駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

久松エイト『NEON』(集英社EYE COMICS Bloom)

2018年05月20日 | 乱読記/書名な行
 人気ファッション雑誌「CROQUIS」の読モとして人気を博している多田明良には秘密がある。それは地方からの上京組であること。しかしひょんなことから同じ読モの波野彦一にそのことを知られてしまう。初めこそ動揺や焦りから彦一に当たってしまっていた明良だが、彦一の優しさに次第に心を開いていき…スタイリッシュ&極上ピュア・ラブ。

 またしても、キャラ設定と関係性はいいのに話の運びに繊細さが今ひとつなくてもったいないBLに出会ってしまいました。ネーム直させてくれ、もったいないもったいないもったいないよ! もっと萌えられる作品にできたよコレはー!!
 読モってのがまずおもしろい題材だと思うのです。でもそれがきちんと、どころかはっきりと描かれていないのがまずもったいない。
 そしてメインのキャラクターふたりがどちらもトーン髪なのがとにかくいただけない。描き分けられているつもりなのかもしれないけれどわかりづらいよー、ベタに白髪と黒髪とかにすればいいのに。ああもったいない。そしておそらくモデルとして、目つきや顔つき体つきなんかもすごく違うけど組むとすごくバランスが良いふたり、という設定なんだろうけれど、それを描写するだけの力量がないのも惜しい。ホントもったいないよー。

 キャラはものすごく立っていて、いいんですよねー。ツボりました。
 ど田舎出身で、でも美しいものやとんがったファッションが大好きで、地元では浮いていて、家族や周囲の反対を押し切って上京してきて、今は美しいものばかりに囲まれて幸せで、自分のために美しく装って、それがお金になる仕事ができて楽しくて、仲間もできて、でも口下手でコミュ障で友達ができない明良。
 片や、横浜出身の大学生でなんとなくバイトを始めただけの、友達も多くて彼女もいたことがあって優しくておおらかな彦一。でも今時でこんな名前なんだったらなんかそこにもドラマがありそうだけれどなー。あと描き下ろしの番外編で明良の帰郷につきあうエピソードがあったけれど、こういう中途半端に都会に生まれた人間は田舎にものすごいあこがれを抱いていたりするものなので、そのあたりにもドラマがあったはずだけれどもなー。
 ともあれそんな彦一が明良に友達のなり方を教えて、友達になって、さらにドキドキするようになんかなっちゃったりして…
 明良は撮影で彦一にキスとかしてくるんだけど、単にその角度だと顔と服が一番綺麗に見せられるから、みたいな理由だったらしく、彦一は混乱して…
 みたいな、まあ、「この感情はなんなんだ? 恋なのか? 相手は同性なのに? そして向こうはこっちを本当のところどう思っているんだ?」みたいな葛藤を楽しませるべきお話なんだと思うんですけれど、まず男女の描き分けができていないから(ヘアメイクに女性キャラがいる? ファンの女子は出てくる)その差異が出なくておもしろくないし、虎と和は公認のゲイカップルっていうことなんじゃないのかなと思うんだけれど(というか私が担当編集者だったらそうさせるけれど)それもきちんと描かれていないから主人公たちとの差異も出なくておもしろくない。何より彦一が、自分が「同性である」明良に惹かれていることにとまどう、というくだりがないので、なんなのこの世界では同性愛は普通のことで障害でもなんでもないの?ってなっちゃってつまらないんです。読者は障害や葛藤に萌えたいんだからさ。イヤ本当は差別も障害なんかもない世界が理想なんだけれど、今のところ残念ながら世界はそうはなっていないじゃないですか。だから悩む、けれど乗り越えて愛を取る、みたいなドラマが見たくて人はBLを読むんでしょう? 少なくとも私はそうです。なのに同性であることに葛藤しないなら意味ないじゃん。てかそんなふうにナチュラルに受け入れちゃうこの世界にはリアリティがなくなっちゃって、だとしたらその世界にいるこのキャラクターたちの感情にもリアリティが感じられなくなっちゃって、読者は感情移入できなくなって引いちゃうんですよ。ああもったいない。
 明良の方は、天然というか無垢というか妖精というかで、「何で抜いてるの?」と聞かれて「抜くって何を?」と聞き返しちゃうようなコドモで、だから唯一の友達である彦一にただ無心に懐いているだけのようでもある。また美至上主義だから、映りがいい美しい組み合わせとしての自分と彦一、を愛しているだけのようにも思える。それが、明良に惹かれ始めてしまった彦一には不安で不満で、明良と距離を取ろうとし、それが明良を困惑させ…
 って流れなんだけれど、連作短編みたいな形で視点人物が交互に入れ替わるのはいいとして、それぞれの立ち位置をクリアにして、その上でそのキャラが相手の何をどう誤解していて何に悩んでいるのか、をきちんと読者にわかるように見せないと、読者は萌えられないじゃないですか。くっつくゴールなんてハナからわかってんだからさ。そこはほとんど計算というかセオリーで作れるところなのになあ、ひとりよがりでわかりづらいんだよなあ。だから担当編集者が指摘して修正させて客観性を持ち込むべきところなんですよ。それだけで全然伝わりやすくなるのに…せっかくこんなおもしろいキャラクター設計をしておいて、そこがザルだなんてホントもったいなかったです。
 知らないレーベルですが、元は電子とかなのかなあ? 大手ではBLはうまくいかないことも多いけれど、それは結局は漫画家の質とかより担当編集者のノウハウの有り無しの問題だと私は思っています。さて、どうなんでしょうかねえ…?

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