駒子の備忘録

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大劇場新公雑感~『宙赤』それで委員会

2018年04月07日 | 観劇記/タイトルさ行
 宝塚歌劇宙組『天は赤い河のほとり』大劇場新人公演(宝塚大劇場、2018年4月3日18時)を観劇しました。
 新公の担当は本公演の演出助手に入っている町田菜花先生。台詞や演出、役者の出入りの大きな変更はなさそうだな…と観ていたら、なんと大ラス大団円場面でタロスがコケるところが変わっていました! いつのまにかキックリがリュイシャラとラブラブになっててみんなびっくり、タロスが「父は許さんぞー!」みたいな芝居になっていたのです。私は本公演のここのタロスがコケてみんながあわてて…みたいな芝居に実は引っかかっていたんですよね。まあお年寄りだし足腰が弱っていたとかあるのかもしれないけれど、かけるパイセンともあろうものが?とか、タロスたちって地下牢を脱出したあとカイルのもとで戦っていたんじゃないの?とか思ったので。確かに音楽が一瞬止まるので何かやりたいところなんだけれど、老人を笑うような作りは嫌だなあ…とか思っていたんですよねー。なのでここは本当に感心しましたし、微笑ましく笑えてほのぼのしました。
 あとは、個々の役者のポーズや仕草の違い程度で、基本的には本公演を踏襲して、みんながそれぞれ工夫しつつもきっちり務めていた印象でした。とてもおもしろく観ましたし、発見もたくさんありました。
 上級生たちは何列かに別れてのご観劇でしたが、前列から学年順かつその列の中ではセンター寄りから学年順にスムーズに着席できるよう入場してきたので、結果的にエビちゃんが先頭、続いてあっきー、という隊列になっていたのが個人的にはツボりました(笑)。
 さて、ではくわしくまずは生徒の感想から。

 主役のカイルはこってぃ、鷹翔千空くん。期待の101期の首席で入団時にかなりフィーチャーされていましたし、漢字のゴツい芸名ともあいまって印象が強い存在でしたね。新公の役付きも最初からずっと良かったけれど、満を持しての初主演、といったところだったでしょうか。
 ただ、カイルという役自体は、本役のゆりかちゃんが類まれなコスプレ王子っぷりを発揮してなんとかヒーローに見せている役で、新公だとつらいんじゃないのかなーと実は心配していました。芝居のしどころがないし、タッパはあるけど顔が美形とは言い切れない気がするしなー、という失礼な心配もありました。
 でも、こってぃがんばりましたね! 場数を踏んできただけあって舞台度胸があって舞台にどっしり立てていたし、甘さ優しさ…みたいな部分はあまりなかったけれどちゃんと真面目で誠実そうな、いい王子殿下に見えました。あと、なんといっても声が良くて台詞が明晰で歌で語れる、聞かせられる説得力はデカい!
 ロマンチックなハッタリ力みたいなものはこれから培っていくしかないのだろうし、そのためにもこのあたりの学年のホープ生徒はまずショーでもっとピックアップして育てていかないとダメなんじゃないのかなー、とかも考えました。今後にさらに期待!
 ヒロイン、というかほぼ主人公のユーリは本役のまどかにゃんとは同じ100期で、星組から組替えしてきたじゅりちゃん、天彩峰里ちゃん。こちらも初ヒロインですが、上手いのはわかっていたので下手したらひとり舞台になっちゃうのでは…とこれまた心配していました。が、これまた意外にも、いい意味でそんなことはなく、結果的にちょうどよかったかなーという印象になりました。
 現代日本女子高生としてはリアルなナチュラルさなんだろうけど、まどかにゃんより地声が低いので、もう少しだけ全体にヒロイン力高めに作っても作品観的によかったかなーと感じたのです。可愛げがなくなっちゃうと、ユーリって成立しづらいキャラだと思うんですよね。こういう塩梅って難しいものです。
 黒太子の剣を奪っちゃうくだりはわざとドタバタやっている印象で、かついい感じにへっぴり腰にしてたんだと思いました。だからカッとなって飛び出しただけであとはルサファたちに守ってもらって…というのが自然に見えて、マッティワザもあっさり負けたようには見えず情けなくならず、そんな事態をおもしろがっている大物に見えて良かったのです。
 ラストのプロポーズからのキスの足ピョンがタイミングがすごく早くて、このせっかちでちょっとしゃかりきなユーリもかわええなオイ!と思えました。こちらも今後ますますの活躍に期待大です。
 そしてこちらも大きな役が来ました、ラムセスはきよちゃん、優希しおんくん、こちらも100期。ダンサーとしてピックアップされてきましたが、『神土地』ミーチャで知った方も多かったのでは?
 こちらもカッコよかったです! キキちゃんのあのチャラさはさやはりちょっと出せず、熱くて真面目な男だなーという感じでしたが、立派なものでした。ユーリの肩を抱こうとして空振りするところとかのユーモラスさが、ちゃんと笑いを取ってましたし、ややいっぱいいっぱいになりながらもこの場面をなんとか保たせた、あの長台詞を言いきったところがたいしたものでした。とにかく声がいいのがいい! 上背はない方なんだけれど、大きく見せてもいたと思います。いい経験になったんじゃないかなー、この先も期待しています!

