2019年11月7日(木) 7pm サントリー
ベートーヴェン 交響曲第3番変ホ長調Op.55 英雄 16-14-6+11
Int
シュトラウス 死と変容 22
ワーグナー タンホイザー 序曲 14
ヘルベルト・ブロムシュテット 指揮 NHK交響楽団
●
締め付けからの解放、意識された解放ではない所作。演奏が硬直しない。
冒頭に置かれたエロイカ、その劈頭楽章は最初の打撃2音のみ三拍子振り。あとは最後まで1拍子を貫く。2012年バンベルク響のときと概ね同じスタイル。あのときは最初の2音も1拍子振りだった記憶。
棒を持たなくなって空気をこねるような、粘土細工でもしていそうな動きだけれども、オケはそのほうがいい音が出るとでも言いたげなほどにナチュラルで、なにやら、邪魔じゃない指揮、N響ならではのハイスキル、ハイ意識集団からにじみ出てくるプレイはやたらと心地よい。阿吽の呼吸という話を地でいっているようなものだろうね。
途中、例の変則打撃も1拍子を貫くのでオケ共々なんだか見応えあり。提示部リピートしたので再現部合わせて3回見れる。また、2連八分音符はひとつ目にグサッと力を込める箇所多発。展開部の入りのところだけグッとテンポを落とす。等々いろいろなことはしていそうだけれども、結局のところ俯瞰するに、エロイカの勾配が極めてナチュラルにスロープしたしなやかな演奏でした。エロイカの自然勾配。
葬送に隙間は無い。のに、よく呼吸できている。硬直しない演奏とはこういうもんだろうね。
そして気持ちの良いホルンちゃんスケルツォ。いい演奏だなあ。
ブロムシュテットは棒を持っていた時代はアウフタクト長め、その直前符が短めの振り、それが今はほぼ解消されている。のに、終楽章ではオケが4拍目(2+2拍目)を長めにプレイしてるので、こういうの忖度って言うのかな(苦笑)。ブロムシュテットの癖まで移ってしまったN響ならではの美演。この楽章テンポ落としたところからコーダまでナチュラルな勾配が見事な演奏でしたね。
●
後プロは編成が膨らんだ。
死と変容はロマンチシズムの淵から離れた切れ味、若いこの作品にブロムシュテットは思いがあるに違いない。それはロマンチシズムではなくて飽くまでも作品の響きにだろうね。途中で放たれたようなメロディーライン、その続きは自分がするよって言ってる。無碍のアプローチ。小さな動きに見事な反応を示すオケは見もの聴きもの。
オケのみの品、最後はワーグナー。柔らかテヌートにぬめりなしのタンホイザー。
頭のホルンちゃんのテヌートモードが全般に拡散していく。さらに弦とウィンズの柔らかい響き。真綿モードのタンホイザーにはたして贖罪の気持ちが湧くのかといったあたりの世界観は別の話で、アナザーワールド、換言すると、今のブロムシュテットの音楽観だろうね。
今日、ブロムシュテット、N響が演奏した三作品。ともに終止後の空白が見事過ぎるもので、エロイカなんか、もう、拍手しないで休憩に入りたいな、ていう感じ。死と変容もタンホイザーも概ねそんな感じで、なんだかとってもいい演奏会。音楽が好きな方達の空気に支配された演奏会でしたね。
ありがとうございました。
おわり