駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『あさひなぐ』

2017年05月23日 | 観劇記/タイトルあ行
 六本木EXシアター、2017年5月20日18時(初日)。

 二ツ坂高校一年、東島旭(齋藤飛鳥)は中学まで美術部だったため、「薙刀は高校部活界のアメリカンドリーム!」という言葉に感動して薙刀部に入部する。だがこれまでスポーツに縁のなかった旭は、稽古にもついていけずにおちこぼれていき…
 原作/こざき亜衣、脚本・演出/板垣恭一。全2幕。

 原作は「週刊ビッグコミックスピリッツ」に連載中の薙刀の部活動漫画です。漫画家さんがプログラムに寄せたコメントのとおり、確かに部活動に励む少女たちは、お互いにライバルでもあり仲間でもあり、アイドルグループの活動に似ているところがあるのかもしれません。その意味で素晴らしい企画だと思いました。最近では漫画を原作にした舞台も多く、2.5次元なんちゃらといったものは出来がピンキリで、この企画もどう転ぶかなとやや心配してはいましたが、さすが東宝、そしてさすがトップアイドルの乃木坂46を据えただけあり、映画化企画も同時進行しているとあって、素晴らしい出来栄えの舞台でした。というかダメ出し要素がまったくなかった。こんなの、私にしては珍しいことです。
 幕開きこそ、とても通学電車の車内には見えない簡素な舞台装置にやや驚きましたが、それはそこだけで、あとは舞台は変幻自在にコートになり街になり合宿所になり、必要十分で転換もあざやかで、素晴らしかったです。
 ミュージカルではないのでナンバー終わりに拍手を入れる、とかがないので、どこにも拍手を入れるタイミングがなかったことだけが不満かもしれません。一幕ラストは暗転ではなく幕を下ろしてくれれば、拍手ができたのにな。あとはキャストが勢ぞろいして決めるプロローグ、あそこでバックに映像でロゴをバンと出して一度みんなでキメ、場内拍手!としてからまた散り散りになった方が、気持ちよかったかもしれません。でもホント不満はそれくらいでした。
 基本的には原作漫画に忠実で、でも非常に明快で過不足ない台詞、キャラクター立て、スムーズな場面転換、省略もうまいストーリー展開でした。そんな手堅い脚本・演出を、トップアイドルたちが素人くささなんかを売り物にすることもなく、全身全霊で女優として役になりきってやってみせていました。多少まだ硬いかなとか、呼吸が合っていないかなとかはありましたが、すぐ解消されるだろうと思えました。
 私はキャストにはまったくくわしくありませんが、ファンには、「あの子がこんな役をやるなんて」という見方、楽しみ方もあるんだろうなと思います。私には本当にそれぞれキャラクターにぴったりに見えました。でもパンフレットなどの写真を見るとアイドルとしての素顔はもっと全然タイプが違うキャストもいて、おそるべし…!と感心しました。
 ミュージカルではないのだけれど、試合や稽古がダンスのような振りでイメージ演出される場面はあり、そういうときの揃い方やフォーメーションの美しさ、体の動きの切れなどは、さすが日々のライブやテレビのステージで鍛えられているだけのものがあるなと感動的でした。
 何より感動的だったのが、実際に薙刀が振り回されるのを見られたことかもしれません。原作漫画はもちろん熱く激しいスポーツ漫画であり、試合の様子なども十分に想像はできるのですけれど、でも私は実際の薙刀の試合をたとえテレビででも見たことがありませんでした。だから実際の長さとか、振り回すときの重さ、しなり、相手のものとぶつかったときの音、衝撃などは、この舞台で観てみるまでまったくわかっていないかったのです。キャストはかなり薙刀のお稽古をしたようで(新人王と目されるような役も出てくるのですから当然なのですが)、ごまかすことなくかなり激しく打ち合っており、そのときしばしば効果音でない本当の打突の音が舞台から響いたのでした。私はそれにシビれました。生ってすごい。
