駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『舞台 サイボーグ009』

2024年05月25日 | 観劇記/タイトルさ行
 日本青年館ホール、2024年5月21日17時。

 世界中に戦争を引き起こし、兵器を売りつける謎の組織「黒い幽霊団(ブラック・ゴースト)」に誘拐され、最強の兵士=サイボーグに改造されてしまった少年・島村ジョー(七海ひろき)。世界各地から集められ、同じように改造された8人のサイボーグ戦士たちとともに反旗を翻し、襲い来る刺客たちに立ち向かう…
 原作/石ノ森章太郎、演出/植木豪、脚本/亀田真二郎。誕生から60周年を迎える漫画を原作にした90分のステージ。

 1968年、79年、2001年にテレビアニメ化されていて、私は79年の「新アニメ」(当時そう呼ばれていた記憶…)を見て育った子供の世代です。でも今回のクリエイターやキャストたちは、01年版を見て育ったような世代なのねねねね…
 原作漫画も、学童保育で通っていた子供会館の図書館とかで読んでいたと思います。記憶ナシ、自分で買って持っていたことはナシ。アニメの「♪吹き荒ぶ風がよく似合う9人の戦士と…」という主題歌は未だに歌えますが、細かい内容はまったく覚えていません。
 でも、9人のナンバーとフルネームと人種・国籍と特殊能力は未だにソラで全部言えます。今考えるとステロタイプだし、偏見や差別がありまくりだと言われても仕方がないかと思いますが、当時の私はこれでお国柄というものを学習したのです。今考えるに多用性表現の走りとも言えるかもしれないし、世界のあちこちで戦争や紛争を起こして儲ける武器商人の組織が、そのために各国の若者を誘拐してサイボーグに改造して兵士として送り込む…というのはある種の説得力がある設定だと思います。そしてそれでも人の心を失わなかったゼロゼロナンバーの9人が組織に反旗を翻し、世界平和のために組織と戦う…というのは説得力ありすぎの胸アツ設定だ、と改めて思いました。
 ただ、なんで揃いの制服(?)着てるんねん、とか(イヤなんか強化素材の云々…って設定はあったかも)、やはり物理的、科学的に考えて不可能すぎる特殊能力とかもあるので、現代に真面目にリメイクするのは無理があるとは思います。なので舞台、しかもミュージカル化というのはどんぴしゃの転換だと思いました。舞台って、その場で生身の役者が演じているのに、というかだからこそかかる魔法があるというか、リアルとは別次元のファンタジー感が生まれるものだと私は考えているので、こういう題材にものすごく合うと思うんですよね。そしてそのパフォーマンスを通して原作のテーマやメッセージがより深く遠く届けられる…
 というわけでかいちゃんだしはるこだし、イワン(天華えま)の声はぴーちゃんだしで、喜び勇んではるこのお席で拝見しました! 植木さんは観たことはないけど名前は知っていましたしね。『ヒプノシスマイク』の人なんですね、これまた名前しか知りませんが…キャストも多くはこの関連の方のようでした。2.5っぽいってことかな?など思いつつ、それもまた新鮮だし楽しいだろう!とワクテカでした。
 しかしこの公演日程はなんなんだ、子役が出ているわけでもないのにソワレが17時開演とは…? 上演時間90分なんだから、平日ソワレは19時半開演でもいいくらいで、勤め人にもう少し優しくしてくれてもいいのよ?とは思いました。ただ配信が非常に手厚く、SNS告知なども活発で、後半はチケットが無事に完売して当日券のみとなったようなので、それは興行として本当によかったな、と思います。
 ノー予習でもまったく問題ない構成はさすがでした。キャラ紹介みたいなオープニングはあるだろう、とは思っていましたが、それをやったのちにさらにそれぞれがどんな生い立ちの人でどんな状況で改造されたかまで、しっかり語られる親切設計。これは各キャラの濃いファンも嬉しいでしょう。
 ストーリーはジョーの少年院時代の友人で、やはり改造されてしまったシキ(滝澤諒)とリク(相澤莉多)のプラスとマイナスの兄弟を巡る物語で、これは原作だかアニメだかでも人気エピソードだったはずです。ある意味でシンプルなお話を、アクロバティックなアクションや、戦闘・バトルを表現するダンス、それぞれの特殊能力を演出してみせる映像や照明その他いろいろを駆使しまくったパフォーマンスでつないで観せていき飽きさせない、とてもよくできた構成になっていたと思いました。純粋に圧倒されたし興奮しました。サーカスみ、アトラクションみが強く、ドラマが薄いと言われればそれはそうなんだけれど、あえてそう舵を切って作っている舞台なんだと思います。というか真面目なリメイクが苦しい題材なので、真面目なストプレとかには向かないんだから、この作りで正しいと思いました。
 イヤしかしホントすごかったなー! 殺陣とかって、斬られ役が上手いからこそカッコ良くキマる、みたいなのがあるじゃないですか。まさにソレでした。細かいプロフィールがプログラムにないのが実にもったいない、BG SOLDIERSのみなさんが、身体能力もスキルも素晴らしくて(残念ながら台詞は滑舌含めてやや怪しく、籠もって聞こえづらいことが多くて、そこは純正の?俳優さんたちはさすがスキルがあるんだな、と痛感しましたが…)とにかく圧巻! この盛り上げがなければ成立しないステージでした。