 黒太子マッティワザはりっつ、若翔りつくんで、王弟ザナンザがまなちゃん真名瀬みらくん。ふたりともこれまた声が良くて歌が上手くて、プロローグのごく短い歌い継ぎがもう耳福でした。ものすごい戦力だと思いました。
 でもりっつは神官もやっちゃうし、それくらいの比重の役なんだってことが露呈しちゃってもいると思いましたね。まなちゃんも、優しいだけじゃない役がもっとできるタイプの生徒だと思うんだけどなー。このあたりはもっとうまく活用していっていただきたいです。

 萌えたのはもえこウルヒでした! 瑠風輝くん。新公主演も二度経験して、専科さんのお役に回るとまたこういう化学反応が起きておもしろいものですよね。ナキアが華妃まいあちゃんで、上手かろうってのはわかってたけど(というか歌に関しては心配していなかったけど演技は以前はアレレ…?派で、でも『不滅の棘』がとてもよかったので期待していました!)やはりせーこより少し若いナキアに見えた分、まだまだ迷いも欲もあるように見えて、そこにもえこウルヒがまた歌が上手いのはもちろん、抑えた演技に徹していてでもそこから滲む心情がほの見えて…!
 私がすみませんがマギーにノー興味なせいもあるかもしれませんが、このナキアウルヒは萌える!推せる!!と全力で滾ってしまいました。カルケミシュについていきたい、覗きたい…!(笑)
 まいあは長い首の美しさが際立って、クールな美貌も生かされて、とてもとても良かったと思いました。でもヒロインも見てみたいぞ、頼むよ劇団!

 キックリはほまちゃん、穂稀せりくん。これまた上手かろうとは思っていましたが、そばかすなんか描いちゃって「幼なじみでございます」で頭かいてテレて見せちゃってもうもう可愛くて、でも台詞は明晰で説明もすんなり聞かせて、ホントずるいくらい上手かったです。
 イル・バーニはわんた、希峰かなたくん、こちらも健闘していたかと思いました。正直、ニンはクールな参謀タイプではないと思うんだけど、メイクに工夫が見られましたよね。本公演もそうだったけどちょっと鼻声なのは心配だったかな?
 カイルフレンズではあられちゃん、愛海ひかるくんのカッシュがやはり垢抜けて見えました。場数踏むと違うよねえ! まあしどころはないんだけれどね…ルサファのりりこ、潤奈すばるくんなんかこれで卒業ですものね、残念だなあ…ミッタンナムワがいっぷー、惟吹優羽くん。
 シュバスの風色日向くん、ゾラの凰海るのくんもとても良かったです。風色くんは本公演がジュダだしスカステニュースの男役道コーナーにも呼ばれていたので、劇団が押す気がある下級生さんなんでしょうね。ビジュアルはもちろん、台詞がしっかりしているのが素晴らしく、頼もしく思っています。
 そしてティトの亜音有星くん、すごいね!? まだ組子で最下だよね!? 素晴らしすぎる頭身バランスもすごいが、声が良くて台詞がクリアで演技もとてもチャーミング。期待の新星ですね。鮮やかな出来でした!

