駒子の備忘録

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千早茜『クローゼット』(新潮社)

2018年04月18日 | 乱読記/書名か行
 秘密と傷みに縛られ、男性が苦手なまま大人になった洋服補修士の女。要領よく演技するのが得意だが、本当に好きなことから逃げてばかりいるフリーターの男。洋服を愛している、それだけが共通点のふたりが、18世紀から現代まで一万点以上の洋服が眠る美術館で出会い…洋服と人間への愛にあふれた、心の一番弱くて大事なところを刺激する長編小説。

 素敵な装丁と装画の一冊でした。でもせっかくこんなに今日的なモチーフを扱っているのに、ストーリーがないよドラマがないよこれだけなんてもったいないよ!
 男性に生まれて、でも女性の服が大好きで着るのも好きで、でも同性愛者であるとかトランスジェンダーであるとかではない(…多分。というかそのあたりがほとんどこの作品では描かれていない。でも単なる女装趣味とは違うようには描かれている、のだと思う)ハンサムな青年。男性とつきあうより女性の群れにいる方が楽で、でもそこにも求めるものが得られないでいる…
 そんな彼を幼いころには女の子だと思っていてともに遊んでなんならお姉さんぶって守ったりかばったりして、そのせいでとある怖い思いをして以後、男性不信になってしまって通常の社会生活もおぼつかない女性。
 その親友で、クールで美貌のハンサムウーマンで、仕事ができて、でもかつては太っていてかつ家庭に恵まれていなくて…という女性。
 こんな設定の三人が揃って、でも特に話がないままに終わるなんて意味不明すぎますよ…! 別に恋愛を描けとか成長を描けとかそんな単純なことは言わないけれど、でももっと何かあるべきでしょう。美術館の成り立ちとか、いろいろ思わせぶりに伏線引いておいて放り出しっぱなしじゃないですか。あのカメラマンとかも。なんなんだよー。何がやりたくて書いた小説なんだよー。
 『硝子のコルセット』というタイトルから改題したそうです。それはとてもいいなと思いました。だからこそ、なんか、ホントもったいなかったです。ねちねち楽しく読み進めてきただけに、「えっ、これで終わり!?」とけっこう呆然としてしまいました。しょぼん。


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