駒子の備忘録

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宝塚歌劇月組『LOVE AND ALL THAT JAZZ』

2021年10月10日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 宝塚バウホール、2021年10月9日11時半。

 第二次世界大戦下のベルリン。ジャズ・クラブ「ディ・フライエ」は最盛期にはヨーロッパにおけるジャズの聖地と謳われたほどの名店だったが、ナチスの台頭によりジャズは退廃音楽として禁止され、今やかつての栄光は見る影もなくなっていた。バンドマンたちは次々と祖国に帰国したが、ドイツ人ピアニストのルーカス・ボルクマン(風間柚乃)だけは、ベルリンのジャズを守るという強い信念のもと、店に残り続けていた。ある日ディ・フライエに、胸にダビデの星をつけた娘が逃げ込んでくる。ルーカスは即座に状況を察し、その娘レナーテ(きよら羽龍)を奥の楽屋へ匿うが…
 作・演出/谷正純、作曲・編曲/吉﨑憲司、植田浩徳。「ベルリンの冬、モントリオールの春」というサブタイトルがつけられたミュージカルで、研38とも言われる(笑)月組4番手スターのバウ初主演作。全2幕。

 ショルダータイトルは「バウ・ミュージカル」ですが、むしろストーリー仕立てのショー、レビューみたいなスタイルの作品です、と謳ってくれた方が観客は心構えができやすくてよかったのではないかな、と感じました。いや海外ミュージカルでわりとこういうタイプの作品、ありますけれどね。ナンバーが多くて、間につなぎの芝居がちょっとだけ入るようなヤツ。でも日本ではわりとウケていないと思うのです、というか少なくとも私は苦手。よーっぽどよくできていてよーっぽどおもしろいものでないと、「ただ楽しむ」ということが私は苦手だからで、「難しいもの好き」と言われる日本人のメンタリティにも今ひとつ合わないのではないかと感じられるからです。まして今の「芝居の月組」、やっと新公を卒業した100期だけれど「えっまだ主演していなかったっけ!?」と言われがちな、専科かなとか研いくつだっけとか言われる持ち味の、なんでもできて芝居巧者のおだちんの初主演作とくれば、ファンは普通は、がっつり芝居を期待してしまうものだと思われるからです。
 でも、蓋を開けたらコレだった…そりゃ初日から詰めかけたファンは(近年まれに見るチケ難公演だったと思います)肩すかしを食らった気になったことでしょう。そりゃ組子のことしかつぶやかないよね…私調べではキャラの名前とかストーリー展開に関して言及のないレポツイートしか流れてこない作品の出来は、残念なことが多いです。一昨日昨日と平日でしたし、ファンが観て、そして優しく口をつぐんでいたのでしょう…これからはもっと正直な感想(要するに酷評)も出てくるだろうし、「リピートはいいや」って感じで手放されたチケットが世に出てくるのではないかしらん…
 いや、なんかそんな予兆を感じて、観劇直前にものすごくハードルを下げて観る心境になったので、私自身は意外に楽しく観てしまいました。箸にも棒にも、という駄作だとも思っていません。組子のファンならナンバーやフィナーレ、わずかな芝居場面でもその深化なんかを楽しみに通えるのかなとも思います。でも私はお断りが惜しくなかった(^^;)。でもふざけんな時間返せとかも思わなかった、そんな感じです。
 でも、もうちょっとアイディア出そうよ谷先生、枯れちゃったの…?とは、思いました。ドイツ人の青年がユダヤ人の娘とベルリンを出てパリへ、そしてモントリオールへ…という流れしか、ない。キャラクターがない、ドラマがない。行く先々で関わる人がいて…というのはあるけれど、事件とかエピソードというほどのものでもない。ナンバー場面は有名なジャズの楽曲ばかりで楽しいけれど、ものすごくショーアツプされていて圧巻!というほどのパワーはない。ラストシーンがトートツだという評も聞こえますが私は好きです、だが長い。このアイディアに先生の方が酔っちゃってるのがわかる。それじゃダメなんですよ、ああぁもったいない…そして何より書かれた芝居が、台詞が、なんか中学生がちょっと思いついて勉強しただけで書いたみたいな、芸も深みも含蓄もない、生硬な、生煮えのもので、私は観ていて気恥ずかしくて何度も奥歯を噛みしめて耐え忍びました。そんなんでシェイクスピアの引用するとかホントやめて、シェイクスピアに謝って、ってもう身悶えしましたよね…
