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今川氏真誓状

(今川氏真誓状)

「駿遠の考古学と歴史」講座で、S先生から、一枚のチラシを渡された。「玉津島 -衣通姫と三十六歌仙-」和歌山市立博物館の夏季特別展のチラシであった。その裏面に「今川氏真(うじざね)誓状」の影印があって、それを解読してもらいたいとの話であった。こういう依頼は2度目だが、勉強になるので積極的に引き受けている。有名な文書なので、探せば解読されたものがあるだろうが、ここは自分なりに解読してみた。読み下し文で示す。

今川氏真誓状(冷泉家時雨亭文書蔵 国指定文化財)

      敬白起請文の事
古今伝授の事、仰せ聞けさせられ候、
一言半句と雖も、口外これ有るまじく候。
殊に数代、御門として弟子の儀、異他
の条、毎事(ことごと)疎略為すべからず候様、
子孫においても、別条存ぜず候。然る上は、
御家門に対し申し、末代と雖も、疎意存じ
まじく候。存じ違いの儀においては、

日本国中、大小神祇、住吉、玉
津嶋太明神、富士當社浅間
太菩薩の御罰蒙るべく候。よって件の如し。
   九月十二日  氏真花押
 冷泉殿
   人々御中

※ 敬白(けいはく)- うやまい謹んで申し上げるの意。
※ 起請文(きしょうもん)- 平安時代末期から江戸時代までの古文書の一つ。自己の行動を神仏に誓って遵守履行すべきこと、違反した場合は罰を受ける旨を記した文書。
※ 古今伝授(こきんでんじゅ)- 歌道伝授の一。中世,古今集の語句の訓詁注釈を師から弟子に伝え授けたこと。
※ 異他(いた)- 他の人。
※ 毎事(ことごと)- 事あるたび。事件の発生するたびごと。
※ 別条(べつじょう)- 他と変わったこと。いつもとは違った事柄や状態。(ここでは、「異議」の意)。


S教授より、そのチラシを渡された際に、誓状に年の解る記載がないけれども、戦国大名今川氏最後の当主であった今川氏真の、波瀾万丈の生涯の、何時の時代のものだろうと、疑問が出された。そこで、ネットで検索しまくった結果、以下のように時期を特定してみた。

この起請文は古今伝授を受けた時に提出したものである。里村紹巴の『富士見道記』には、氏真が冷泉為益(為和の子)から作法の伝授を受けたと記されている。氏真が上洛するのは、今川氏が没落した後、天正3年(1575)である。冷泉為益は元亀元年(1570)に没しているので、京で会うことは出来なかった。里村紹巴が永禄10年(1567)、駿河を訪問した時期、冷泉為益が駿府に滞在していたと書き残している。おそらくその頃に駿河で古今伝授を受けたものと想像できる。「富士當社浅間太菩薩」の名前が入っているのは、駿河で書いた起請文であることを示しているのではなかろうか。従って、この誓状は永禄10年(1567)頃、氏真30歳頃のものと考えられる。
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