駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

五十嵐貴久『編集ガール!』(祥伝社文庫)

2016年07月28日 | 乱読記/書名は行
 出版社の経理部で働く久美子は、突然新雑誌の編集長に任命されてファッション誌を作ることになる。編集未経験の彼女は大パニック! 集められた創刊メンバーはクセモノばかりで、彼氏の学まで部下になる始末。久美子は書籍編集者の学に頼るが、どこかとんちんかんで…働く女子が悪戦苦闘する、お仕事ラブコメディ!

 久々に怒りに震えあきれかえるレベルの小説を読みましたよ…仕事を、女性を、出版事業をナメまくっている。こんな小説を書いて平気な作家がいるなんて信じられません!
 ヒロインが抜擢されるきっかけになる企画書にはまったく目新しさがないし、それに関するフォローもひねりもオチもナシ。不安がって不平を言っているだけで何もしないキャラクターには終始イライラさせられました。
 ワンマンだけど敏腕で鶴の一声で企画を通すという社長も、設定だけで裏もオチもない。それじゃ単なる魔法使いじゃん、現実的なキャラクターとは思えません。
 とりあえずファッションページらしきものを作ろう、とスタイリングして撮影してみる…というのは100万歩譲っていいにしても、ホントに取材した? 中の人の話聞いたことある? 聞きかじった程度の知識で書いてない? ファッション誌編集部にいたことがない私が言うのもなんだけれど、こんな感じを想像するけれどでも絶対に現場ってこんなじゃないよ?とは言えます。安易すぎる、ひどすぎる。
 しかも学の身勝手さに関するリカバリーもオチもありません。編集経験者だから、というだけで、上司であるヒロインを無視して勝手にあれこれ進めて、反論されるとふてくされて投げ出して…経験のない、女性である、恋人を完全に下に見ていてまったく尊重しない男。なのに逆らわれたら不満たらたらで職場放棄していなくなる男なんて、人間としてなってなさすぎて別れた方がいいに決まっているのに、まさかの妊娠小説展開! 別れるどころか「会社を辞めて主夫になってきみを支えるよ」と言われてハッピーエンド、なんてありえない! 気持ち悪い!! それで喜んで結婚できるヒロインの気持ちが皆目わかりません!!!
 しかもこのヒロイン、経理出身ってことになっているのにお金の心配や算段をいっさいしていません。モデルやカメラマンやスタイリストのギャランティはいくらに設定されているのでしょう? 打ち合わせとということで喫茶店で飲んだお茶代に領収書をもらっているけれど、それが経費で落とせる予算があるの? そもそもこの雑誌が定価いくらで何万部が予想されていて原価率はどれくらいなの? なんでそういう部分を書かないの? この作家にとってヒロインが経理出身なのは「編集経験がない」ということのための記号にすぎないからです。総務でも人事でもいいってことなんです。でも出版社にだって経理も人事も総務も必要なのはあたりまえのことです。そこに取材はしないのか? そこにドラマは感じないのか? アタマの中の知識だけで書いて、よく作家面してられるな?
 誌面ができたって雑誌は創刊できません。資材とか制作とか広告とか宣伝とか営業とか取次とか書店とか電子とか、そういうこと全部すっ飛ばしてるのは何故? 知らないからでしょ、調べられなかったからでしょ、興味がないからでしょ。そんなナメた態度で出版業界のお仕事小説を書こうだなんて片腹痛いです。当の出版社もなんでこんな本を出版しちゃったの…?
 まあ帯に騙されて買って売り上げ上げさせちゃってる私みたいな読者がいるからいけないんでしょうが…
 お仕事ドリーム小説だとしてもあまりレベルが低すぎると思いました。文章も平易だけれどまったく滋味がない描写しかないし、話の展開がスローでリズムが悪い。素人か!
 他に何を書いている作家か知りませんが、たまたまこの作品だけがひどかったのだと、せめて思いたい気分です…



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 坂井希久子『ウィメンズマラ... | トップ | 宝塚歌劇花組『ME&MY ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

乱読記/書名は行」カテゴリの最新記事