駒子の備忘録

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柚木麻子『マジカルグランマ』(朝日文庫)

2023年03月07日 | 乱読記/書名ま行
 正子は75歳の元女優。CMで再デビューを果たして順風満帆かと思いきや、ある出来事で事務所を解雇され、急遽お金が必要な状況に。周りを巻き込み逆境を跳ね返す生き方は「マジカルグランマ(理想のおばあちゃん)」像をぶちこわす…圧倒的パワフル・エンターテインメント。

 スピーディーでテンポ良く爆走する展開に、ニヤニヤしながら読みました。なんかすごくよかったです。ヒロインは特に強い主張とかこだわりがあるわけではなくて、ほとんど流されるままに、必要に応じて進んでいるだけのようなんだけれど、それがいわゆるフツーのよくあるコースじゃなくて、でも謎のパワーと愛嬌があるから周りも巻き込まれていくのが、なんかホント微笑ましいような傍迷惑で気の毒なような…なのです。一応息子も出てくるけれどいい歳だし、だから家族とか親戚とかの身寄りよりも、単なるご近所みたいな赤の他人たちが、意気投合したりあきれたり衝突したり喧嘩したりをアグレッシブに重ねていくのも、読んでいてすがすがしくて楽しいのです。みんながみんな正直だからいいんだろうな。
 そしておこがましいようですが、なんか精神性というか在り方が自分に似ている…!と思えておもしろすぎたのでした。私はヒロインのまだ2/3程度の年齢でしかありませんが、やはり人生ざっと100年と考えると折り返しが50歳なわけで、その少し前くらいから後半生というものを私も考えるようになっていたんですよね。そもそも、学校の勉強ができたから大学行って就職して定年まで働いて…ってとこまではわりと幼いころからイメージはできていたんですよ。結婚とか出産とかはそこまで希望がなかったのでまあなりゆきで、と考えていて、そしたらナシでここまで来てしまったので、子育てとかがないと余計にこの先何やろうがフリー、って感じが強まります。まあありがたくも未だピンピンしている両親をいかに見送るか、とか、弟も独身なので最後は老老介護かな、とかの懸念はありつつも、会社奉公もまあまあしたしそろそろもっと好きにし出してもええやろ、となんか妙な開き直りが私の中にも生まれてきていて、たとえば元気なうちになるべくたくさん旅行しよう、とかは実践し始めているわけですけれど、このヒロインはなんかもっとずっと上を行っているわけです。それがもうおもろくてうらやましくてまぶしいのでした。
 こういうヒロイン像を肯定的に、というか肯定も否定もなくただそのまんま書ききるこの作家がまずいいし、タイトルも本当に秀逸だと思いました。「マジカル○○」なんて幻想で、勝手な理想で押しつけで、ホント冗談じゃないんです。そういうことに華麗にアッカンベーしてただ好きなように生きているヒロインが本当に輝いていて、いいのです。読んでいて元気になります。作家自身はまだまだ全然お若いはずなのに、すごいところに目をつけるよなあ…!
 楽しく読むだけでよくて、別に自分もかくありたい、なんて思うことはなくて、みんながみんな自分のいいように生きればいいんだと思うのです。それで上手く行くことも行かないことも当然ある、それが人生だ、という達観ももちろんある小説です。でもだからって何もしないのはもったいないしつまらない、止めないからやってみようぜ楽しいよ?って挑発がある、元気でアグレッシブな小説だと思いました。帯のアオリに軽やかで柔軟で、みたいなものがありましたが、まさしくそんな感じでした。カバーイラストも素敵で、解説もよかったです。オススメ!








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