 そしてもうひとつ。原作は女性漫画家の手による青年漫画ですが、だからなのかなんなのか、不思議と百合臭があまり感じられないと私は思っていたのですが、どうしてどうしてこの舞台にはもっと全然ありましたね。生身のお若いお嬢さんたちが先輩にあこがれて仲間と競い合ってライバルと戦う役を演じながら、泣いたり笑っていたして舞台を転げまわるので、得も言われぬ清純な色香が放出されてしまっていましたよ…これはおもしろい発見でした。
 それから、原作は男性漫画家による少年漫画ではないので、そういうものにありがちなキャラクターの類型化がわりに少なく、それは一方でパターンとしての弱さ、あいまいさにも通じてしまっているところがあると私は思っていたのですが、舞台ではちょうどよく感じられたのもおもしろかったです。極端すぎるとまた悪い意味での2.5次元臭がしそうだし、でもこれはあくまで現代日本が舞台の女子高生たちのごく普通の青春ものなのだから、これくらいのナチュラルさでちょうどいいのかな、とか思いました。
 個人的には私はえり(生駒里奈)というのはかなり特異なキャラクターだと思っていて、普通の漫画だともっと極端にしっかり者の部長タイプにしちゃいそうなところを、ずるかったり弱かったりするところもあるわりと普通の女の子に仕立てているところをとても興味深いと思っていました。だから実は一番演じにくいタイプのキャラクターなのではあるまいか…と思っていましたが、生駒さん、すっごくよかった。あと綺麗。好みでした。
 男の子たちがいいスパイスになっていて、もちろん絶妙に上手いのも好印象でした。小林先生役の石井一彰もね。
 それからAKBだの乃木坂だのの(ひとくくりにしてはファンに怒られるのでしょうが)大先輩に当たる宝塚歌劇団から、マミちゃんあみちゃんという絶妙に上手いふたりによる助演という、万全の布陣がまた素晴らしかった! なんてったってマミちゃんの登場場面はそこだけミュージカルでしたよ。イヤ歌っていません踊っていません、ただ音楽に乗って薙刀の演舞を見せるだけのような登場シーンなんだけれど、もう完全にひとり舞台でオーラが違うし空間の埋め方が全然違う。圧巻でした。まだ男役の声なの!?と思ったけどそもそも声が低いんだった、この人…(笑)でも薙刀の師匠役としてピッタリ、そして確実に舞台を締めていました。
 そしてあみちゃんが、まずバイトの審判役が凛々しくて素晴らしくて…本役(笑)も抜群に上手くていい笑いを取っていました。とても正しい。現役時代も娘役としてはわりと大きい方だった印象だけれど、乃木坂の子たちと並ぶとヒールがあるにしてもすごく背が高く見えたのも驚きでした。でもいい女優さんになりましたよね、私は好きです。
 原作は連載中ですし、お話は刊行中のコミックスの半分も行ってないくらいのところでとりあえず上手くまとめていて、トータルでものすごいメッセージとかテーマがあるとかではないかもしれませんが、私は何度も泣きました。「彼女は何故強いのか? 彼女が一番、強くありたいと願っているからだ」とか、「強さ」に関する印象的なセリフが多くて、そこが作品の肝だったのかもしれません。本当にいいガールズパワー作品でした。いや、主人公たちの性別はたまたまで、いい青春もの、ということでいいのかな。
 おそらく乃木坂ファンだけでチケットは瞬殺した舞台でしょうが、原作ファンや一般の舞台ファンにも広く観てもらえたらうれしいなあ。外連味のない、まっすぐすがすがしい、でも舞台としてもとてもよく工夫された、いい作品でした。
 客席は演劇を見慣れていない、そしてなんなら原作漫画も読んでいない乃木坂ファンが多いのか、主に笑いに関して反応が微妙でしたが、そのあとりも温まっていくのでしょう。いい原作と舞台と役者とファンの出会いになったのではないでしょうか。映画も楽しみです。



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