goo

「竹下村誌稿」を読む 336 衛生 7

(散歩道の大根干し、)

今日は赤穂浪士の討ち入りの日。故郷では討ち入り蕎麦を食べる日だったが、当地にはそんな風習はない。故郷は、大石良雄の妻、りく女の出た所で、藩の家老の娘であったとか。そんな所縁での討ち入り蕎麦だったのだろう。今でもそんな習わしが残っているのだろうか。年越し蕎麦も間もなくだが、その風習は当地にもある。

午後、駿河古文書会で静岡へ行く。今日は受付当番。会員は順調に増えているようだが、病気や亡くなられて目減りする分も多い。受付をしていると、そんなことが耳に入ってくる。

********************

「竹下村誌稿」の解読を続ける。

一 発疹窒扶斯(発疹チフス)

径路 内外専門家の多年研究を重ぬるも、未だ病原菌を発見するに至らざるを憾(うら)みとす。この病は急性接触性伝染病にして、非衛生的生活境遇にあるものに最も感染し易く、即ち貧民窟、飢饉、監獄、戦時などに発生し易きものなり。故に貧民窟チフス、飢饉チフス、監獄チフス、戦時チフスなどの異名あり。汚れたる衣服とか、虱の付着して居る着物などより感染すること多く、特に虱は有力なる媒介者にして、恰(あたか)もペストに於ける鼠の如く、密接なる関係を有せるものなり。但し、人間の虱に限るものにて、動物に居る虱は伝染せざるものと知るべし、兎に角、その黴菌が、ある機会に体内に侵入せしより起きるものにて、何れにしても不潔なる土地、不潔なる生活者より発生するを常とすれども、その径路は判明ならず。

症候 一、二週間の潜伏期を過ぐれば、突発的に悪寒、戦慄を覚え、三十九度乃至四十一度位の高熱を発し、顔面は赤く腫(は)れ、三日乃至五日位にして、特有の発疹を生じ、第三週に入れば、漸次下熱し回復に向えるも、高熱の際は脈搏微弱となり、心臓弱り、脾臓腫脹し、発疹の数は頗(すこぶ)る多く、かつ出血性にて、頭痛を訴え、精神朦朧となり、嗜眠状を呈し、囈語を発し、舌は乾燥して白苔に被われ、鼻腔より時々鼻血を出すことあり。発疹は最初赤色にして、胸部及び上膊、次に腹部、下肢、背などに現われ、後青色となりて消失す。その劇甚なること、腸チフス以上にあり。
※ 腫脹(しゅちょう)- 炎症などが原因で、からだの組織や器官の一部がはれ上がること。
※ 嗜眠(しみん)- 半ば眠ったような状態。強い刺激を与えないと覚醒し反応しない状態。
※ 囈語(げいご)- うわごと。病気で熱の高いときなどに無意識のうちに口走る言葉。
※ 上膊(じょうはく)- 腕の、肩からひじまでの部分。


予防法 何ら特殊の予防法も治療法もあらずといえども、虱が媒介すると、発病地が貧民窟などにあるにより見るも、第一家屋の内外を清潔にし、身体衣服の不潔ならざる様に注意するを肝要とす。もし頭、衣服、陰毛などに虱を発生せば、水銀軟膏の塗擦を行い、剿殺し、衣服は煮沸(しゃふつ)し、畳の敷菌合せにはナフタリンを撒布し、患者に接近せず、流行地に行かざれば、絶対に冒さるゝことなしと知るべし。
※ 塗擦(とさつ)- 塗りつけて、すり込むこと。
※ 剿殺(そうさつ)- 壊して殺すこと。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )