日生劇場、2022年10月27日13時。
ニュージャージーの貧しいイタリア系の若者がどん底の生活から抜け出す道はみっつ。軍隊へ行く、マフィアに入る、スターになる。そんな町で犯罪と隣り合わせの生活を送るトミー(この日は藤岡正明)は、兄と友人ニック(この日は大山真志)とともにバンドを組み、スターとしての成功を夢見ていた。そこに現れたのが弟分のフランキー(この日は中川晃教)。トミーはフランキーの歌に天賦の才能を見出し、彼の「天使の歌声」が成功へのチケットだと確信するが、なかなか日の目を見ない。そこへ加入したのが作曲の才能にあふれるボブ(この日は東啓介)で…
伝説のヴォーカルグループ「ザ・フォーシーズンズ」のフランキー・ヴァリ、トミー・デヴィード、ボブ・ゴーディオ、ニック・マッシの四人のメンバーそれぞれの視点から辿る、栄光と波乱に満ちた春夏秋冬の物語。
脚本/マーシャル・ブックマン、リック・エリス、音楽/ボブ・ゴーディオ、詞/ボブ・クルー、翻訳/小田島恒志、訳詞/高橋亜子、演出/藤田俊太郎。2005年ブロードウェイ初演、2016年日本初演。コンサート・ヴァージョンも含めると五度目の日本上演、全2幕。
20年に帝国劇場で予定されていた三演がコロナ禍でコンサート版での上演となり、やっとミュージカル版で上演できる…となったのが今回だったようですね。かつ、これまでずっとシングルキャストでやってきたフランキー役に花村想太がついに参戦、というトピックスがあって話題だったのかと思います。観たことがなかったので気になっていて、でもいわゆるジュークボックス・ミュージカル(プログラムによればカタログ・ミュージカル)で、ライブみたいでストーリーは薄いよ、アナタには向かないかも、と何人かの知人友人たちから聞かされていました。でもやっぱり気になったので、リセールチケットでチームBLACKを手配して出かけてきました。今回のもう1チームはGREEN、尾上右近と有澤樟太郎、spiだそうです。中川グリーン、花村ブラックみたいな役替わりというかチェンジ回もあったそうですね、おもしろい趣向だと思います。過去のチーム名はレッド、ホワイトなどだったとか。
セットが三階建てで(美術/松井るみ)、舞台の上下の袖近くにモニターが詰まれていて、盆もよく回って、印象的でした。というか、私はバンド名も歌手名も知らず曲も「Sherry」と「君の瞳に恋してる」しか知らないぐらいでしたが、まったくもって問題なく楽しめました。というかおもしろかった! 別に、ライブみたいで話がないということは全然なかった! キャラもドラマもストーリーもしっかりしていました。もちろんキャストがアンサンブル含めてみんな歌が上手くて芝居が達者だったということもあります。音楽もので歌えない人がやるとか、ホントやめてほしいですからね。そして実話というかある種の史実(というほど昔の話ではなく、ニック以外はみなさんご存命なわけですが)をもとにしているとはいえ、非常によくできた、上手く構成された物語、舞台だと思いました。もちろん本当のところはもっといろいろあったのかもしれないけれど、それはまた別の問題なので、これはこれとして、作品として上出来ならそれでいいのです(あとは当人たちや関係者たちがこれでよしとしているのであれば)。私はワクワク楽しく観ました、ラストは泣きました、フィナーレは気持ちよくスタンディングして手拍子しました。ペンラもけっこう振られていたのでリピーターが多い舞台なのかもしれませんが、ハナからうちわ受けしているとか歌も聞かずに手拍子して盛り上がってうるさいとかはまったくなかった。非常にお行儀のいい客席で、みんながみんな集中して真摯に舞台を見守っていて、新参観客としても居心地がよかったです。次にまたキャストを変えて公演されるならまた行きたい!と思いました。
こちらなんかでも語っていますが、私は自分に音楽やチームの素養や経験がないこともあって、バンドものやオーケストラものにそれだけで強く惹かれます。もちろんそれだけに出来が悪いものには辛口になりがち、というのもあるかもしれませんが…今回は本当に終始ワクテカでした。
少年院? 刑務所?? ともあれそんなところを入ったり出たりの転落人生スレスレで生きていたトミーとニックが、「天才」フランキーと出会いやっとバンドの原型を為す、トミーが語る「春」。さらにボブが加わってバンドができあがり、売れ始めていく、ボブが語る「夏」。成功や栄光につきものの(何故つきがちなのか! 何故ちゃんとできないのかは私にははっきり言って謎ですが!!)酒、女、ドラッグ、ギャンブルといったトラブルから始まる不和、それこそバンドに秋風が吹き始める、ニックが語る「秋」。そしてフランキーが語る「冬」は解散と再結成コンサートと死別のエピソード…実によくできていると思いました。逆に、こんなに「物語」に定番なドラマチックな事実があっていいのか、と思えるくらいです。
