去る4月23日の日経新聞の「Analysis」という欄に京都先端大学教授の名和高司教授が「『エシックス経営の時代』倫理を軸に行動原理を持て」という記事を書かれていました。
世界を覆う狭隘な利己主義と利益至上主義が横行する中、世界レベルの共生という理念が急速にしぼみつつある、という危機感があるといいます。
日本企業にはパーパス経営を標榜しながら見せかけのそれらが横行し、コンプライアンス違反が目立ちその結果ますますコンプライアンス強化が叫ばれ、企業は委縮するばかりと。
正しい未来に向けてはこの負のサイクルを反転させる必要があり、そこで注目されているのが"エシックス(倫理)"であり、これは「社会的な秩序を維持、発展させるための行動原理」と定義されています。
名和先生はその要件として「社会的な秩序」「維持するだけでなく発展するということ」「理念だけではなく実践・行動をすること」の三つを上げています。
そして何が善かを判断する基軸がエシックス(倫理)なのだ、とおっしゃいます。
しかし具体的に倫理とは何かについては語られておらず、そして正しい判断をしたうえで行動をせよ、と言います。
もともと日本には「三方良し」や「自利利他」などのように倫理面を強調した経営がなされている事例が多いはずなのに、バブル期以降英米流の株主資本経営が世界標準と勘違いして「平成の失敗」をもたらした、と。
おっしゃることは「倫理を大切にした経営理念を持ち、それを実践せよ」と言っているものの、このようなことは先に述べた「三方良し」と同じであり、さらには私が辛抱する二宮尊徳の「報徳思想」を学べば用は足りるように思われます。
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報徳思想の中には既に、倫理的経営理念も実践のための具体的な行動様式はパッケージとして完成しています。
報徳思想が教える倫理的経営理念としては「至誠」「勤労」「分度」「推譲」という四つの徳目が挙げられます。
これは誠実な心でまじめに働き、分限をわきまえて余ったものは他に譲れ、と実に具体的な実践行動を教えてくれます。
また「報徳は実践にあり」と述べ、ことさらに理念を説くことだけを進めているものではありません。
名和先生の説明の中には「統治から自治へ」として、一人ひとりが経営理念を自分事として捉えることが不可欠だ、と述べられていますが、ではどうやったらそれが叶うのかには触れられていません。
報徳では常会と言って月に一度、参加者が集まって意見交換をする実践の場があります。
ここでは「芋こじ」と言って、皆がが語る中で一人ひとりがいかにあるべきかに気づくような、現代で言えばワークショップを行います。
誰かが教えるのではなく、皆が平等に語り合うことで"気づいて行く"のだと。
二宮尊徳の弟子たちは生前の尊徳の言葉や振る舞いを本にまとめ「二宮翁夜話」や「二宮先生語録」「報徳記」などの名著が並びます。
言葉を変えた新しい概念を持ち出す前に、まずは歴史という時間の荒波を得てなお燦然と輝く名著を読むところから始めてはいかがでしょうか。
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