駒子の備忘録

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『メリー・ポピンズ』

2022年04月18日 | 観劇記/タイトルま行
 シアターオーブ、2022年4月17日12時半。

 20世紀初頭のロンドン。煙突から現れた煙突掃除用の箒を持ったバート(この日は大貫勇輔)がチェリー・ツリー・レーンへ誘う。バンクス家ではさまざまな問題を抱えていた。ジェーン(この日は深町ようこ)とマイケル(この日は高橋輝)は手に負えないいたずらっ子で、子守が次々とやめていくのだ。子供たちは自分で子守募集の求人広告を書くが、父親のジョージ(この日は山路和弘)に破かれてしまう。暖炉にくべられたチラシは煙突から風に舞い上がり、すると子供たちの希望にぴったりの子守、メリー・ポピンズ(この日は笹本玲奈)がやってきて…
 オリジナル音楽&作詞/リチャード・M・シャーマン&ロバート・B・シャーマン、脚本/ジュリアン・フェロウズ、追加歌詞&音楽、ダンス&ヴォーカル・アレンジ/ジョージ・スタイルズ、追加歌詞&音楽/アンソニー・ドリュー、訳詞/高橋亜子、翻訳/常田景子、演出/リチャード・エア、共同演出・振付/サー・マシュー・ボーン、舞台美術・衣裳デザイン/ボブ・クロウリー、音楽監督・歌唱指導/山口琇也。2004年ロンドン初演、18年日本初演のディズニーとキャメロン・マッキントッシュが共同製作したミュージカル。全2幕。

 原作小説未読、映画も未見。傘持って飛んでいる、クラシカルな格好の魔法使い?の子守?の話?…という程度の知識しかありませんでしたが、有名だし観てみたいとは思っていました。「チム・チム・チェリー」の歌と、それがこの作品のナンバーであることは知っていましたが。あとはスパカリなんちゃらの呪文の歌ね。
 この公演もコロナで初日が延びて、当初持っていたチケットが飛び、笹本玲奈に木村花代のウィニフレッドで観たくて選び直したのがこの回でしたが、土日の昼になんかするんじゃなかった家族連れ、子供連ればかりでロビーも客席もこんなにうるさいの久々だよ…とクラクラしました。暗くなると泣き出す子供もいるとかと聞くけど大丈夫なんだろうな、と心配しつつ臨みましたが、さすがにそれはなかったもののまあ右でも左でも前でも後ろでもしゃべるわ動くわ席を蹴るわ飲み食いするわ、タイヘンなのもでした。私の左の親子の娘はまあまあ集中して観ていて、話もわかっているようでちゃんとしたところで笑っていましたが、やはり隣の母親にときどきコソコソ話しかけていましたし、右の親子の子供はまったく座っていられなくて、にぎやかなショーアップ場面でも舞台に見向きもしませんでした。子供の視界とか空間把握能力ってものすごく限定されているんだろうし、テレビ画面で見る映像ならともかく、まあまあ遠くで何かどんちゃんやられていても、そもそも関心が向かないものなんですね…そんな年齢の子供を休憩込みたっぷり3時間(つまり子供用に配慮されて短く仕立てることをされていない演目でした)、ひたすら黙って座っていろと言うのは今の時代、むしろ虐待認定されるのでは…それでも、U25チケットとかはともかく子供料金なんてものはないんだろうから、一家四人で来たら五万円近くが飛ぶ超高級な娯楽に手を出せる家庭なだけに、情操教育にいいとか文化芸術の素養になるとか思って連れてきてるんだろうなあ、とか思うとその徒労(あえて言いますが)に頭が下がりますね。まあ観てなくても歌は聞こえていてリズムは感じているのかもしれないし、なんか楽しかったという記憶が残ればそれはそれでアリなんでしょうけれど…叱られっぱなしで苦痛だった、という子供も多かろうよと思うと、残念でした。でも映画など含めてファミリー向けイメージなのかなあ、それで宣伝してるのかなあ、なら客は来るよね。子役も実際に出ていますしね…
 でも、そんなわけで子供が嫌いな私ですが隣の親に文句も言わず黙っておとなしく耐えて観たわけですが、なんならうっかり泣きました。これは大人の童話なのでは…もちろんすべての大人には子供だった時代があるわけですが、でもそれは当の子供が観てもピンとこない、わからないものなのではないでしょうか。子供でなくなったからこそわかるようになる、というか。
 私がまず泣いたのは、ジェーンとマイケルがお小遣いの1シリングを父親に渡したところでした。その金額以上の価値が、その意味が、当の彼らにはおそらくわかっていないように、ジョージやそんな彼の姿を観て泣く私たちのようには観客の子供たちもわからないでしょう。偉いな、すごいことをするなとかは感じられるのかもしれませんが。
 だって結局のところこれはジョージの物語じゃないですか。厳しい子守に育てられて、困った大人に育ってしまった、かつては子供だった男の物語。それが、職場でスパカリ呪文を口走るまで人間性を回復させる。家族が幸せになり、メリー・ポピンズはもう必要でなくなる…そういうお話です。
 ラストシーン、ジェーンとマイケルはメリーを見送って「忘れないよ」と叫びます。私はそこにも泣きました。それは嘘なのです。というか守れない約束なのです。私たちはみんな、大人になると忘れてしまう。子供のころにこんな子守に見守られていたに違いないことを、みんな忘れてしまうのです。メリーは、子守は、ここではメタファーです。日本の家屋に煙突はないし、煤払いも子守もいません。でもどの国にもどの時代にもそうした存在が必ずいて、子供たちを見守り育て、そして子供たちは無事に育って大人になると、それを忘れるのです。思い出せるのは、こういう物語に触れるから。だから物語が必要なのです。これはそういう作品です。
 劇場を横切ってフライングで消えていくメリーを口を開けて見送る客席の子供たち以上に、私たち大人の観客こそが万感の想いでその姿に涙したのではないでしょうか。なので、楽しく拍手し、カテコに手拍子し、スタオベしました。
 メリー・ポピンズってのはこういうキャラなんですね。まっすぐ立ってパキパキしゃべる笹本玲奈がたいそうキュートでした。ダブルキャストは日本初演も演じた濱メグさん。バートのダブルキャストは初演ではロバートソン・アイ(この日は石川新太)だった小野田龍之介。スウィングやカバーもいて、子役も四人が交互にやっている、良き座組ですね。タップその他も楽しかったです。
 これからもお砂糖ひとさじ忘れずに、いろいろ楽しんでいきたいと思います。この公演も6月アタマの梅芸大楽まで、無事の上演を祈ります!



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