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第5回古文書解読基礎講座「洞慶院相続歎願書」

(解読中の古文書「洞慶院相続歎願書」)

昨日の古文書解読基礎講座の続きである。

二つ目の文書は「洞慶院相続歎願書」である。洞慶院は静岡市の西方、羽鳥にある古刹である。市内では梅の名所として知られて有名である。1502年大巌禅師によって、洞慶院の住職を、崇信寺、永明寺、智満寺の三寺で、一年任期の輪番で務める制度が始められた。長年その制度が実施されて来たが、ある住職が輪番に応じない事態が発生した。その住職が亡くなって元の輪番制に戻ったけれども、揉め事は明治まで引きずっていた。一方、明治になって廃仏毀釈の騒動もあり、輪番制の揉め事が再燃したのであろう。詳しいことは窺えないが、この文書にはそういう背景がある。この文書のあと、明治五年からは輪番制が廃止され、独住職の寺となった。

書き下し文を以下へ示す。

         
一 先般洞慶院相続方の義、書付を以って歎願申上候ところ、早速書面を御取りあげに相成り、各寺一同有り難き仕合せに存じ奉り候。右御取調中、恐れを顧みず再応を願い上げ奉り候義は、当月二十八日までに輪番住交代に相成り候えば、最早切迫に相成り、差しあたり独住の御許容を蒙りたく存じ奉り候。しかる上は、本寺大洞院始め、可睡斎へも盆前に届出でたく存じ懸りに御座候。なにとぞ格別の御仁恵を以って急速に願いの通り、仰せ付け為され下し置かれ候はば、有り難き仕合せに存じ奉り候。以上。
   明治四辛未年 七月 日        大谷村   大正寺 ㊞
                      原田村   永明寺 ㊞
                      梅ケ谷村  真珠院 ㊞
                      上長尾村  智満寺 ㊞
                      桂山村   長光寺 ㊞
郡方 御役所


※ 覚(おぼえ) - 「覚え書き」と同じ。忘れないように書き留めておく文書。
※ 存じ懸りに - 気がかり、気を揉んでいるといった意味か。
※ 仁恵 - 思いやりの心と、恵み。類語として「情け」。

この文書には古文書では多用される言い回しが幾つか出てくる。擬漢文特有の言い回しである。以下へ原文を抜き出し、書き下し文を示す。

難有仕合ニ奉存候   有り難き仕合せに存じ奉り候
不顧恐          恐れを顧みず
奉願上候         願い上げ奉り候
蒙御許容度奉存候   御許容を蒙りたく存じ奉り候  
懸存ニ          存じ懸りに
被為仰付         仰せ付け為され
被下置候        下し置かれ候

これらの言い回しは覚えておくと古文書の解読が大変楽になる。くずした文字が一文字ではわからなくても、言い回しで想像が出来るためである。

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