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「壺石文」 上 27 (旧)七月廿五日(つづき) (「上」終り)

(我が庭のシノブグサ)

「壺石文 上」の最後の注、「しのぶもじずり」に出てくるシノブグサである。

午後、掛川図書館の「お茶と文学者」講座へ出席した。参加者は20人弱で、その8割弱は女性であった。その第1回は「森鴎外とお茶」、軍医としての森鴎外は、陸軍には和食とお茶を提唱した。(海軍は洋食だった)カフェインなどお茶の効能も調査している。一説には、退役した軍人達が全国にお茶を飲む習慣を持ち帰り、お茶を全国に広めることに、大いに貢献したという。お話の後、和三盆のお菓子と深蒸し茶を頂いた。

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「壺石文 上」の解読を続ける。

あわれ、この世にあらましかば、と思うも甲斐なしかし。この女の妹一人、生き残りて、この隣たる山里、吉野辺という所によすが定まり居て侍り。いかで対面(たいめ)給わらば、になう喜び侍りてんを、いざ給いてよ、と唆(そそのか)されて、後(しり)に付いて行く。
※ よすが(縁)- 身や心を寄せて頼りとするところ。身寄り。
※ になう - になく。比べるものがなく。この上なく。


山懐(やまふところ)の田面(たづら)の道を四十町ばかり行きて着きてけり。本意の所は少し高き岡の辺にて、清き瀧川、門の外(と)に流る。うちつけの見る目涼しげにて、をかしげなる家居なりけり。さゝやかにて、侘びしげなれど、新室なりければ、いと清々なり。
※ 本意(ほい)- 本来の目的。
※ うちつけ(打ち付け)- じっくり観察しないさま。ちょっと見。
※ をかし - 趣がある。風情がある。
※ 新室(にいむろ)- 新しくつくった家。


声作りつゝ、家に入れば、案内(あない)の男(おのこ)、しか/\゛となん言うめる。これなんそれならんと見れば、五十ばかりなる女(おむな)の丈高き、出で来て、対面(たいめ)す。
※ 声作り(こわづくり)- わざと声を作って言うこと。こわづくろい。

早くいわけなかりし時、さる人ありとのみは、人伝えながら、ほの聞き置きたる事の、耳の底に残りたるを形見に掘り出でて、言いしらう声遣いは、陸奥濁み、鼻声がちにて、はやりかなると、駿河濁み、物うげにもて、静めたると、扱き混ぜて、問うも答(いら)うも異々にて、あわれなるものから、かつは、おかし。母刀自、姉君、この世におわさば、如何は喜び侍らざらんなど、言いつゝも、泪落すめり。
※ いわけなし(幼けなし)- 幼い。
※ 言いしらう - 互いに言い合う。
※ 声遣い(こわづかい)- 声の出し方。物の言い方。口調。
※ 陸奥濁み(みちのくだみ)- 東北訛り。「濁み」は訛(なま)り。
※ はやりかなる - 調子が速くて軽快だ。陽気で弾んでいる。はしゃいでいる。
※ 扱き混ぜる(こきまぜる)- まぜあわせる。
※ 異々にて(ことことにて)- 別々にて。まちまちにて。


   包めども 泪は袖に 満ちのく(陸奥)
        しのぶもじずり 乱れがちなる

※ しのぶもじずり - しのぶずり。石の上に布を置き、「忍草( しのぶぐさ)」の葉・茎を摺りつけて乱れた模様を出したものという。一説に、陸奥の国の信夫郡(今の福島市一帯)に産する織物の模様ともいう。

(壺石文 上 終り)
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