駒子の備忘録

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新国立劇場バレエ団『マノン』

2009年12月12日 | 観劇記/タイトルま行
 新国立劇場、2003年10月29日ソワレ。
 パリ近郊の宿屋の中庭。馬車が到着し、修道院へ入る予定の美しい娘マノン(この日はアレッサンドラ・フェリ)が老紳士とともに現れる。老紳士はマノンに気があるらしく、マノンの兄レスコー(ドミニク・ウォルシュ)は彼女の見受けの相談を持ち掛ける。外に残されたマノンは、その場にいた神学生デ・グリュー(ロバート・テューズリー)と一目で恋に落ち、老紳士から盗んだ金で駆け落ちする。だがその場にいた富豪のムッシューG.M.(ゲンナーディ・イリイン)もまた、マノンに関心を持ち…アベ・プレヴォによる18世紀の小説『マノン・レスコー』をもとに作られた1974年初演のバレエ。振付/サー・ケネス・マクミラン、音楽/ジュール・マスネ。全3幕。

 なんというか…すごく繊細で、美しいものを観た気分でした。
 原作の小説は、どうやらもう少し複雑で、退廃した社会とか官能美とかアモラルななんとかかんとかとかを含んでいたようなのですが、舞踊劇になった分シンプルになっているというか、キャラクターに深みや一貫性が一見してないようにすら見える、なんだかその場だけの喜びに輝いている感じが、はかなげで不安げで不器用そうで、もっと賢しらに生きればいいのに、でも愛って結局そういうものかしら、このふたりってばもう…という感じになってしまったのでした。特にデ・グリューのソロがたくさんあって、なんだかほろりとさせられたくらいでした。

 4つのパ・ド・ドゥが有名ですが、どれも素敵でした。出会いのシーン、パリの下宿で同棲生活を送っている最中の言葉にすると
「あなたが好き!」
 と言い合っているだけの感じのシーン、一度別れたあと
「仕方なかったんだもん…」
 みたいな感じのシーン、流刑地から出奔した沼地の道行きのシーン。ぶんぶん振り回しているふたつ目と、くたくた崩れていくよっつ目がことに印象的でした。
 あと、お兄さんがよかったです(この人とかデ・グリューとか、ファーストネームじゃないのはなぜなんだろう…)!
 酔っぱらいシーンもよかったし、実は全幕通して一番嫌らしくて芝居としておもしろかったんじゃないかという1幕2場の、デ・グリューの留守の間に妹と富豪とで踊る金と誘惑のパ・ド・トロワ! ひゃー、って感じでした。しかしこの富豪はこれで殺人罪に問われんのか…そして売春で捕まっても買春は罰されないのか……うーむ。

 マスネはオペラで『マノン』を作っているそうですが、このバレエで使われる40数曲はすべてマスネの他の作品の楽曲から持ってきて組み合わされているそうです。うっとりとロマンティックでドラマティックで、物語によく合っていたと思います。
 あと、セットやお衣装が素敵でした。特に、マノンのスカートというかチュールというかが、ガーゼとかジョーゼットのような素材なのか、しなしなと足に絡み付く感じで、色っぽくてはかなげでぎりぎりのだらしなさもあって、よかったと思います。
 この演目が国内のバレエ団で上演されるのはこれが初めてだそうで、図らずもその初日を観たわけですが、コール・ド…とは言わないかな、脇役さんたちがものすごくよかったことは特筆したいと思います。女優、娼婦、紳士、兵士たちみんな、きびきびしていてかつ徒っぽくて、よく揃っていてかつ個性的で。群舞はこの時代・社会の猥雑さをすごくよく表現していて、物語の世界に奥行きを与えていたと思います。
 しかしこのバレエ団は、というか劇場は内紛というかなんかガタガタしているんでしたっけ? なんか会場でもらったパンフレットだか機関誌だかにそんなようなコラムがあって…大変だなあ…
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