映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

タクシー運転手 約束は海を越えて(2017年)

2018-05-05 | 【た】



以下、公式HPよりストーリーのコピペです。

=====ここから。

 ソウルのタクシー運転手マンソプは「通行禁止時間までに光州に行ったら大金を支払う」という言葉につられ、ドイツ人記者ピーターを乗せて英語も分からぬまま一路、光州を目指す。

 何としてもタクシー代を受け取りたいマンソプは機転を利かせて検問を切り抜け、時間ぎりぎりで光州に入る。“危険だからソウルに戻ろう”というマンソプの言葉に耳を貸さず、ピーターは大学生のジェシクとファン運転手の助けを借り、撮影を始める。

 しかし状況は徐々に悪化。マンソプは1人で留守番させている11歳の娘が気になり、ますます焦るのだが…。

=====ここまで。

 
☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜


 あんまし韓国映画は見ていない方だけど、新聞の評を読んで、俄然見たくなって劇場まで行ってまいりました。1日のサービスデーだったせいか、満席ではなかったみたいだけど、すごい混雑ぶり。評判に違わぬ佳作でした。


◆史実をベースにした映画は“見る姿勢”が難しい。

 光州事件 ――。何となくそんなニュースをやっていたような気がするなぁ、という程度の記憶しかない、、、。いまだに韓国でも真相が解明されたとはいえない事件らしいが、当時は北朝鮮の介入説など、陰謀論も渦巻いており、いまも陰謀論はタブー視されつつも地下では根強く残っているとのこと。

 でも、まあ、これは飽くまで映画。ソン・ガンホ演じるキム・マンソプは個人タクシーの運転手という設定だったけど、実際には、ソウルのホテル付のタクシー運転手だったそうだし。

 民衆蜂起を軍が武力で制圧した事件、として見ることが前提なので、真相云々はここでは置くとするけれど、史実に基づいた映画ってのは、見る者にとってはここが難しいんだよねぇ。映画で描かれたことを史実として受け止めてしまうことのリスクを、一応は弁えておきたい。

 ……というエクスキューズをした上で。

 序盤は笑いもあるほのぼの系、中盤は緊迫の展開、終盤は怒濤の脱出劇、とメリハリの効いた展開で2時間超の長尺を感じさせない。特に、中盤から終盤にかけては息つく暇もなく、史実に基づいた事件を扱いつつもエンタメ要素てんこ盛りで、よく出来たシナリオだと思う。

 なんと言っても、マンソプを演じるソン・ガンホが素晴らしい。学のない貧しいタクシー運転手で、時の政府を信用し、ソウルでデモなんかに参加している大学生に「親の金で大学行って何やってんだ! お上の言うこと聞いてりゃいいだろ、この国ほど住みやすい国はない!」なんて本気で思っているオヤジを好演している。

 マンソプは、妻とは死別しており、可愛い一人娘を男手のみで育てている。娘が顔に傷を作っているのを見て、大家の息子に怪我させられたと思い込んで怒鳴り込むと、逆に大家の奥さんに「アンタの娘にやられた」と息子の顔の傷を突き付けられた上に、「4か月の家賃10万ウォンも滞納して、早く払え! でなきゃ出て行け!」と逆襲されるという、、、情けないダメ父ぶり。でも、実はこの大家の奥さんは、マンソプが光州から戻ってこられなくなると、娘の面倒を見てあげるという、根は優しい善い人で、人情ドラマも描かれる。

 とにかく、マンソプは10万ウォンを払いたいがためだけに、食堂で小耳に挟んだ別のタクシー運転手のもうけ話を横取りすることにする。ホテルまでドイツ人ビジネスマンを、その別のタクシー運転手になりすまして迎えに行き、拙い英語で「レッツゴー、ハンジュ(光州)!!」などと脳天気に言って、そのドイツ人を強引にタクシーに乗せてしまうんだけれど、このドイツ人ピーターを、トーマス・クレッチマンが演じている。

 が、行ってみれば、光州は地獄絵図が展開されていた、、、という、思わぬ展開。ここから、作品の雰囲気が一変する。


◆終盤は、マッドマックスらしいよ。

 光州に入って、散々な目に遭ったマンソプは、一夜明けて、ピーターを置いて、こっそりソウルに戻ろうとする。そのとき、マンソプとピーターを泊めてくれた光州のタクシー運転手がくれた、地元の人間も知らない抜け道を書いた地図と、光州ナンバーの偽造ナンバープレートのおかげで、あと少しでソウルという所まで来る。

