シアター・アルファ東京、2022年10月13日19時。
これは私の物語。決して華やかな主役なんてガラじゃないけど、たくさんの人たちと出会い、たくさんの人たちを見てきたから、そんな私だから伝えられる物語があると思う。私だけが伝えられる物語があると思う。たとえるならここは皆の思い出を集めた小さな雑貨店。さあ、民よ私に跪け、崇め讃えよ、命乞いをしろ。とても穏やかで優しくて、どこかせつない物語がやってくる…
作・演出/土屋亮一。全1幕。
シベ少、名前だけは聞いていたんですよね。今回は漫画家のとよ田みのるのイメージビジュアルが可愛かったのと、上手く都合が合ったのでシュッとチケットを取って出向いてきました。しかしこの劇団名はどこから来ているんだ、♪か~なし~みのぉう~らが~わになぁにぃがあるの~
恵比寿駅からまあまあすぐの劇場の客層は若く、久々に「わあ、自分、おばさん!」と思う空間に身を置きました。客席に対して舞台が低く、手前に場面を作って役者に座ったり寝たりされると後方座席からは前の観客の頭で遮られて何も見えなかったので、これは芝居の作り方を改善していただきたいと思いました。あとは舞台奥上手にも出入り口を作っていたけれど、そこから出入りする役者が上手手前の壁に遮られて上手端の席の観客からは全然見えず(3席センター寄りの私でギリだった)、ウケる場面でも全然ノレていなかったので、この見切れも解消していただきたいです。こんな小さいハコでこの不具合は残念でした。
作・演出の土屋氏が前説?に出てくるのは毎度のこととなんでしょうか。しかし今回はこれがキモだったのですね。やたらと役者の人数のことを言うな、とは思っていたのですよ。でも役者が10人だからって11人いる!みたいな話でもなかろうし…とかしか思っていなかったんですよね。あとは、何者でもない自分がこんな挨拶を…みたいなのも、単なる謙遜ギャグとしか思っていなかったわけです。それがまさか、こう作品に直結してくるとは…!
序盤は何やらのどかな離島の人々の暮らしが点景的に描かれて進みます。しかし暗転による場面転換ばかりだなとか、短い場面ばかりでテレビドラマじゃないんだから舞台って演劇ってもっとこうさあ…とか思っているうちに、小さい島ながらどんどん出てくる役が増えていき、まあ小さい座組だと役者がひとり何役かしたりするよね、とか思っていたら…あとは観てのお楽しみ(笑)。そうキタか!という、これはそんな「私の物語」なのでした。なんだろう?と興味を惹かせるという点でも、作品の本質としても、タイトルが秀逸で素晴らしい!!
思えば、ヨシオ(川井檸檬)はハナから診療所に入り浸っていてクドー先生(野口オリジナル。てかこれはやはり『Dr.コトー診療所』から来ているの…か?(笑))に憧れているようだったけれど、だからって医大に行きたいとかそういう具体的なことは言いませんでした。つまり、先生は東京からやってきた島唯一の医者で、優しくて頼りになってみんなから慕われている、人気者なわけで、ヨシオは「そういうものに私はなりたい」ってだけだったのでした。まあ中学生っぽいと言えば言える、しかしそれがまさか…というお話で、笑うわ怖いわ舞台裏が心配になるわな(しかしオマケのネタバレペーパーを見るとあたりまえですが周到に計算されていたことがわかる)とてもおもしろい舞台でした。私だったら最後にいい話にしちゃうオチをつけると思うんだけれど、この作品はやりっ放しで暗転して、明るくなったら舞台は空で終演アナウンスが流れ、「あっ、さっきので終わり!?」となった客席がどっと沸く、までがセットの作品だったのでしょう。鮮やかでした!
女優さんは見分けやすいんだけど、男優さんは私の目にはそこまで特徴的でなかったり役もそこまで特徴がないものも多く、どれを誰がやってたんだっけ?ってのが判別しにくくなるのもかえってなかなかミソでした。個人的には、ちょっと変わった声の小関えりかが素敵だなと思いました。瀬名葉月もよかったな(笑)。
年2回くらい、基本的にはちゃんと新作を上演している劇団なんですね。また観てみたいです、おもしろい観劇体験でした。