静かな悪友S
「昨日の話の続きだが、
1990年代初頭、皿工業の仕事で、3年2カ月で354回のフライトとは大変だったね。
いくら国内フライトとはいえ毎週少なくとも2回のフライトだからね。」
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河童「そうだね。疲れというのは時間ではなく距離に比例するみたいだ。
1時間強のフライトで700キロぐらい移動するわけだから、河童の皿三半器官もだいぶいたんだようだ。」
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S「そうか。それで、月曜日と金曜日は東京で、火水木は皿工業のある街ですごす、というのはどんな感じだったんだい。」
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河童「まず、火曜日の朝5時ぐらいに起床して、朝一番のフライトに乗るため、羽田までいく。
飛行機が動き始めたころは、既に半眠り状態なのだが、乗務員たちに完全に面が割れているので、モーニングスープとモーニングコーヒーが定番ということがばれていて、必ずこの2カップは運んでくれるわけだ。」
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S「なるほど。お河童様の水分補給は大切だからね。
それで?」
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河童「それで、うらうらしてる間もなく、皿工業のある街につく。
そこからタクシーを20~30分とばせば、朝9時の始業には間に合うというわけさ。
そこから、火水木の三日間はひたすら仕事をしまくるわけだ。」
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S「仕事の話はいいから、夜の話をしてくれ。」
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河童「そうだね。火水木の三日間滞在するということは、火曜水曜がお楽しみナイトなわけなんだけれども、小料理屋で食らう遅い時間帯の晩飯が楽しみだったね。
夜10時ぐらいまで皿工業にいて、それからチャリを飛ばして宿までもどり、おもむろに街に出て行きつけの小料理屋にいくっていうパターンだったね。」
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S「それでお河童様の毎晩のエサはなんだったんだい。」
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河童「いい質問だ。それがだな、魚、なんだ。
皿工業の街は内海が近いので、毎朝豊富な小魚をとってきて、夜、出すわけだ。
これが新鮮で、またサイズも適当に小さいのでいろいろな種類の小魚2を2匹3匹と出してくれるんだ。
調理もヴァリエーションが豊かで本当に毎週2晩それだけが楽しみだったね。
毎晩、魚食って、よく魚顔にならなかったなぁ、なんてたまに思うよ。」
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S「河童が魚になっても世の中たいして影響はない。
とにかく充実した食道楽をしてたわけだ。
でも、それだけが楽しみだった、なんていうセリフ、この世の誰も信じないぜ。お河童様。」
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河童「そうくると思ったよ。人生一寸先は闇というからな。まぁ、闇とも限らないが、なにが起こるかわからない、ってぇとこかな。その話はまた別途だね。」
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S「火曜と水曜楽しんだ後、木曜日はどんな感じだったんだい。」
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河童「木曜日は皿工業で定時まで仕事をして、最終便で東京まで戻るんだが、三日間も皿工業で仕事をすると息が詰まるというか、ストレスがたまるというか、とにかく移動のこと仕事のことで、とてもまっすぐ河童洞窟まで帰る気はおこらない。」
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S「ということは、東京に戻ってきて木曜の夜も毎週、皿を濡らしていたわけだ。」
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河童「端的に言うとそうなる。
羽田からモノレールで浜松町。
そこからタクシーで六本木か銀座だね。
遅い時間からのスタートになるが、河童を皿工業に行かせた営業の人間が毎週謝罪の意味をこめて待っていてくれるわけさ。
夜の9時半ぐらいに待ち合わせして、そこから長大なナイトキャップの始まりってわけ。」
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S「好きにしてくれい。
お河童様は結局、どこへいってもエンジョイしてたってことだねぇ。」
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河童「そうゆうことだね。
そうそう、フライトの話だけど、354回フライトしたら一回ぐらいトラブルがあってもいいようなもんだが、それが一度もなかったんだ。台風が来ても、たまたま目のなかだったりして。
でも、一回だけ飛ばなかったことがあったんだ。それは飛行機会社のストライキ。」
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S「憎まれっ子世にはばかる。ではないが、なんとなくそんなことを言いたくなるね。」
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河童「皿工業のある街は、魚だけでなく、ジャパニーズヌードルもおいしいので、兼用皿で食べたよ。
いい街だ。いつか小料理ツアーでもやろうぜ。」
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S「そうだね。お誘いを待ってるよ。」
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おわり
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