 からんちゃんとヤスはさすがの芝居をしていたけれど、あとはもうやりようないやろコレ!と正直思います。ゾマー少尉(礼華はる)とか、なんかもっと書き込んでくれよ! これが2番手格のキャラ、スターなんじゃないの!? ぱるはもっとできる子ですよ!? 使ってくださいよ。あと専科になったゆりちゃんをわざわざ起用してコレなの? ねえ…!?? ゆうちゃんさんも、贅沢すぎるやろ…あと蘭くんのあの設定、要ります…?
 そんな中でもおだちんは、ほぼ出ずっぱりでかつ何度も着替えて出てきては歌い踊り芝居して、八面六臂っつーかなんつーか、もうホント気の毒なくらい働かされているんだけどそれが務まるんだから、本当に本当にたいしたものです。てかナウオンで7分あるとか言っていた気がする雪中行軍場面、あんな尺、要ります…? ひとり『心中・恋の大和路』とかホントつらい…とホントおだちんが気の毒になったんですけど…なんかあるやろここにレナーテの芝居重ねるとかさ、てか二幕おはねちゃんほとんど出てなかったやん! ホント仕事してよ谷先生…!! イヤでもホントこういうのを保たせるおだちんさまは素晴らしすぎましたよ、トップスターの退団公演のショーかよってくらいオンステージ状態でしたもんね。オリジナル楽曲は昭和歌謡テイストで主題歌もどんなんだっけ思い出せない…って感じですが、いつかトップスターになって、そして退団することになったらサヨナラショーのシメは「SING SING SING」で組子みんなで爆踊りしながら幕を下ろすといいんじゃないかなと思いました。それでやっと浮かばれるファンもいることでしょう…
 二幕のドロシー役の一乃澟ちゃんがとてもよかったです。あとは美海そらちゃんが目力があって目を惹いたかなあ。
 あとはラストシーンのぱるよ! 一幕は制帽で二幕は髭で、やっと顔が見えたわはわわわやっぱ美形だわ!ってホントーにテンション上がりました。そこからずっとフィナーレもロックオンしちゃいましたよおだちんごめん…ゆうちゃんさんの歌のあと、暗い中でスタンバイしててもあの前髪は絶対そうだって見極められた自分がホント怖かったです(笑)。好みなんですすみません、やっと垢抜けてきましたよね…!(涙)(と何度も言っている気がします(笑))
 もちろんおだちんは、ポスターも素敵だしプログラムの最初の見開きも最後の見開きも裏表紙もすごーくフォトジェニックで美しく、素晴らしかったです。舞台姿はやや無骨に見えるくらいなのにね。でも大変だろうけど軽々やっているように見えるのも頼もしい。でも本人が楽しいと思っているか、思えているかはナゾかも…でもまあきっと、いい経験にはなっていることでしょう。ですます調で優しくしゃべり、だけど笑顔に圧があって(笑)周りがなんとなくほだされて協力しちゃう…という人物像はおもしろい設定だったんだけれど、いかんせん設定だけだったよな、という感じだったので、中の人としては演技のしようもなかったと思いますが、とにかく無類の真ん中力でひたすら誠実に舞台の中央に立ち続け作品世界を成立し続けていました。立派です。なかなかできることではありません。ところで珠城さんは観劇予定はあるのかしら、観てあげてほしいなあ…
 次の主演作に期待します。思えばずんちゃんもなんでもできる人なのに主演作最初の2本はホントけっこうアレでした、いるよねたまに作品運のない人って…それでもできる人はさらに伸びていくものなので、まったく心配していません! 次の本公演も楽しみにしています。
 配信することにしたのは、チケ難を受けて…なのかなあ? けっこう異例ですよね。千秋楽配信で平日昼間とのことなので、どれくらい見てもらえるものなのかは未知数ですが、映像で見るとまた印象は変わるのかな…? みなさんの感想も楽しみです。まあファンとしては、作家にはきちんと苦言を呈し、生徒はあたたかく見守って応援し続けるしかできることがないので、お互い引き続き地道にがんばりましょうね…
 しかし100期バウ主演はほのちゃん、おだちんと来ていて雪は一期下のあがちんが務めるので(あがあみだといいな♪)、星はぼちぼちかりんさんだと思うんですけれど、だ、大丈夫なのかしら…そして宙はこってぃか、はたまたなにキョロとかでやるのかなあ、それはさすがにまだ早いのかなあ。でも次世代もどんどん育てていかないと育ちませんからね。だからこそいっそう、脚本・演出の先生方にも精進してもらわないと困るんですけれどね。まあひとこの東上付き公演とかは、いい新人作家いい題材いい着目点な気がするので、期待しています! 頼みますよ劇団!!




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