平成18年に60歳を迎える。六十と縦に書くと傘に鍋蓋(亠)を載せた形である。で、「かさぶた(六十)日録」
かさぶた日録
第2回古文書解読基礎講座「入学依頼状」
早くも一週間経って、第2回古文書解読基礎講座で靜岡中央図書館に行った。
本日は「返読」が学習テーマである。江戸時代頃から昭和初期まで、主に手紙に、漢文風の「擬漢文」という文章が普通に使われていた。文字を、順序通りではなくて、順番を逆に読む返読が多用されている点が漢文に似ているけれども、仮名が混じっており、漢文ではない。今日はこの「擬漢文」で書かれた手紙のサンプルを2通解読した。「入学依頼状」と「暑中見舞状」である。解読しながら、返読に利用される「レ点」「一ニ点」「上下点」を学んだ。予習してだいたい読めると踏んでいたのだが、異体字、当て字、言い回しなど独特な読み方があって、改めて鼻をへし折られた気分である。
まずは「入学依頼状」である。
【 解読 】
入学頼之文
先以倍御静康被(レ)遊(二)御座(一)奉(二)敬賀(一)候
然は倅義幼稚ニ候得共早々手跡為(レ)致(二)稽古(一)度御頼申上候處御承引被(二)成下(一)忝奉(レ)存候
幸今日者日柄宜為(レ)致(二)入門(一)可(レ)申候何卒御世話可(レ)被(レ)下候
随而白銀壱封御祝儀之験迄進上仕候御収納可(レ)被(レ)下候外ニ茶巾餅三百是ハ御門弟御子達江御披露奉(レ)頼候
追付寅市召連参上可(レ)仕候頓首
【 読み下し 】
入学頼みの文
先ずもってますます(倍)御清康御座あそばされ、慶賀奉り候
然れば倅義幼稚ニ候えども、早々手跡稽古致させたく御頼み申上げ候処御承引成し下され、かたじけなく(忝)存じ奉り候
幸い今日は(者)日柄宜しく入門致させ申すべく候、なにとぞ(何卒)御世話下さるべく候
したがって(随而)白銀壱封御祝儀のしるしまで進上仕り候、御収納下さるべく候、外ニ茶巾餅三百是は(ハ)御門弟御子達へ(江)御披露頼み奉り候、追っ付け寅市召しつれ参上仕るべく候、頓首
「入学依頼状」で注意すべき点を書き留める。
・「先以」は「先ずもって」と読む
・「倍」という字は一字で「ますます」と読む。他にも「益」「増」も一字で同じ読み
・「静康」「敬賀」は今は普通「清康」「慶賀」と書く
・「然は(者)」は「しかれば」
・「候得共」「候へ共」はともに「候えども」
・「為(レ)致(二)稽古(一)度」は「稽古致させたく」
・「忝」は「かたじけなく」
・「奉(レ)存候」は「存じ奉り候」
・「可(レ)被(レ)下候」は「下さるべく候」
・「随而」は「したがって」
・「験」は「しるし」、「印」「徴」も同じ読み、ただしここでは「印」の方がふさわしい。「験」は「ききめ」、「徴」は「きざし」の意味を含んだ「しるし」である
・「追付」は「おっつけ」
・「召連」は「召し連れ」
※ 手跡(しゅせき) - 筆跡
※ 承引(しょういん) -承知して引き受けること。承諾。
※ 白銀(白銀) - 江戸時代、銀を長径約10センチの平たい長円形につくって紙に包んだもの。多く贈答用にした。
※ 頓首(とんしゅ) - 手紙文の末尾に書き添えて、相手に対する敬意を表す語。
たったこれだけの短い手紙文で、これだけの注意書きが必要となった。この手紙、ごく標準的なもので、昔の人はすらすらと読んでいたのである。
(「暑中見舞状」は明日へ続く)
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