駒子の備忘録

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恩田陸『愚かな薔薇』(徳間書店)

2022年09月02日 | 乱読記/書名あ行
 夏が近づく季節、母方の故郷・磐座を訪れた奈智。14歳になると参加することになる2か月に及ぶ長期キャンプは、「虚ろ船乗り」の適性を見極めるためのもので…14年の連載を経て紡がれた、美しくもおぞましい吸血鬼SF。

 この作家の作品をそんなにたくさんは読んでいませんが、どうも毎度好みと違う気がします…今回は特に、あえてそうしているのかもしれませんが、ヤングアダルト小説臭が私には気に障りました。私がヤングでないからかもしれませんが…とにかく無意味な開業が多い気がしました。束が4センチくらいあるハードカバーになっていますが、本来もっとコンパクトに収まった気がします。
 また、登場人物たちに個性や魅力が足りない気がしました。なのでなんかキャラの見分けがあまりつかなかった…特にヒロインは、読者と立場を同じにするべく、何も知らされないままにこの地に送られた少女…ということにしたのでしょうが、あまりにもおたおたしすぎていて、自分の意志や考えというものがほとんどなく、イライラさせられました。これでは読者は共感したり感情移入したり、応援して読む気にはならないのではないかしらん…
 さらに、「変質」しても全然変わらなくて、つまらなかった…ここは読者から離れてしまっても、もっと何かすごいものになってしまうべきなんじゃないのかしらん…?
 また、吸血鬼と新人類(あるいは生命飛来説)と亜空間航法と惑星植民と…というイマジネーションのつながりはすごくわかるんですけれど、科学考証としてどうなのという点と、それを全然描かないまま終わるという、SFとしてのだらしなさ、情けなさが承服しがたかったです。焦点はそこにはなかったのだ、というならでは何が描きたかったのかと問えば、それも見えてくるものがなく、中途半端な、感傷的ですらない、ぼんやりした展開のままのオチで、ええぇ~ここまでこの枚数かけて書いてきてコレなの~!?とちょっとびっくりしてしまいました。
 長い期間をかけて連載されたものだそうで、その間に世の中も作家本人も変わったことでしょうし、一冊にまとめるときに何かもっと手を入れてもよかったんじゃないかと思うのですけれど、それでも手を入れてコレだったのでしょうか。あああ、もったいない…イヤ作家はこれで満足しているとかファンは大喜びで世評も高いのだ、とかならすみません。私が読みたいものが書かれていなかった、という難癖をつけているだけだったらすみません。でもなあ…なんだかなあ…
 萩尾望都に期間限定カバーのイラストを描かせていたり、14歳だの薔薇だの、『ポーの一族』にインスパイアされて生まれた作品だろうとは思うのですが、たとえば萩尾望都ならもっとおもしろいSFに、あるいは青春ものに仕立てたよ?と思うのでした。彼女が結局描かないままにしている『小鳥の巣』のキリアンの子孫のお話って、たとえばこんな世界観のものなのではないかしらん、とずっと以前から私は密かに考えていたのですけれどね…
 そんな、痒いところに手がちょっとだけ届かない、残念な読書でした。




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