静かな悪友S「冠コンサートというのは企業が協賛するのかね。それとも企業の社内行事なのかね。」
河童「見ての通り。社内行事だ。わがもの顔で招待客以外の人間に横柄な態度をとっているのを見れば一目瞭然だ。」
「なるほど。悪事は正義を駆逐するのだな。」
「そういうわけだ。芸術をわかる社長など人間界にいるわけがない。」
「銭金(ゼニカネ)の商売とは相いれないものだしな。銭金の弱点につけこむのが商売というわけだ。」
「そうゆうこった。」
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S「ところでご招待の連中に引換券と交換で配っているチープな手さげ袋には何がはいっているのかね。」
河童「なんだと思う。あててごらん。」
「河童の透し眼には先刻ご承知というわけだね。」
「なかには二つはいっている。一つは市井の我々が買わなければならない演奏会プログラムだ。もう一つをあててごらん。」
「招待客を買収するには札が一番効果的ではないのかね。」
「いくら不条理な大企業でもそこまで露骨にはやらんだろうね。」
「じゃあ、ドングリ。」
「これいじょうイベリコになってどうする。」
「わからん。」
「もうひとつはだな、ライヴCD。ニューヨーク・フィル自主製作の。」
「おっ、そうか。なるほど。音楽の意味の分からない招待客にはこれ以上ふさわしいものはないな。あれを聴いて勉強してもらえばいい。」
「いや、もう自助努力は不可能な年頃だ。」
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S「さて、それであの不条理な手さげをどうやってゲットする?」
河童「そうだな。前回は協賛の●生銀行とねんごろになりうまくせしめた。今年は強敵の三●物産が相手だ。そう簡単にはいくめぇ。」
「そうか。何か策はないのかね。」
「ない。前回と同じ手を使う手はずだったのだか、ごらん。今日のパシリ連中は強敵だ。」
「パシリ連中、どこにいる?」
「ごらん。あの受付で手さげを配っている5人のワルキューレおばさんたち。さっきちょっと話をした。その手さげくれないのかって。そうしたら一番弱そうなワルキューレに左手の小指であしらわれた。こっちが河童というのを見破っているのかもしれない。」
「それは強敵だな。まずは演奏会前半を聴きながら作戦会議だ。」
「了解。」
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河童「妙案が思い浮かばない。演奏も気が気でない。集中できなくなってきた。」
S「そうだな。あきらめるか。」
「いや、ここであきらめたら河童の恥。コンサートが終わってからワルキューレに体当たりだ。」
「そりゃおもしろそうだな。上から見物だ。」
「他人事だな。」
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河童「すみません。僕、招待客ではないんですけど、その袋いただけませんか。」
ワルキューレW1「だめです。これは我らが日本に誇る大企業三●物産からご招待を受けた特別なお客様にのみお渡ししているものです。あなた様のように貧相な貧乏人にあげるものではありません。」
W2,W3,W4,W5「そうです。そうです。」
河童「(なんだ、こいつら、金太郎飴か) そこをなんとかいただけませんでしょうか。」
W1~W5「申し上げた通り貧乏人にはあげられません。」
河童「でも演奏会も終わったし、まだこんなに余っているじゃないですか。」
W1~W5