河童「大失敗をしてしまった。」
静かな悪友S「なんだ。また酔っ払って身ぐるみはがされたとか。」
河童「似て非なる。実は一昨日の6日(水)、山野楽器で買ったCD8枚。うちに着いたらないのだよ。つまり山野の白袋をどっかに置いてきてしまったみたいだ。」
S「ははぁん。山野楽器のあと、どこぞの並木のクラブで撒き餌につられてしけこんだのだな。酩酊状態の河童の荷物なんかだれが拾うものか。」
河童「いやいや、最近は河童の皿が渇いてしまって、お酒を飲まなくてもめまいがするんだ。」
S「おやおや、仕事のせいとは言わせないぜ。」
河童「原因がいまひとつ不明で、ストレスではないかという医療診断もあるようだ。」
S「まぁ、いままでの悪行の数々のことを思えばそれぐらいのリバウンドがあってあたりまえかもしれないな。少しは反省してるのかね。」
河童「ざんげは済んだ。Time is gone.」
S「人生リセットありだな。それでどこでどうなったんだ。」
河童「その日は、山野楽器を出たあと、地下鉄を3つ乗り継いで帰ったんだが、途中例のめまいがして眠りこけてしまい、どこまで山野の白袋をもっていたのか記憶が飛んでしまってるんだ。」
S「それで?」
河童「それで最寄の駅で事情を説明したのだが、地下鉄会社の紛失届け係りに電話をしろ、と電話番号の印刷してある紙切れをもらいその日は帰った。翌日朝その3路線に電話をかけまくったんだが、いずれからもそんなものはないと割と丁寧に無視された。」
S「ということはまだプロセスの途中ということだな。」
河童「そういうことだ。」
S「それでその河童の聴くCDっていうのはどんなものなんだい。」
河童「最近出たマルケヴィッチの20タイトルのうち、まだ買ってなかった4枚。それにデニス・ラッセル・デイヴィスの棒でブルックナーの2番と3番。それに、」
S「それに?」
河童「ロバート・ジェラードのプレイグ、と、ロベルト・ゲルハルトのペスト。」
S「ちょっとまて、その最後の2枚。同じものだろう。」
河童「そうだね。同曲異盤。NHK風に言うとゲルハルトのペスト。」
S「誰も知らない。みんな知らない。知ってなくても生きていける。」
河童「そうゆうこった。」
S「曲者デニスのブルックナーは怪しいな。」
河童「よもや彼がブルックナーを振るとは思わなかったが、最近は頭もすっかり禿げて高僧のような趣があるね。ブルックナー8番とか超面白演奏だし。今回の2番3番も帰ってすぐ聴こうと思ったのだが、夢は散る、めまいのごとく、そこはかと。」
S「また買えばいい。ところでマルケヴィッチのCDは聴きものだな。」
河童「そうなんだ。16枚そろえて、残り4枚というところでこの体たらくだ。」
S「そう言えばあのDVD見たか。右左の腕別々に4拍子と3拍子を同時に振ってたキモイ映像。」
河童「ああ、あれね。でも死ぬ間際の生演奏見たことあるから、それに比べたらリアルさではかなわないよ。」
S「ほほぉ、また出たな、ナマ話。」
河童「マルケヴィッチは1983年に死んだのだが、直前N響を振っちゃってるんだな。」
S「らしいな。」
河童「あの時は、たしか、ムソルグスキーの展覧会の絵、と、チャイコフスキーの悲愴、だったと記憶する。もうかなりきていて、手先がプルプル震えて危ない指揮だった。それでも鋭い目つきだけは忘れられん。彼は目でも指揮出来た。演奏の内容はまた思い出すとして、彼の目口とんがった鼻、なんとなく河童風な顔だよね。」
S「そういわれてみればそうだな。知る人ぞ知るいい指揮者だった。」
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河童「ところで紛失物戻るかな。」
S「各路線会社から、無い、って言われたんだからもうアウトだろ。」
河童「いや、拾った人間の気が変わって駅に持ってくるかもしれない。だから2,3日は電話しようと思う。」
S「いくら分ぐらいだったのかね。」
河童「8枚で1万円ちょいだね。」
S「その拾った人間にあげればいいじゃないか。クラシック普及に貢献できたら1万円ぐらい惜しくないだろ。それこそ並木あたりでその何倍も落とし続けてきたんだろ。過去に。
それを思えば音楽の普及なんて安いもんだぜ。」
河童「論理が飛んでるような気もするが、実感がある分、なんとなく説得力あるね。」
S「でもなぁ、ゲルハルトのペストなんて誰が聴くんだろう。拾った方も迷惑かもしれない。ヤフオクでも売れない。どこのジャンルに出しいいかもわからないかもしれない。」
河童「それは余計な心配だよ。とにかくもうすこし探すぜ。見つからなければ最後の手段がある。」
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