真に才能があるのは「天使の歌声」の持ち主フランキーと、全作曲を手がけたボブ、というのはわかります。でもバンドってそれだけじゃ絶対にダメなんですよね、バンドのリーダーはトミーだ、というのはすごくよくわかります。彼がやりたくて仲間を集めて始めたんだし、音楽的なことはもしかしたら平均的であっても、プロデュース力やマネージメント力があるタイプ、要するに人間力あふれるタイプで、猿山のボスだろうとボスはボスなんです。パワーと情熱と求心力がある。一方で、そういうマッチョな男ほどもろく、空威張りしがちがある、というのもまたすごくよくわかる。そこにこれまたニックみたいな、無口な、温和な、オトナな、みんなに慕われ頼られる縁の下の力持ちタイプの第四の男が必要だ、っていうのもものすごくよくわかる。だからこの四人だったのでしょう、そういうのを全部まるっと含めてバンドという生命体なんですよね。
でも、そのニックがトミーにキレる。それもまたすごくよくわかります。そして亀裂が入り、やがて崩壊する…使えないほど稼いでいても常に足りなくなるのがお金、そして揉めごとの争点になるのもまた常にお金だったりもします。そして家族、そして健康、そして人生…音楽より、バンドより、大事かもしれないものはこの世には実はたくさんあるのでした…
そんな普遍的な事実を、感傷的になりすぎずに、しかしとても絶妙に魅せてくれる、素敵な作品だったと思いました。
女性陣もまた素晴らしい、役も中の人も。男性陣も何役もこなして、スイング含めて立派でした。メイン四人はみんな何かの舞台で観たことがある人で、私は今回それで選んだわけですが、お初も多いグリーンも観てみたかったです。見比べていたらまたいろんな発見があったんだろうなあ。そういうのもこういう舞台の醍醐味ですよね。
このあと新歌舞伎座、博多座、大楽は横須賀までのツアー、ゼヒ事故なく無事の完走をお祈りしています!
ニュージャージーの貧しいイタリア系の若者がどん底の生活から抜け出す道はみっつ。軍隊へ行く、マフィアに入る、スターになる。そんな町で犯罪と隣り合わせの生活を送るトミー(この日は藤岡正明)は、兄と友人ニック(この日は大山真志)とともにバンドを組み、スターとしての成功を夢見ていた。そこに現れたのが弟分のフランキー(この日は中川晃教)。トミーはフランキーの歌に天賦の才能を見出し、彼の「天使の歌声」が成功へのチケットだと確信するが、なかなか日の目を見ない。そこへ加入したのが作曲の才能にあふれるボブ(この日は東啓介)で…
伝説のヴォーカルグループ「ザ・フォーシーズンズ」のフランキー・ヴァリ、トミー・デヴィード、ボブ・ゴーディオ、ニック・マッシの四人のメンバーそれぞれの視点から辿る、栄光と波乱に満ちた春夏秋冬の物語。
脚本/マーシャル・ブックマン、リック・エリス、音楽/ボブ・ゴーディオ、詞/ボブ・クルー、翻訳/小田島恒志、訳詞/高橋亜子、演出/藤田俊太郎。2005年ブロードウェイ初演、2016年日本初演。コンサート・ヴァージョンも含めると五度目の日本上演、全2幕。
20年に帝国劇場で予定されていた三演がコロナ禍でコンサート版での上演となり、やっとミュージカル版で上演できる…となったのが今回だったようですね。かつ、これまでずっとシングルキャストでやってきたフランキー役に花村想太がついに参戦、というトピックスがあって話題だったのかと思います。観たことがなかったので気になっていて、でもいわゆるジュークボックス・ミュージカル(プログラムによればカタログ・ミュージカル)で、ライブみたいでストーリーは薄いよ、アナタには向かないかも、と何人かの知人友人たちから聞かされていました。でもやっぱり気になったので、リセールチケットでチームBLACKを手配して出かけてきました。今回のもう1チームはGREEN、尾上右近と有澤樟太郎、spiだそうです。中川グリーン、花村ブラックみたいな役替わりというかチェンジ回もあったそうですね、おもしろい趣向だと思います。過去のチーム名はレッド、ホワイトなどだったとか。
