映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

太陽のめざめ(2015年)

2016-09-17 | 【た】



 若い母親(サラ・フォレスティエ)は、夫に捨てられ、乳飲み子と6歳の男児マロニーを抱えて全てに行き詰ったのか育児放棄してしまったらしい。マロニーが2か月も学校を休んでいることで、判事フローランス(カトリーヌ・ドヌーヴ)に裁判所に呼び出され、思うにまかせぬ現実にブチ切れ、マロニーの目の前で「こんなガキ、くれてやる!」と捨て台詞で部屋を出て行ってしまった。見慣れた光景なのか、表情はいたって普通のマロニー。

 10年後、不良少年に成長したマロニー(ロッド・パラド)は、母親の愛情に飢えているせいか、極度のマザコンで、なおかつ感情のコントロールが効かず異様な攻撃的性格となっていた。問題ばかり起こすマロニーだが、フローランスは温情ある措置をとりつづけ、かつては不良少年だった教育係ヤン(ブノワ・マジメル)をつけ、なんとかマロニーを立ち直らせようとしたのだが、、、。

 手の付けられない暴れん坊少年マロニーくんの成長譚(?)。


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 カトリーヌ・ドヌーヴとブノワ・マジメルの出演、かつ評判も良い、となれば見たくなりますわ。、、、が、これは私はちょっとイヤかも。その理由を書きます。


◆妊娠&出産で一発解決

 始めに本作の結末から書いてしまいますが、大いなるネタバレですので、悪しからず。

 マロニーは、はずみでしたセックスで妊娠させた女の子に子どもを産ませ、父親になったことで立ち直るきっかけを得る、というのがこの映画のオチです。これが、一番イヤな理由。誰もが手を焼き頭を悩ませる問題を、妊娠&出産で一発解決するというのはよくあるパターンですが、ものすごく安易で、最も嫌いな解決策なのです。

 映画はここで終わりなので良いですが、マロニーがあの後、父親としてそれまでとは別人のように真面目な大人になれると、皆さん本気でお思いで? まさかでしょう。これは、マロニー2世を再生産する物語であって、マロニー更生の物語とは言い難いのでは。誰もが内心そういう感じを薄々抱いたのでは。

 魅力的なキャラであるフローレンス判事や、教育係のヤンの存在のおかげで、マロニーが葛藤しながら大人になっていくように描かれていますけれど、よくよく考えると、彼自身、本質的には変わっていないと思うのです。

 赤ちゃんができる直前にも、弟を誘拐して自らの無免許運転の車(しかも盗んだ車)に乗せ、挙句、事故って弟を怪我させています。で、結果的に刑務所送りとなり、、、。刑務所ではマロニーは泣いています。この涙はでも、母恋しさであり、刑務所に入れられた情けなさであり、彼が本当に“気づき”を得た涙には、私には見えませんでした。

 というか、マロニーが“気づき”を得た瞬間が、本作にあったのでしょうか、、、。私には分からなかったです。

 パンフに、精神科医の斎藤学氏がこう書いています。「少年拘置所を脱走したマロニーは、正に人工流産の措置を受ける寸前のテスを、手術室に乱入して助け出す。この瞬間、マロニーは17歳とは言いながら大人の男になった」、、、そーでしょうか? そんな楽観的な見方で良いのでしょうか?

 我が子を得たことが、“気づき”を得たということなんだよ、というご意見も当然あるでしょうが、そこがイヤなんです、私は。

 子どもが出来ただけでそれまでメチャクチャだった人間が、ころりと真人間になれるのであれば、世界中の不良少年たちはパパになれば良いのであって、何も福祉施設や関係者が汗水たらして支援する必要なんかないのでは??



◆親は一人じゃない

 本作のマロニーの母親は育児放棄していますが、その原因はいくつかあって、身近な人の手助けもなく孤独であることや、経済的にひっ迫していることです。

 でもこれは、本来、母親だけが抱え込まなければいけない問題ではないはず。子どもは、女一人では絶対に出来ません。男がいるから出来るのです。父親が物理的にも経済的にも母親を助ければ、これらの問題の多くは解決できます。母親の未熟な精神は解決しませんが。

 日本でも、数年前に大阪で育児放棄の事件が起きましたが、あの時、叩かれたのは母親だけです。父親については誰も問題視しない。親権が母親なんだから、ってことでしょうか。今の日本では共同親権は認められていません。しかし、父親は親権がなくても、親には違いなく、子を世に送り出した以上、育てる義務は本来母親と同様にあるのです。なのに、誰も父親を責めない。

 逆パターンもあります。母親が逃げちゃって、父親が子と取り残され、育児が出来ずに子を放置、、、。そして子が亡くなり、父親が逮捕されたけれども、母親は直截的には何の責任も問われない。、、、おかしくないか?

 つまり、未熟な男(女)が、未熟な女(男)とテキトーにセックスした結果、子をなして、生物学上は父親(母親)になっても、社会的には父親(母親)になり切れず、妻(夫)もろとも子を捨てるケースは掃いて捨てるほどあるってことです。その場合、捨てた方は、捨てた後に子に災いが起きても責められるどころか、責任さえ問われない。

 マロニーも、生来、我慢が出来ない性質で、最大限の我慢を強いられる子育てを順調に何年もできるのか。途中で放棄し、彼女と子を捨て、彼女が育児放棄に陥ったとして、マロニーはどう責任をとるっていうのか。

 本作は、そういう意味では、ものすごく無責任な解決策を提示した罪深い映画とも言えるのでは?

