2013年9月30日(月)7:00pm サントリー
ラヴェル マ・メール・ロワ
ラヴェル ピアノ協奏曲
ピアノ、アリス=紗良・オット
(encore)シューマン ロマンス第2番
サン=サーンス 交響曲第3番 オルガン付
オルガン、クリストフ・アンリ
(encore)
ストラヴィンスキー 火の鳥、子守唄~終曲
ビゼー カルメン組曲、前奏曲
ミュン=フン・チュン 指揮
フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団
お土産付き(マスターピース・オブ・メリー)
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久しぶりに興奮した演奏会でした。
このオーケストラは初めて聴くと思う。個人的には影の薄い団体だったのだが、聴いてみてびっくり。音色の吐息と統率されたアンサンブルがびっくりするほど良い。
完全に有能な指揮者のコントロール下にあり、ピクリですぐ反応する。これは演奏だけに限ったことではなく、ポーディアムで指揮棒を最初に振りだすタイミングの呼吸、演奏後のソロ・バウの指示、等々ほぼ指揮者の配下にいることが日常的にそれなりに納得出ていて、かといって演奏者は指揮者による威圧的なものではなくおそらく開放の美学を教え込まれている、そんな感じでした。これとよく似ているのが、ゲルギエフの指図どおりに動くマリインスキーです。
なぜ言いなりに動くかと言えば、それは指揮者の才能に畏怖の念をおぼえているからでしょう。ピアニストでもありそこらへんにも強みありますね。とにかく指揮姿を見れば棒さばきのレベルが並みの指揮者とまるで違う。一目瞭然。
また、フランスのオーケストラ、キラキラ四方八方光りが飛び散るのかなと思ったが、全く違っていた。アンサンブル重視で曲の良さが良く出てくる。バランスがいいし、唐突でトリッキーな動きもない。王道の演奏なのだがアンサンブルのピッチの良さ、強弱のバランスの見事なさま、香り立つ音色、これらがそこかしこに溢れ、いぶし銀の発光のような気配。音そのものの魅力は大きいですね。
一番エキサイティングだったのは後半のサン=サーンスで、構造とかそういったことばかり気にかけて聴いていた自分がアホだったというのが良くわかった。これはそんなこととは別ワールドの曲であるということがこの演奏でよくわかった。形式とか構造は手段でしかない。この火照るような美しさはいかばかりか、特に第1楽章第2部オルガンがはいる静寂の弦の歌の美しさは異常。本当に信じがたい美しさ!音楽が美しく、しなっている。
華やかな第2楽章第2部は、その静かさと対をなすものだが、華やかさもさることながらスケールの大きな演奏にこれまたびっくり。彫が深くてパースペクティヴを強く感じさせる響きにクラクラする。どのようにバランスすればこのような演奏が可能なのか、こぼれるようなサウンドが宇宙的スペースを感じさせながら輝かしくティンパニとフル強奏で締められた。まぁ、すごい演奏でした。
指揮者とプレイヤーの一体感がまた素晴らしい。コントロールされながら開放されている。抑制ではなくアンサンブルの美しさを前面に出しながら、音楽の愉しさを感じながら演奏しているプレイヤーたちがうらやましくもある。
指揮者の明白な勝利と言えば言えるかもしれない。
とにかくこのような耳を洗われる素晴らしい演奏、ありがとうございました。
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同じく圧巻だったのが、前半2曲目の協奏曲。紗良さんは写真でしか見たことがありませんでしたが、写真の雰囲気とは随分と印象が異なる。自由奔放さと深さを兼ね備えたピアニストの様に思えました。第1,3楽章の速いパッセージでは、不敵な笑いを浮かべながら椅子を蹴る勢いで、まぁ、早い話が、腕がうなっている状態。脂乗りまくりで、鳴った音楽のことはあとで考えようすべてはうまくいかないはずがないでしょ、そんな年頃ですよ。スピーディーな爆演に圧倒されました。なんだか尊敬のまなざし、むしろあこがれのまなざしです。
一転、第2楽章の静けさはこれも深い。ここで圧巻だったのは、指揮者がソリストに見えたこと。二人のピアニストが語り合っている。このシーンは忘れがたいものとなりました。このピアニスト兼指揮者がそこに居ればこその深い音楽と爆な響きで安心して遊びまくれる。そういうことだったのではないか。
長い髪と大きめアクション、特に各フレーズのエンディングでのオーバーアクションは爽快。このラヴェル、印象が強すぎて、しばらく眼底に映像が貼りつきそう。
冒頭のマ・メール・ロワ、そもそもこの出だしのところで、このオーケストラの響きに魅了されたのであり、香り立つ美しさがしとやかなアンサンブルで表現されていて、この時に既に最初に書いたようなことを感じ、その通りになりました。美しい響きの演奏でした。珠玉のような曲に相応しい演奏。
素晴らしいオーケストラでした。
おわり