セットが三階建てで(美術/松井るみ)、舞台の上下の袖近くにモニターが詰まれていて、盆もよく回って、印象的でした。というか、私はバンド名も歌手名も知らず曲も「Sherry」と「君の瞳に恋してる」しか知らないぐらいでしたが、まったくもって問題なく楽しめました。というかおもしろかった! 別に、ライブみたいで話がないということは全然なかった! キャラもドラマもストーリーもしっかりしていました。もちろんキャストがアンサンブル含めてみんな歌が上手くて芝居が達者だったということもあります。音楽もので歌えない人がやるとか、ホントやめてほしいですからね。そして実話というかある種の史実(というほど昔の話ではなく、ニック以外はみなさんご存命なわけですが)をもとにしているとはいえ、非常によくできた、上手く構成された物語、舞台だと思いました。もちろん本当のところはもっといろいろあったのかもしれないけれど、それはまた別の問題なので、これはこれとして、作品として上出来ならそれでいいのです(あとは当人たちや関係者たちがこれでよしとしているのであれば)。私はワクワク楽しく観ました、ラストは泣きました、フィナーレは気持ちよくスタンディングして手拍子しました。ペンラもけっこう振られていたのでリピーターが多い舞台なのかもしれませんが、ハナからうちわ受けしているとか歌も聞かずに手拍子して盛り上がってうるさいとかはまったくなかった。非常にお行儀のいい客席で、みんながみんな集中して真摯に舞台を見守っていて、新参観客としても居心地がよかったです。次にまたキャストを変えて公演されるならまた行きたい!と思いました。
こちらなんかでも語っていますが、私は自分に音楽やチームの素養や経験がないこともあって、バンドものやオーケストラものにそれだけで強く惹かれます。もちろんそれだけに出来が悪いものには辛口になりがち、というのもあるかもしれませんが…今回は本当に終始ワクテカでした。
少年院? 刑務所?? ともあれそんなところを入ったり出たりの転落人生スレスレで生きていたトミーとニックが、「天才」フランキーと出会いやっとバンドの原型を為す、トミーが語る「春」。さらにボブが加わってバンドができあがり、売れ始めていく、ボブが語る「夏」。成功や栄光につきものの(何故つきがちなのか! 何故ちゃんとできないのかは私にははっきり言って謎ですが!!)酒、女、ドラッグ、ギャンブルといったトラブルから始まる不和、それこそバンドに秋風が吹き始める、ニックが語る「秋」。そしてフランキーが語る「冬」は解散と再結成コンサートと死別のエピソード…実によくできていると思いました。逆に、こんなに「物語」に定番なドラマチックな事実があっていいのか、と思えるくらいです。
真に才能があるのは「天使の歌声」の持ち主フランキーと、全作曲を手がけたボブ、というのはわかります。でもバンドってそれだけじゃ絶対にダメなんですよね、バンドのリーダーはトミーだ、というのはすごくよくわかります。彼がやりたくて仲間を集めて始めたんだし、音楽的なことはもしかしたら平均的であっても、プロデュース力やマネージメント力があるタイプ、要するに人間力あふれるタイプで、猿山のボスだろうとボスはボスなんです。パワーと情熱と求心力がある。一方で、そういうマッチョな男ほどもろく、空威張りしがちがある、というのもまたすごくよくわかる。そこにこれまたニックみたいな、無口な、温和な、オトナな、みんなに慕われ頼られる縁の下の力持ちタイプの第四の男が必要だ、っていうのもものすごくよくわかる。だからこの四人だったのでしょう、そういうのを全部まるっと含めてバンドという生命体なんですよね。
でも、そのニックがトミーにキレる。それもまたすごくよくわかります。そして亀裂が入り、やがて崩壊する…使えないほど稼いでいても常に足りなくなるのがお金、そして揉めごとの争点になるのもまた常にお金だったりもします。そして家族、そして健康、そして人生…音楽より、バンドより、大事かもしれないものはこの世には実はたくさんあるのでした…
そんな普遍的な事実を、感傷的になりすぎずに、しかしとても絶妙に魅せてくれる、素敵な作品だったと思いました。
女性陣もまた素晴らしい、役も中の人も。男性陣も何役もこなして、スイング含めて立派でした。メイン四人はみんな何かの舞台で観たことがある人で、私は今回それで選んだわけですが、お初も多いグリーンも観てみたかったです。見比べていたらまたいろんな発見があったんだろうなあ。そういうのもこういう舞台の醍醐味ですよね。
このあと新歌舞伎座、博多座、大楽は横須賀までのツアー、ゼヒ事故なく無事の完走をお祈りしています!