駒子の備忘録

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新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』

2024年02月25日 | 観劇記/タイトルは行
 新国立劇場オペラパレス、2024年2月24日13時。

 オペラ座のある街角のカフェで、ホフマン(この日は井澤駿)は友達と酒を酌み交わしながら、オペラ座の歌手で彼の恋人であるラ・テスラ(渡辺与布)の到着を待っている。彼のテーブルには三つの思い出の品があり、問われるがホフマンは答えない。ラ・テスラは公演後の密会の約束を認めたホフマンへの手紙を侍女(益田裕子)に言付けるが、その手紙はラ・テスラに魅せられた邪悪なリンドルフ議員(中家正博)の手に渡ってしまい…
 振付・台本/ピーター・ダレル、音楽/ジャック・オッフェンバック、編曲/ジョン・ランチベリー。1972年グラスゴー初演、新国立劇場では2015年に舞台装置・衣裳を一新して新制作した全幕バレエ。プロローグとエピローグ付きの全三幕。

 なんせチケットを取ったのがずいぶんと前だったもので、会場に着くまでオペラを観るものと思っていました…(笑)が、これは英国バレエ史に残る代表作のひとつだそうです。ピーター・ダレルはスコティッシュ・バレエの創始者で、ケネス・マクミランやジョン・クランコとは同世代で、サドラーズウェルズ・バレエ学校で学んだ仲だそうです。クランコの『オネーギン』やマクミランの『マイヤリング』は観ているので、今回この作品を押さえられてよかったです。
 一幕はホフマンの『砂男』が原作で、自動人形のオリンピア(奥田花純)がヒロイン。二幕は『顧問官クレスペル』が原作で、ヒロインはバレリーナ志望の病弱な娘アントニア(米沢唯)。ここはオペラでは歌手志望の娘となっているそうです。そして三幕は『大晦日の冒険』を原作とし、ヒロインは高級娼婦のジュリエッタ(木村優里)。いずれもホフマンが破れた恋の思い出話で、邪魔をするのはリンドルフを演じたバレリーノが演じるスパランザーニ、ドクターミラクル、ダーパテュートで、要するにこれがメフィストフェレスみたいな存在の悪魔で、ホフマンを破滅に追い込んで回る…というような物語です。
 3ヒロインが有名な物語かと思いますが、女性の描き方が人形、病弱な娘、娼婦と「舐めとんのかワレ」ってなもんですし、ラ・ステラもリンドルフに連れ去られてホフマンが絶望のうちに幕…なのですが、いっそホフマンはリンドルフ/ダーパテュートの腕の中で果てて終わればよかったのでは?とも思いました。だって彼がホフマンに粘着している、そういうBLでしょうほとんどこれは…
 てかオペラ版のあらすじを調べたら、アントニアとジュリエッタの順番が入れ替わっているのはともかく(これはオッフェンバックの作曲が未完に終わり、死後に劇場側が体裁を整えて初演した際にお蔵入りにした楽譜がのちに出てきて…みたいな混乱のせいでもあるそうな)、ホフマンには友人がいて、それがメゾソプラノのズボン役で、歴代の恋人たちはみんな悪魔に持ってかれちゃうけどこの友人だけはずっとホフマンのそばにいてくれて、実は彼がミューズだった…というオチらしいんですけど、ホント都合いいですネ!? でもこれはこれで観てみたくなりました。楽曲も入れ替わっていたり一部補充があったりいろいろされているようですしね。
 そうそう、バレリーノの活躍の場が多いのは目新しくていいな、と感じたんですよね。一幕のホフマンの友人の3人とか、スパランザーニの召使いふたりとか。でも二幕はぐっとクラシカルで幻想的で、三幕はまた退廃的で官能的なムードの中でアクロバティックな大技が披露されて、いろいろなスタイルの踊りが観られるおもしろい演目だな、とも思いました。それをシームレスにつなげてひとつのお話に仕立てているところもいいので、なおのこと、オチというかテーマがもうひとつ欲しいかな、とも感じたんですよね。だってなんでホフマンがこんなにも悪魔に執拗にいじめられるのか、が納得できないので…その点、同じ『砂男』起源でも『コッペリア』のラストのもの悲しさとかの方が印象的かな、とは思うのでした(ちなみにここで初めて見たと書いていますが、検索したら2009年にも観ていたよ自分!)。
 でも、ついつい知っている演目ばかり観に行ってしまうので、新しい出会いはやはり楽しく新鮮で、勉強になりました。もっといろいろチャレンジしていきたいな、と思いました。
 キャストはこれまでも何度か観てきた人たちばかりで、格別印象的だったダンサーはいなかったかなあ…カテコで、男女のバランスもあるのでしょうがセンターがアントニアとジュリエットで、そのサイドにホフマンとリンドルフ、さらにそのサイドにオリンピアとラ・ステラで並んでいたのはちょっとおもしろかったです。指揮者(指揮/ポール・マーフィー、管弦楽/東京交響楽団)が呼ばれてからはやっとタイトルロールのホフマンがセンターになりましたが…まあレディファーストというかプリマファーストではありますよねバレエって。
 群舞もとてもよかったです。客入りも満々席ではなかったけれどいいように見えました。今回のお席は3階1列目センターブロックやや下手寄り、視界も金額もちょうど良く、快適でした。優雅な週末の午後を過ごしました。










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