 夢白あやちゃんはリュイよりハディの方がよかったかもしれません。すでに美人すぎる気がしました(^_^;)。
 ジュダは本役の風色くんがわりと幼く作ってるけど、なつ颯都くんは低くていい声していて、これも印象的でした。ホレムヘブもやってたのか、これは気づかなかった…(^_^;)
 少女ナキアはさらちゃん、花宮沙羅ちゃん。歌は上手かろうと思ってたけれど(こればっか)、芝居も良かったせつなかった泣かされた! 顔をヘンに隠す鬘はちょっとどうかなと思ったけど。少年ウルヒの碧咲伊織くんも達者だったなー、宙の下級生って豊作だなー。女官の天瀬はつひちゃんももちろん手堅く上手い! 知ってた!!
 ハトホルは小春乃さよちゃん、絶妙なウザさが愛らしかった素晴らしかった!(全力で褒めてます)あとタロスの澄風なぎくんも、知っていたけど上手すぎる! ネピスはひろこちゃん、水音志保ちゃん。まあこれはなんともやりようがなかったかな…? ネフェルトの雪乃かさりちゃんも特に印象がなかった気がしました、すみません。
 ららまいあが新公でもお祭りの民衆のバイトしてて艶やかで目立ってて、微笑ましかったです。まどかにゃんも詠美以外にもあれこれやっていましたが、どこにいても光っていてわかりましたね。

 さて、ネフェルティティはららたん、遥羽ららちゃんでした。『王家』新公アムネリスでもこのお衣装は着ているのかな? エジプト経験者という意味では本役より先輩ですね(あっきーも博多座で金ピカ側をやってはいますが)。でもゆうりちゃんのときから丈を出すためにおそらく肩紐をかなり長くしてるんだろうし、それを新公ではまた詰めていて、でも裾はけっこう余っていましたよね…って、そんなところもついつい観察してしまいました、すんません。
 ちなみにトトメスは『A motion』で名を挙げたいとゆ、湖風珀くん。でもまっぷーの慈愛ってやっぱりすごいんだな、という印象になってしまったかな…どうせならもっと若く作ってみる、というのも手だったのかもしれません。
 というかトトメスが青年でイケメンで、王太后をさらって逃げちゃうロマンスを妄想できる作りにしてくれてもよかったんですよなーこたん…!?(笑)
 というワケで贔屓の役とあってこちらがかまえて見てしまっている部分ももちろんあると思うのですが、ららたんネフェ様は意外に普通に、あたりまえに収まってしまって見えたというか、残念ながらあまり印象に残らなかった気がしました。やはり本役は男役がやるということでの、言い方はアレだけどある種の悪目立ちというかインパクト、引っかかりが出る部分が、娘役だとなくなってしまうからなのでしょうか…
 もちろんお化粧や鬘や(冠?から下がる飾りが本公演と違いましたね。あのあたりはお衣装部さんの範疇ではなく生徒が手掛けるアクセサリー部分なのかなあ?)身振り、仕草や立ち居振る舞いなんかの娘役としての上手さは断然あるんだけれど、やはり若手娘役がやるとどうしても単に不機嫌な王女に見えてしまったような…?と私は感じてしまいました。ある程度の人生を経てきている年かさの女、半分隠居しつつも未だ権勢を手放さない傲慢な王太后…にきちんと見えないと、ヒロインと対峙したときの見え方も違ってきちゃうしなー、難しいものだなー、といろいろ考えたりもしました。
 『神土地』新公のさよちゃんアレクサンドラも、私は娘役が扮するとこう見えるのか、ちょっと意地悪な嫌な女に見えている気がするな、それだと対オリガとかの場面の意味がやはりかなり違って見えるな…とか、やはりけっこう引っかかったものでした。りずちゃんマリアはいいなと思ったので、娘役がやるからといって一概には言えないのかもしれませんが…
 若手娘役が若く美しいのは当然で、だけどこういうポジション、キャラクターのお役に上級生の男役が配されることにはやはり意味があるのかな、それで出る存在感とか若さだけではない別の種類の美しさとかが必要とされる、ということはあるのかな…とか、ホントいろいろ考えさせられました。
 思えば『神土地』ではコンスタンチンってロマンチック担当キャラ(笑)だったと思うんですよ、あのシビアで悲しく厳しくせつない世界観の物語において。それでもラストで彼とラッダは視線すら合わないのだけれど、とにかく本編ではそういう甘やかポジションのキャラクターで、そういうところを任せるってのがくーみんのこの生徒観なんだなーとか私は思ったわけですが、今回はなーこたんの萌えはナキアやネフェルティティにあって、そこにまたこうして配されているんだなーとか、改めてグルグル考えちゃったのでした。
 朝日新聞夕刊に確か月イチ連載として「月刊タカラヅカ」というコーナーがあって、先日掲載の回ではこの宙組公演評が出ていましたが、おもしろかったのがお披露目のまかまどを別にしたら生徒名で言及されていたのはあっきーだけだったことです。引用すると、「カイルの命を狙う皇妃ナキアら女性たちが、国に翻弄され、それでも生き抜こうとする姿は印象に残る。エジプト王太后を演じた男役の澄輝さやとが威風のある美しさと、したたかさの中に悲哀をにじませて好演。」で、ナキアを演じたせーこの名前は出ていません。
 もちろん、男役が演じた女性キャラクターだから特異で特筆すべき、という部分はあると思うし、でも素直に考えれば本当に役のハートが伝わる演技ができていたということでそれが評価されているのかもしれません。それは素直にファンとして嬉しい。なんせ私はファンなので、そのあたりの判断が冷静にはまったくできていない自覚はありますからね。
 でも、嬉しいけれども、でもやはりそこが褒められるこの作品ってやっぱちょっと違うんじゃないのかな?とも私は思ってしまうのでした。観客のボリュームゾーンからすると確かにこのあたりのキャラクターに共感はしやすいのかもしれないけれど、それでも彼女たちはそういうものを求めて宝塚歌劇を観に来ているのではないのではないかしらん。もっとカイルかっけー!とかユーリがモテモテでうらやましー!とか、そういう形での発散を求めてやって来るのではなかろうか、少なくとも私はそうで、それがちゃんとあってなおこういう女性たちも深く描かれていたらそれは物語に厚みが出るし大歓迎なんだけれど、そっちにばっかり力が入っちゃってて肝心のメインのラブロマンスが弱く見えるのはどうなのよ…ということが私は心配なのでした。そのことは前回の記事でも語りましたが、毎度しつこくてすみません。
 イヤこの公演が大好評で大入り満員で終演後のアンケートで満足度100パーセント、とかならいいんです。それなら私の勝手な杞憂なのですから。でも多分そうじゃないし、それで客入りが悪くなっていたとしてそれが生徒のせいとか組のせいにされるのはホント勘弁してほしいわけですよ…

