がします。
北海道の特に道東の魅力はまだまだPRが足りないと思います。この夏、実際に訪れた方々の感動の言葉があふれるといいですね。