2014年10月8日(水)2:05-7:50pm オペラパレス、初台
新国立劇場 プレゼンツ
ニュー・プロダクション
ワーグナー作曲
ハリー・クプファー、プロダクション
パルジファル 109′ 70′ 77′
キャスト(in order of appearance)
前奏曲での登場
1.僧侶3人
2.アムフォルタス、エギルス・シリンス
2.グルネマンツ、ジョン・トムリンソン
3.クリングゾル、ロバート・ボーク
3.クンドリ、エヴェリン・ヘルリツィウス
4.聖杯騎士2人+4人
5.アムフォルタスに水をやる子供
第1幕以降
1.グルネマンツ
2.クンドリ
3.僧侶3人
4.アムフォルタス
5.パルジファル、クリスティアン・フランツ
6.ティトレル、長谷川あきら
他
新国立劇場合唱団
二期会合唱団
飯守泰次郎 コンダクティング、
東京フィルハーモニー交響楽団
(タイミング)
前奏曲 13′
ACTⅠ
53′(パルジファル登場37′付近)
場面転換
43′
int 45′
ACTⅡ70′
int 35′
ACTⅢ
53′(聖金曜日38′付近)
場面転換
24′
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この日はクプファーのパルジファル、ニュープロダクションの三日目です。
初日 二日目
曲線の無い舞台ではある。蛇腹のような光る道、巨大メッサー、ティトゥレルの高い椅子、鋭い直線が散らばる拡散系のクプファー装置。最後のシーンでパルジファル、グルネマンツ、クンドリ、騎士たち、光る道を散らばりながら奥の僧侶のほうに歩いていきエンディング。解は自分で見つけろ、と。
直線はメタリックな感はそんなにないのですが、どちらかというと、システム、のようなことを感じさせてくれる。聖杯はマストなものであり、ワーグナーの契約物語風というよりルール遵守的なストーリーにはうまく乗っているような気がする。第3幕場面転換後パルジファルが、アムフォルタスが投げつけようとした聖杯を槍で抑止、巨大メッサーを槍先で動かす。角々しくも劇的な場面が続きます。こうなってくるともう、直線力学の世界観。僧侶の組み合わせも違和感ない。三角形的にバランスした3人は、呆然とばらばらに近寄るパルジファル、クンドリ、グルネマンツの3人衆と数の上では一致。
直線指向ながら対称形の美学は放棄していると思われるので、座る位置によりキーポイントになるシーンが見えなかったりする。例えば第2幕クリングゾルが槍を放ちパルジファルが受け止めるシーン、左側の席に座ると見えづらいと思います。クンドリの登場はしもて側からでありそれも左サイドに座るとわかりづらいと思います。センター席取れないなら右側の席に座るのがいいですね。出来事が大体わかります。
光る道は縦移動が全体の中でどちらかというと非線形を示していると思いますが、固定した光る道と道の縦移動により歌い手のとるポジションが自然に決まってくる。槍投げのポジションは改善の余地あり。
いずれにしても、曲線の無い舞台。唯一、第1,3幕の場面転換後の紗幕の絵模様だけが曲線です。
オケピットのティンパニとブラスは、かみてに位置しているので、これまた左側に座ると今度はモロにドデカい音の攻撃に合います。好きな人にはいいと思います。ブラスはかなり荒いが、もともとワーグナーのブラスは荒い。往々にして荒い場面で使われるのですから問題ありません。二日目は4階席あたりからオーケストラにブーイングがありましたけれど、こうゆうところだったのかもしれません。他日別の席でも観ろ、と進言しておきます。
あと、指揮の飯守の声がかなり出ております。ブラスの咆哮時はわかりませんが、弦が歌うところではホール全体に聴こえているのではないか。
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グルネマンツを歌うトムリンソンは、初日、二日目よりはよくなりつつある。体調もよさそう、ピッチ問題はだいぶクリアできてきたようだ、だけれどもやはり安定感に欠く。ワルキューレのヴォータンも大変だと思うのですが、それとは別の力学でも働くのだろうか、困難を極める役柄なのだな。それに幕開き前奏曲のところ、アムフォルタス役の大柄シリンス抱きかかえのシーンから始まるので、歌わなくてもいきなりしんどい。
トムリンソンは今一つだが、まわりの連中がやっぱりすごいの一言に尽きます。みんななぜか這って歩くシーンが多いのですが、基本的に動きは良い。歌も明瞭で美しい。口を大きく開いた歌唱のヘルリツィウスは特にクリアで聴きやすい。みなさんむらが無く劇的な中にも滑らかさが漂う美しい歌唱ですね。
グルネマンツもアムフォルタスも出番のない第2幕。
クリングゾル&クンドリ
クンドリ&パルジファル
パルジファル&クリングゾル(ちょっとだけ)
これら3人での掛け合いは迫力ありました。特に中間のクンドリ&パルジファルはセリフがわからないと辛いところもある長丁場ですが、こうゆう場合、字幕の効果は絶大ですね。納得の歌唱でありました。この3人歌のバランスよく役どころもはまっている。見ごたえ聴きごたえありました。
この幕には出てきませんが自分としては、アムフォルタスのシリンスが良かったと思います。他の公演で何度か聴いておりますけれど、今回の歌で彼の素晴らしさがよくわかりました。柔らかいバスで、何よりも苦しい声でないのが好ましい。このオペラでの役どころは苦しさ満点のものなのですが、ちょっとだけでも目を閉じて歌に集中してみるとソフトで深みのあるバスが滑らかに流れていくのを聴くことが出来ます。良かったと思います。
タイトルロールのフランツはもうなんども聴いています。これまでと同じようにそつのない安定感。
ヘルリツィウスは体当たり的白熱演技、非常に丁寧な歌唱でクンドリのあらぬ美学さえ感じさせてくれました。
アムフォルタスが救済を、と叫ぶのは逆説的な話ではあるのですが、そこで彼に背を向ける動きの統率がとれた合唱。合唱が一つの個体としてまとまったりうまく散らばったりと演技は相応に目配りのきいた良いものでした。歌に関しては、シンコペーションだらけの曲と思いますが、角がぬるい。もうちょっと鋭角的な歌唱が望まれます。全員、自分は全員の中の一人だと思ってはいけませんね。彫が浅い。
おわり
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