 対するゼロゼロナンバーのみなさんもホント芸達者揃いで、ちゃんとそのキャラになってくれているのはもちろん、歌やダンスやパフォーマンスも良くて、いずれも素晴らしかったです。ジェット(高橋駿一)のいかにもアメリカンでちょっとイキっててでも本当は気遣いもできるところ、アルベルト(里中将道)のクールでニヒルなようでいて本当は優しいところ、ジェロニモ(桜庭大翔)の気は優しくて力持ちな感じの大男っぷり、張々湖(酒井敏也)とグレート・ブリテン(川原一馬)のおじさん漫才コンビっぷり、ピュンマ(Toyotaka)の寡黙で、でも熱いところ…もうきゅんきゅんでした。特にグレート・ブリテン(ホントどうなのこの名前、ってな感じではあるのですが…)はよかったなあぁ! 原作ではチーム最年長でそういう意味でのリーダーでありつつも、いつも飄々としていておちゃらけていてムードメイカーで…っていう感じのキャラだったかと思うのですが、そこまで歳がいっていないだろうにそういう年長感が出ていたし、なんせ歌が上手かったし、プログラムの写真で常にウィンクしているようなところがホントそのまんま!って感じでたぎりました。酒井さんがダンスとなるとイワン人形を抱いてカウント取るだけになるのもよかった(笑)。イヤいいんですよ、感じがよく出ていました。
 ギルモア博士(大高洋夫)はだいぶダンディになっていましたが、別にヘンに胴布団をつけすぎなくてもいいわけで、これもちょうどよかったと思いました。
 そしてはるこフランソワーズ(音波みのり)ですよ! OG実はなんでもできる説もありますが、こういうゴリゴリのダンスもできるのねキレッキレじゃないのアナタ!という驚きがすごかったし、ポーズの決めや立ち姿、佇まいの美しさがさすがだし、歌も現役時代より良くなっていたし(むしろ作曲的に謎のメロディラインで、歌いづらそうで聞きづらかった気がしました…)、何より可愛いし、芝居がいい…! 役作りが大正解すぎました。
 フランソワーズって、紅一点だしパリジェンヌだけど、モモレンジャーみたいなチームのアイドルとかでは全然ないんですよね。むしろクールで冷静でとてもクレバーな人で、イワンが立てた戦略に対して特殊能力を駆使して戦術を立てるような、もうひとりのチームの頭脳であり現場指揮官でありみんなのリーダーでもあるのです。そして改造されたことをとても悲しんでいて、戦うことにずっと忌避感を持ち続けている…他のみんなが多かれ少なかれこの状態を受け入れ、なかば前向きに戦っている中での彼女のこの姿勢は、別に女性ならではの優しさとや弱さとか女々しさとはされていなくて、あくまで彼女の人間としての個性であり、むしろ知性の表れなのだ、とされているのです。男の子って幼稚でおバカさんで女の子の方が聡明でオトナ、というのが原作ないし当時のアニメにあったことは私はものすごく覚えていて(記憶の捏造だったらすみません)、石森正太郎(当時)ってそういう作家だったと思っていますし、そんな作家が単なる添え物のヒロインではなく、確固たるメンバーのひとりとして描いたフランソワーズを、はるこが凜々しく美しく体現してくれたことに、私は本当に感動したのでした。はることよかったよはるこ、さすが俺たちのはるこだよ…てか卒業後もこんなに芸能活動をやってくれるとは思っていなかったので、本当に嬉しいです…!
 そしてそして、もちのろんでかいちゃんジョーの素晴らしさですよ!
 ジョーは最後に改造されたので、ブラック・ゴースト側の科学力も上がっていて一番高性能、という設定なんですけれど、最後に改造されたのでみんなと比べると状況・状態を理解できていなくて、受け入れられていない。そしてその違和感や悲しさ、寂しさをずっと持ち続けている、ものすごく人間臭いヒーローなんです。ポーの一族でずっと人間に戻りたがっていたエドガーと同じなんです。恐るべし89期! アカレンジャーとかの王道タイプではない、明るくまっすぐでマッチョなヒーローではない。この造形が、原作の丸っこい絵柄もあって、それこそ腐女子の走りのような女性ファンのハートを当時つかんだんだと思います。それを体現するのに、七海ひろき以上の存在がありますか? いやナイ。即答でしょう!
 髪型が完璧だし、黄色いマフラーのたなびかせ方すら完璧だし、アンニュイだけど清々しい立ち姿とかたまらなかったですし、もちろん歌もダンスもアクションもこなすし…いやもう素晴らしい座長っぷりだったと思います。こういう企画ってどこから、何ありきで立ち上がっていくものなのか、私は素人なので皆目わかりませんが、この世界にかいちゃんがいてくれてかった…!と拝みたいレベルです。彼女が卒業後に切り開いてきた道は、本当に本当にすごいし尊いものだと思います…!!
 パレード、じゃないかラインナップ前に再度キャラというかキャスト紹介がある中で、フランソワーズだけジョーとのデュエダンになってるの、ホントたまりませんでした。いいのココはホントにカップルだから。てかここのかいちゃんジョーの優しい眼差しにキュンとしない女子、います…!?
 はー、楽しかった、おもしろかった、よくできていた。私は全然観られていませんが、2.5次元舞台もおそらく玉石混淆なのでしょう。でも、いいものはいいんだと思います、あたりまえのことのようですが。観られてよかった、制作してもらえてよかった…! アラ還おっさんがノスタルジーだけで作るようなこのあたりの年代の作品のリバイバルものとは、一線を画していたと思います。作るならちゃんと作るべき、これもあたりまえですよね。こういう作品はノンバーバルというか、海外にも輸出していけるんじゃないのかなあ…やはりこのあたりのコンテンツって日本の最大の利点のひとつでしょう。国が沈みきる前に、何か展望があるといいな、と切に願います。



 



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