2017年8月26日(土) 2:00pm 小ホール、東京文化会館
オール・ベートーヴェン・プログラム
ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 op.90 7-8′
ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op.109 4+3+15′
Int
ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110 7+2+13′
ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 op.111 10-18′
(encore)
6つのバガテル ト長調 Op.126-5 3′
ピアノ、イリーナ・メジューエワ
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ベトソナ後期3発に27を加えたうれしいプログラム。
メジューエワさんなにかすっきりしていますね。細身でさっぱりしていて気持ちがいい。
日本デビュー20周年記念リサイタルの一環。プログラムは縦書き。
スランプ時期の27番、この第2楽章が好きでよく聴く。マイプレイリストにも入れてある。憂いを含んだ明るさなのだろうか。少し、気持ちが痛くなるようなところもある。音楽は滔々と流れベートーヴェンはメロディーメーカーとあらためて実感。
メジューエワさんのピアノは殊更に流れを追うことはしない。結構なくさびを入れつつ、かといって執拗に深いものではなくてニュートラルな心地。
この日の使用ピアノは1925年に作られ、たくさんの演奏に使われてきたSteinwayを日本でリビルドしたものということ。楽器のことは詳しくありません。
弾き始め、ちょっと乾いていて締まったサウンド。少し割れ気味なところがあったように思います。弾きこんでいくうちにそれが無くなった。(気にならなくなった?)
最後のアンコールのところで、最初の印象に戻ったような音になった感じで少し不思議。
といった具合で聴いた27番でした。曲の雰囲気、彼女に良くマッチしたもので、3発にこれを盛りくんでくれたのはハッピー。
続いて30番。終楽章の変奏に至る前の2楽章ともに比較的ゆっくりとコクのある演奏で味わい深い。変奏曲の大きさとともにこの2楽章の味付けバランスが絶妙で切り離された終楽章の感覚がまるで無い。3つでひとつ、これ実感。6つの変奏、夢のような時間。最高。
休憩を置いて31番。3発ではこれが一番好み。途中から始まったような音楽は、この序奏から霊感に満ち溢れている。最後の最後、終楽章フーガで行きつくところまで行ってしまっていて、もはや、エンディングへの解決策がないのではないかと思われる高み頂点までいってしまい、突然の5小節であっと言わせるあまりに見事なフィニッシュとなる。言葉にならない鮮やかさに何度聴いても立ちすくすのみだ。メジューエワの離れ技的凄味は超エキサイティング。素晴らしい。
嘆きの歌は大変に濃い演奏、多才なニュアンスが心を込めてちりばめられていて自然な流れ。2回目はさらに濃厚フレーバーが注がれ、そのあとのコラールは明確にスフォルツァンドまでもっていく。圧倒的な弾き。クリアなアタックに身も心も奪われた。うーん、素晴らしい作品、そして演奏。空気の振動が見える。
最後の32番、もう、気持ちは整理運動みたいな心持ち、最初はね。
頭の下降音型が哲学的過ぎて、最初から疲れが出るような気持ちにさせてくれる曲ではあるのだが、最終的にはピュアな世界に満たされる。
第1主題の吸引力が凄くて整理体操はすぐに追い払われ、もうひと運動絶対にするべきと直ぐに思わせてくれる。凝縮された音楽は圧巻で、極みの音楽、極まれり。
メジューエワの集中力は高みに達してる。聴いているほうも同じく。
結末の楽章の五つの変奏。分離していたりくっついていたりとプレイヤーによって色々と感じはあるのだけれども、彼女のはつながっている感じ。流れに殊更に重きを置くスタイルではないピアノかと思うのですが全体のバランスが良くてゆがまない。少し強く弾きこまれた縦の深さを感じながらひとつずつ進行していく。妙な力点が無くて譜面から出てくる音を感じさせてくれる。そういえば全て譜面見ながらのプレイでした。
音の粒がピュアでクリア、ベートーヴェンの結末は音がポツポツと極みの美しさで弾かれていく。美しい静寂だ。
ということでこの日もベトソナ満喫しました。クタクタです。いい気持。
おわり