河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

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1037- ファジル・サイ 広上淳一 日フィル ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番 スクリャービン 交響曲第2番 2010.7.9

2010-07-12 00:10:00 | コンサート

2010年7月9日(金) 7:00pm サントリーホール

ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番
 ピアノ、ファジル・サイ
(アンコール)
ファジル・サイ ブラック・アース

スクリャービン 交響曲第2番

広上淳一 指揮 日本フィルハーモニー交響楽団


広上の棒の振り具合、オーケストラの充実サウンド、サイの陶酔、どれをとっても素晴らしいものでした。

ファジル・サイの演奏熱中度はこちら聴衆の週末仕事疲れの眠気を一気に吹き飛ばしてくれる圧倒的なもの。
もはや自己陶酔の極致と言いたくなるような第2楽章など、ベートーヴェンのオーラのようなものがサイを通して出まくっていたとさえいえる。あまりに情緒的に過ぎる第2楽章はベートーヴェンではなくサイのもの、でもそれも音楽のものと言える。
鍵盤をたたいていないときの左腕右腕は指揮をしているかのよう、いや、ちょっと違う。棒を振りたいといったしぐさではない。シンガー、ダンサーのアクション、即興の振付のようだ。見た目は完全な自己陶酔の真っただ中にいるようでもあり、音楽を体全体で作っているようだ。

広上の指揮はいつものことながら非常に的確で的を射ており説得力だらけの棒で素晴らしいの一言に尽きる。棒だけでなくつま先まで使ってホップステップジャンプが日本人でこれほど音楽と一体化される棒振りはほかにはいないだろう。曲を理解しつくして振っている。納得の棒。
ベートーヴェンの3番の協奏曲は、昔風に第1,2主題を出し切ってからピアノがでてくるのでその部分長大なのだが、全く流す風がなく豊かな表情、特に全体におさえられたオーケストラながらやや硬質風にベートーヴェンの荒々しさをフォルテ以下の音響の中で表現。ベートーヴェン特有の荒々しさがこのように余計な力を抜いた音響の中で表現できるとは驚きだ。心地よい。サイも弾く前からこの音楽に浸ることができ既に満足の感がある。
オーケストラもピアノもともに音楽の表情が豊かで一気に集中。
サイにとって、形式はベートーヴェンが用意してくれているので、あとは自分で好きなように弾きまくるだけで良いのだろう。それはそれで正解だ。これだけ柔らかくてデリケートで情緒豊かな演奏はなかなか聴けない。いい演奏でした。


スクリャービンの2番は生ではなかなか聴くことが出来ない。変奏曲の頂点のような第3番でさえ実演に接する機会はあまりない。最近は5番までたまにやられるようになってはいるけれど。
2番の終わり方含め、節が一つ二つしかないものを変奏、その展開で最後までもたせる手法はたしかに3番の前段ではある。でも、3番のトタンがめくれあがるような華麗なサウンドには遠く及ばない。スクリャービンの一方の夢見心地的究極の曲第3番では楽章の切れ目なくほぼ二つの節の展開が続く。一方この日の第2番は5楽章形式で、アンダンテの第3楽章が他の楽章に比べて長すぎる感があるのだが、第1,2楽章はアタッカ、第4,5楽章も同じく束になっている。こちらはアタッカとうというより単に続けて突き抜けているだけであり、第4楽章でいったんこと切れることはできない。4,5楽章は同じ楽章として聴いていいものだと思う。
潤いのある音楽と筆の混沌が、いかにも初期中期の音楽のもつれを感じさせずにはおかない。どの切り口からでも第3番の展開へ移ってもおかしくない曲でありながら、何かを探し続けているもどかしさを醸し出してくれている。
エンディングも頂点前の2個の空白は、第3番の圧倒的な響きと空白の緊張感にとてもかなうものではない。のだが、広上の棒がここでもよかった。
広上は基本的に知り尽くしてからでないと振らないと思う。指揮者たるもの当たり前と言われればそれまでなのだが、広上の場合、圧倒的な共感がその奏でる音楽に対してあるので、この棒ならプレイヤーは極めて明瞭についていくことが出来る。
第3番ではブラスへの配慮がもっと必要なのだが、この2番においてはフルート、クラ、オーボエなどウィンドの裸の響き、アンサンブルのあやが美しく強調され、ここらへん、いかにもこれから向かうスクリャービンの世界の先取り風ではある。
ブラスは響きがややボンボンとふやけてしまうような個所があった。とくに強奏すればするほどボンボンとなり不揃いのピッチが強調されてしまう。前半のベートーヴェンのように力を抜いて演奏できればもっと良い演奏となっていたはずだ。トランペットのトップはかなりきついと思うが細めの音でバランスを保っていた。トロンボーン全般、ホルンなど汚れがあり、力まない演奏を望む。(といってもいつこの曲の再演がきけるかわからないけれど、)

前半のベートーヴェンのあとアンコールがあった。自身作曲家でもあるサイの自作自演による「ブラック・アース」
深遠な響きの妙を楽しめる。
おわり