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736-で1984年2月29日のバーンスタイン指揮ウィーン・フィルのアメリカ公演のことを書いたが、翌日その評がニューヨーク・タイムズに載った。
レビュアーはジョン・ロックウェル。
新聞評を自由に引用しながら記してみる。
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まず、1984年のウィーン・フィルによるアメリカ公演はこのカーネギーホールの3回公演を皮切りに8つの都市を回るというツアー。指揮は全てバーンスタイン。
ウィーン・フィルのアメリカ公演はやはり特別のようで、難しい単語も並ぶ。
このオーケストラの演奏にふさわしい言葉は‘significance’というよりも‘reaffirmation’とか‘attestation’ということらしい。西洋の音楽の核を形成している中央ヨーロッパのオーケストラ・レパートリーを解釈するオーケストラにはこのような堅苦しい言葉であるが格式のようなものが備わっているのであり、言葉としては妥当なもの。
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今鳴っている楽器ができたところにあるオーケストラであり、その時代から続くもの。ウィーン・フィルは録音ではなく、やっぱり生で聴くことに意味がある。来日公演はだから意味深いことなのだ。
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バーンスタインはアメリカ人が見ても派手な棒振りだ。でも、今ではウィーンのオーケストラ、国立歌劇場で大活躍。若いころの情熱が衰えることがない。
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一夜目のプログラムはハイドンの交響曲第88番とベートーヴェンのエロイカ。これらが作曲された時代の間隔はたかだか20年。ハイドンは小編成で、その前半のプログラムのアンコールとして第4楽章アレグロ・コン・スピリートを繰り返した。といっても、棒を振っているわけではなく演奏者たちに自由にしゃべらせるような感じ。
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アメリカのヴィルトゥオーゾなオーケストラや完璧主義者ヘルベルト・フォン・カラヤン率いるベルリン・フィルに比べたらオーケストラの切れ味、輝きがいま一つ。しかしそれを補って余りある暖かくて楽しい、そして歌う演奏がここにはある。
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エロイカは広がりがあり本当に素晴らしい演奏であった。第1楽章提示部を繰り返した超ロングな演奏は全体で約56分に達した。ハイドンではソロ楽器がいま一つであったが、エロイカでは断然素晴らしく、特に葬送行進曲、第4楽章は見事であった。
葬送行進曲、バーンスタインの確信に満ちた棒のもと、ウィーン・フィルの限りなく正統的な演奏はこのオーケストラの正しさを示す。
第4楽章のアレグロ・モルトはさらに素晴らしい。第3楽章のスケルツォからアタッカで第4楽章へ突入。ホルンの音は狩猟を思い起こさせる。なにもかもが素晴らしい。
結局、それら全て今日のカーネギー・ホールは満足のゆくものであった。
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といった評。
河童の評とほぼ同じ。
ウィーンという響きにこのロックウェルもやられている。
おわり
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