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「壺石文」 中 4 (旧)八月二日、三日

(裏の畑のアマリリス)

「壺石文 中」の解読を続ける。

二日暁、起きて見るに、雲というもの空に見へず。西日の夕づく頃、重満(しげまろ)がり招かれて、行きて宿る。
※ がり(許)- ~の所へ。~の元へ。
※ 夕付く(ゆうづく)- 夕方になる。


三日、主の乞うまゝに、物したりける、栗の屋文集のはしがき、

やゝ肌寒き秋の間に訪れて、ほろ/\とこぼるゝ物は何ならんと、耳傾(かたぶ)けて遣り戸開けて見いだせば、庭の(まがき)に結い添えたる笹栗なりけり。こゝの事知れる人の物言うを聞けば、古しえに栗ヶ柵と言いし処はこのわたりなりとぞ。さらば、こゝに家居(お)らす神の宮人、安藤ノ重麿主(ぬし)の古しへ学の窓の名(書名)に負ぶせてん。この主の、猥りがわしく掻い集むる書をば、栗の屋文集となん名付くめる。
※ 籬(まがき)- 竹や柴などで、目を粗く編んで作った垣。
※ 笹栗(ささぐり)- シバグリの別名。
※ 栗ヶ柵(くりがさく)- 二本松市の旧町名。この一帯は非常に堅固な地形のため、畠山義継の家臣であった遊佐内蔵介は、この地に館を構えて「栗ヶ柵館」と称した。
※ 猥りがわしい(みだりがわしい)- 整理されていなくて乱雑である。


   三つ栗の 中つ昔の 雅びたる
        言の葉草を 掻き集めてよ

※ 三つ栗(みつぐり)-(枕詞)(いがの中の、三つの実の中央の栗の意から)「なか」にかかる。
※ 中つ昔(なかつむかし)-(大昔ではない)少し昔。


殊更に題を出して、諸ともに書ける詞、禁中の月ということを、

  弓弦の音に驚いて見れば、格子さながら酔い惑いしたる曹子の内なりけり。
  名対面も過ぎぬらんかし、滝口の宿直(とのい)申すの声、今ぞ聞こゆなる。
  降り立ちて見れば、壺前栽の虫の音に、気負いて乱れがちなる。
  露の白玉に、きら/\と映ろいて、やゝ更けゆく月影は、こよのうこそ。
※ 弓弦(ゆづる)- ゆみづる。弓に張る糸。
※ 格子(こうし)- 遊郭で、格子女郎のいる所。
※ 曹子(そうし)- 公家の子息でまだ独立していない者。
※ 名対面(なだいめん)-宮中で、夜中の定刻に、宿直の殿上人の点呼を取り、姓名を名乗らせること。
※ 滝口(たきぐち)- 御所、清涼殿の庭を警護する兵士は、清涼殿東庭北東の「滝口」と呼ばれる御溝水(みかわみず)の落ち口近くにある渡り廊を詰め所にして宿直した。それで、清涼殿警護の武者を「滝口」と呼ぶ様になる。
※ 壺前栽(つぼせんざい)- 中庭の植え込み。


読書:「山伏地蔵坊の放浪」有栖川有栖 著
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