 そこまで悲観しなくても、、、と言われるかもしれませんが、フィクションの世界であるからこそ、そういう安易な展開にしてほしくなかったのですよ、私は。


◆ローチなら、、、

 本作は、ちょっと扱うテーマが、ローチの映画に通じるものがあると感じます。ローチだったらどう描くかなぁ、、、と思いました。ローチの映画にも、未熟な少年に子が出来て、、、という話の映画『天使の分け前』があります。他にも、少年に子が出来ちゃう話はあるかも知れませんが、私が見たローチ作品で思い浮かぶのはこれだけです。

 ただ、天使~では、子が出来ることは、作中でのメインテーマでは全くありません。目立たないサイドストーリーです。子が出来るほかに、主人公には能力を発揮する分野が見つかるという、メインストーリーがあります。飽くまで“自分の力で自分の居場所を確保する”ことが主題。そう、自力で立ち上がってなんぼでしょう、人生。それに加えて子が出来れば、確かに、真っ当に生きるその後の道が見えてエンディングを迎えても、見ている方は納得できる。

 ローチ作品に一貫しているのは、人生で躓いたとき、立ち上がるのは自分自身でしかない、けれども、ほんの少しだけ周囲の暖かい見守りも必要、というもので、そこがとても共感できて好きです。それ故、非常に内容はシビアで胸締め付けられるものが多いけれども、必ず一筋の光明は見いだせる。救いとまでは言えない、そんな甘い映画はローチは作らないけれども、完全な絶望も描かない。本当に、一筋の光明、、、という程度のものが提示される。

 ローチのシビアさは求めていないけれど、それにしても、本作はあまりにもイージーだと思いました。だからイヤなんです。


◆その他もろもろ

 16歳のマロニーを演じたロッド・パラド君、“アラン・ドロンやリバー・フェニックスの再来”なんて言われているとか。、、、そ、そーかなぁ。私は、ずーっと彼の顔を見ながら「勝地涼に似ているなぁ~」でした。似てませんかね? 彼をもうちょっと目力強くしたら、ロッド君、って感じでは? 本作が本格的な初演技だったとかですが、初めてとは思えない役者っぷりでした。セックスシーンにも堂々と挑んでおられました、下半身晒して、、、。すげぇなー、フランス人の少年は。

 すぐキレる役、って難しいだろうなと思いました。常にイライラし、自分をコントロールできない、そういう“感じ”を纏うってのは、なかなか出来る芸当じゃないはず。でも、ロッド君、マロニーが地じゃないか? と思えるほど実にナチュラルに演じておられました。素晴らしい。

 ドヌーブ様は、今さら何も言うことはありません。後姿は、ものすごく肥えてオバサンですが、不思議と醜くなく、老いても年相応に美しい。ムリに若作りしたりせず、老いながら美しいを体現されている。知的な判事役、ハマっていました。

 ブノワ・マジメルは、結構久しぶりに見たのですが、え゛~~~、これがあのブノワ・マジメル?? と思っちゃうほど、老けましたね、彼。もちろん、オッサンになってもイイ男ですが。なんか疲れた感じがセクシーです。

 セクシーと言えば、終盤、ヤンがマロニーに「愛してる」って言われるシーンがあるのですが、その時の、ブノワ・マジメルの照れっぷりが実に可愛い、というか、セクシーなシーンでした。前出の斎藤学氏も「マロニーがヤンに「ジュテーム」という場面にエロティスムを感じた」と書いておられて、おぉ、同じことを感じた人がいたのだ、と嬉しくなりました。

 あんまりストーリー的には好きじゃありませんが、映画としては見どころ一杯だと思います。





子が出来ただけでオコチャマがオトナになるなら苦労しないよ。




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2 コメント

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ちっちゃな頃から悪ガキで~♪ (松たけ子)
2016-09-18 23:18:13
すねこすりさん、こんばんはagain!
確かに、あんな簡単に更生しちゃうのは、ちょっと???でしたよね~。ギザギザハートがぶり返して、女房子供に向かわなきゃいいけど…
ロッドくん、リバーじゃないですよね~。勝地涼、確かに似てる(笑)。気づかんかった!
貫禄恰幅ありすぎなドヌーヴ。枯れた熟年ブノワも、なかなか味わいがありましたね。
もうカープはヤバい新興宗教状態で、広島県民は毎日狂信的に応援する秋ですが、そろそろ映画やドラマも観たいです♪
嗚呼、カープ。 (松たけ子さま(すねこすり))
2016-09-19 20:56:29
たけ子さん、こちらにもコメ&TB、ありがとうございます!
ロッドくん、途中から勝地涼にしか見えなくて… 困りました。
カープの優勝、ちょっと落ち着いたら、たけ子さんのとこにお邪魔してコメさせてもらおうと思ってたんですが、なんかまだ、現実感がなくて…。11日付の全国紙各紙を職場から失敬してきて、週刊誌も買い集めて、全部関連記事読み漁ったけど、まだ夢のようです。
日本一になるまで応援しましょうね!

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