駒子の備忘録

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清水玲子『竜の眠る星』

2020年06月23日 | 愛蔵コミック・コラム/著者名さ行
 白泉社花とゆめコミックス全5巻。

 24世紀のニューヨーク。ロボットで探偵のジャックとエレナは、とある依頼のために竜のいる星「竜星王」に向かうことになる。だがこの星にはエレナの閉ざされた記憶の秘密があった…

 『秘密』の感想を書いたときに気づいたのですが、私は清水玲子のコミックスは『輝夜姫』以外はすべて持っているにもかかわらず(この作品も読みましたが、友達から借りたか、持っていたけれど完結したところで満足して手放したか、だったと思います)、まったく感想を書いていなかったのでした。コロナ禍の暇に飽かせてひととおり再読し、『ノアの宇宙船』『22XX』『パピヨン』『MAGIC』『月の子』『WILD CATS』そして『秘密』とこの作品だけ残して、あとは手放すことにしました。いずれもSFとして好みなのです。その他の短編集は、その気になればまた電子とかでも読めるでしょうしね。初期、まだ人気や作風が確立されるまでは、現代日本を舞台にしたラブコメなんかもわりと無理矢理描いていて、その迷走っぷりが今読むと痛々しいやら微笑ましいやらです。でもちゃんと栴檀は双葉よりかんばしく、今も素晴らしい活躍をしている漫画家さんなのでした。

 さて、私はジャックは好きですがエレナはわりと嫌いです。万能だからこそのワガママさ、みたいなのがイヤ(笑)。私は子供っぽいキャラクターがわりと嫌いな、実は子供っぽい人間なのです。
 というかそもそもこのロボットの設定はかなり無理があると私は考えていて、そこに目をつぶらないとこのシリーズは読めない、というのが実はなかなかネックなのです。それもあって、このふたりの関係性にうまく萌えることが私にはできないのでした。これがけっこう痛いとは思います…
 ロボットが感情を持つことはあってもいいし、いくらでも再生できて簡単に死ねないので先に先に死ぬ人間相手には恋愛できず、ついロボット同士でつるむというのもわかります。エレナはセクスレスだから乳房も男性器も女性器もないのでしょうが、ジャックは男性型だから精巣はなくてもペニスと睾丸があるんですかね、それでどういうセックスをしているんでしょうね、とか私はついお下劣なことを考えるわけですが、そういうのもあってとにかくなんかあんまり萌えないんで、そこはまあいいです。とにかく、ジャックはともかくとして、エレナは性能が良すぎて強力すぎて万能すぎて無敵すぎて、殺し屋として働かされていた過去もあったりなんかして、それでも今は誰のなんの管理下にもなく、自律して自由に生きている(稼働している?)というのが、どうしてもありえない気がしちゃうんですよね。お金はあるからいいということなのかもしれませんが、そもそもロボットが財産を持てるのか?てか人権ないよね?みたいなことがどうしても気になってしまうのです。でもこのシリーズは、そして特に今回のエピソードは、とにかくそういう世界観の中で、無敵で死ねなくて狂えないからつらいことを忘れてただジャックだけを愛することで生きることができているエレナ、と、そんなエレナを愛していて、でもエレナほど強力じゃないしなんでも覚えていてすべて背負い込んでいるジャック、を描くものなのですから、そこを飲んで読むしかないのでした。

 萩尾望都なんかもそうですが、女性漫画家とでSF志向がある人は動物の行動学とか生殖とか進化論とかに興味を持って本を読んだりして勉強して、そこからわりとそのままイマジネーションを広げて作品にすることが多いように見えます。この作品でも、人間が(そういえばこのシリーズには宇宙人は出てこなくて、ワープ航法を手に入れた地球人類があちこちに出向いているだけの宇宙なのでした)セレツネワに入植してたかだか三百年くらいでふたつの人種に枝分かれして進化し戦争していて、しかも一方は両生類よろしく水中でかなりの長時間動けるようになっている…という設定がまずあって、そんな簡単に変化するかいなと早くもつっこみたくなります。
 あとはカッコウの託卵よろしく自分の娘をルルブの女王の子供とすり替えさせるシュマリ王、という設定にも、こういう権力が世襲される世界で血筋が問題となるときにいつも、DNA鑑定とかができない時代に(セレツネワは入植後に銀河文明との交流をほぼ断っていて科学的、文化的に後退している設定)単に自分の愛人が産んだというだけでそれが自分の子供だと信じられる男って脳天気だなーとしか思えず、つっこみたくなるどころかあきれてお話につきあうのをやめたくなる気持ちになるのですが、一応飲み込んで読み進めるのでした。
 しかしモニークってのはなかなか不憫なヒロインですよね。このエピソードにおいては彼女が主人公格の存在だと思うんですけれど、エレナにフラれるのはもちろんのこと、実際には血などつながっていない愛する母親の立場を守るため、自害するというのはなかなか破格の不憫さだと思います。ルルブの風習で王族の子供は成人するまで王宮には入らず、民間の家庭で育てられるそうなので、カテアとモニークはいわゆる親子っぽい生活をまったくしておらず、しかも血の血ながりがないことが発覚して、なんで親子の情愛なんか湧くのかね、という気もするんですけれど、少なくともモニークの方は美しく凜々しいカテアをずっと敬愛していたのであり、それが死後ではあれど最後の最後にはある程度報われて終わるので、まあよかったと言えば言えるのかもしれません。
 この星に隕石が降りがちなのはもともとという設定で、入植した人類のせいではないけれど、いろいろあってその隕石の落下のために避難し遅れていた人類始めすべての動植物が一度死滅し、しかし地下の洞窟に生き延びていた動植物がいて、恐竜もまた絶滅を逃れ…というのが、この物語の結末です。地球と違ってこの星では、人類が滅びて恐竜が生存した。その生存には人類からの寄与がちょっとだけあった…というのがミソの、物語です。無意味なことなんてないよね、生き物はただ生きていくしかないんだよね…というような、お話です。言葉にしちゃうと、アレですが。
 でも、エレナのために泣きエレナを抱きしめるジャックが愛しいので、やはり嫌いになれない作品なのでした。





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