 というワケで『天河』の新公はとてもおもしろかったです。正確に言うと、新公「が」おもしろかったのです。下級生たちに関して、この子はこんな役者なんだ、こういう声のこういう顔の子でこういうお芝居をする子なんだ、こんなふうに歌う子なんだ、っていう観察ができたからです。発見があったからです。
 だから楽しかった、おもしろかった、保ちました。
 でも、本当は、新公ってそういうものじゃないと思うのです。脚本が本来書こうとしていたドラマや、本役の上級生たちが経験や技量に裏打ちされた演技力やショーマンシップで描き出していたドラマが、下級生たちの足りてなさ加減によってかえってあぶりだされ、でもそれも丸ごと含めて味わい深くおもしろい…というものだと思うのです。
 『天河』には、そんなもともとのドラマや芝居は、ない。だから下級生がキャラクターに扮するだけでできてしまう。セカンドキャストを観られる楽しさ、おもしろさはある。でも芝居として感動するとかはない。そもそも本公演にもないのだから、ありえないのです。
 あくまで私の個人的な意見です。でも私はそう感じました。下級生にはハードルの高いコスプレ・キャラクターものにチャレンジしたことで、いい勉強にはなったでしょうし、今後の成果に期待大です。でも逆に言えば上級生には役不足なんだな、作品としては弱いという馬脚が表れたよなとも思うのです。それがとにかく残念でした。

 長はららたんでしたね。金ピカ姫がしずしずとセンターに出てきたご挨拶を始めたときの説得力たるや、ハンパなかったです。言葉に詰まる一瞬もありましたが、みんなをよくまとめてがんばっていたことの表れではなかったでしょうか。お疲れさまでしたね。
 その後の本公演は私はまだ観られていませんが、変化はあったのでしょうか。役者にとって自分が出演している舞台がどうなっているのか客観的に捉える機会はほとんどないので、この新公というシステムはそういう意味でもとても素晴らしいものだと思います。やっと全体の流れとか、ひとつひとつの場面の見え方とか、その中で自分が求められているものの意味とかが理解できて、芝居が変わる…ということも多いのではないかなあ。
 その進化は、見守りたいです。構造上、東京公演で大きく手が入れられるとはとても思えないので、もうこのまま見守っていくことしかファンにはできないからです。みんながんばれー! 少なくともファンの愛は伝わっていたらいいな、と切に思います。






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