 正直、見ている方も、ヤレヤレこれで無事に娘ちゃんに会えるね、、、と思う半面、これで終わり? それってアリ? と思う。

 そして、やっぱり、マンソプはそこからまた、光州へ危険を冒して戻るわけ。ピーターとの最初の約束は、光州へ行って無事にソウルに帰ってきたら10万ウォン、だったから、約束を果たしていない、ということもあるけれども、やはり、マンソプとしては自分が信じていた政府が同胞に容赦なく銃撃を加えていた現実にいたたまれない、という気持ちが大きかったのではないか。光州へ戻る決断をする一連の彼の行動がそう思わせる。

 戻った光州は、前日よりも酷い状況になっていて、マンソプも死にそうな目に遭う。もうとにかく、この辺りのシーンは緊張の連続で、息をするのも忘れそうな感じ。私服軍人なる人たちがとにかく怖ろしい。ロボットみたいに無機質にどこまでもマンソプらを追い掛けてくるし、容赦なく攻撃してくる。

 光州市民たちのたっての願いで、ピーターの撮った映像を何とか持ち出すため、ピーターをタクシーに乗せ、再びソウルを目指すマンソプ。

 で、ここからが怒濤の脱出劇で、ほとんどアクション映画、、、というか、カーチェイス映画になっていく。一部じゃ『マッドマックス 怒りのデスロード』と重ねて言われているけど、私は、そもそもマッドマックス見てないんで、そんなこと言われてもピンとこない。けれども、まあ、何となく分かる。使っている車は多分、マッドマックスより大分見劣りするんだろうけど、追っ手の車は小型の高速装甲車みたいなゴツさで、外観だけで十分怖い。こんなのに囲まれたら生きた心地がしないよなぁ、、、。

 光州のタクシー運転手たちが、マンソプとピーターの乗ったタクシーを全力で追っ手から守るんだけど、ここは多分、完全な創作だろうね。


◆その他モロモロ

 まあ、結果的には、マンソプらは無事にソウルに戻ってきて、間一髪、ピーターは韓国を出国できた。

 映画として盛り上げるために、光州を脱出する際、検問で軍のお兄ちゃんに隠してあったソウルナンバーのナンバープレートを見つけられながらも、その軍のお兄ちゃんは見て見ぬふりをして検問を通してあげるシーンとか入れたんだろうけど、そこまでしなくても良かったような。そんなシーンなくても、十分手に汗握るシーンの連続なわけで。

 あと、マンソプは本作ではピーターに本名を教えないんだけど、実際には、金砂福という本名は分かっているらしい。ただ、ピーターのモデルとなったユルゲン・ヒンツペーターと金砂福は、事件後再会していないようなので、演出的にこのような展開にしたのかな。ラスト、生前のヒンツペーターがメッセージを話す映像が出ます。

 それはともかく、光州に入ったその晩、帰れなくなったマンソプらを泊めてあげた光州のタクシー運転手の家での、ささやかな楽しいひとときのシーンとか、そこに突如襲う銃声とか、硬軟の織り交ぜが絶妙。やり過ぎな部分もあるけど、それを補って余りあるエンタメ映画に仕上がっていると思う。終盤、泣けるという書き込みも目にしたけど、私は、泣けるというより、とにかくホッとした、という感じだったなぁ。

 問題は、最初に書いたとおり、これが、光州事件という歴史上の事件をベースにしていることだけど。

 トーマス・クレッチマン演ずるピーターは、記者魂の感じられる役だったけれど、若干、存在感薄いかも。それより、トーマス・クレッチマンが結構老けていたことがショック。『戦場のピアニスト』では、あんなに凜々しかったのに、、、。15年経ってるからなぁ。ううむ、ちょっと衝撃。

 それにしても。韓国映画界は、正直なところ、日本映画界より先を行っているのではないですかね。少なくとも、今の日本で、本作レベルの映画は作れていないと思う。本作のように政治絡みでもエンタメに仕上げる根性がそもそも邦画界にはない。守りに入っている世界で、新しいもの、感動させられるものは、そりゃ出てくるはずはないよね、、、。経済だけじゃなく、政治も、映画も、日本はどんどん周囲から後れて行っているようで、哀しい。

 最後に、ゼンゼン本作とは関係ないけれど、私の敬愛するピアニスト、マウリツィオ・ポリーニの言葉を。現代音楽について語った重い言葉です。

 「現代音楽に関して、私にも好みはあります。しかし、先入観は全くありません。そして、私が本当に嫌いなのは、安易な音楽、簡単な方法で聴衆を喜ばせようとして作った音楽、過去の模倣に過ぎない音楽、上昇を志したアバンギャルドの偉大な瞬間を拒絶した音楽なのです。私がこうした音楽を嫌うのは、理論的な理由からではありません。ただ、それを聴いてみて、全く気に入らなかった、ということなのです」


 

 





トーマス・クレッチマンがキムチを食べています。




 ★★ランキング参加中★★

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ペンタゴン・ペーパーズ/最... | トップ | ザ・スクエア 思いやりの聖... »

コメントを投稿

【た】」カテゴリの最新記事