はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

空飛ぶくぢら

2010-08-24 11:33:50 | はがき随筆
 昨年のこと、NHKを見ていたら「ニッポン全国短歌日和」という4時間番組に遭遇した。当日の題が「銀」と発表された瞬間、短歌ビギナーの私に次の歌が浮かんだ。
 《銀色の空飛ぶくぢら現れて桜島より尻尾に触るゝ》
 10年以上前、妻と小中学生の進学塾を営んでいた私は、小学校の国語の教科書に「クジラが空飛ぶ話」があったのを覚えていて、それをモチーフにした。校庭に大きな影がよぎり、見上げるとクジラが泳いでいたというゆうような話だった。
 荒唐無稽とのそしりは免れまい。だがメルヘンだ。大した夢だ。空想の世界を大いに膨らませよう。いい年の大人だって、世知辛いこの世の中、たまには夢の世界に遊びたいのだ。
 即刻携帯メールで送信。全国からの投稿総数は4000首を超えた。スタジオには数名の歌人がゲストとして招かれ、各人が推す歌を発表・解説する。さらにその投稿歌同士を競わせてベストワンを決めるのだ。
 番組の後半、我が目を疑った。あの「サラダ記念日」で有名なおかっぱヘアの俵万智さんが、あろうことか私の歌を取り上げてくれたのだ。
 錦江湾の空に、雲と見まがうほどの巨大クジラが悠然と泳ぎ、半ズボンを履いた幼稚園兒の僕が、つま先立ちして恐る恐る尾びれに触ろうとしている。万智さんは私にベストナインの褒美をくれたのだ。
  鹿児島県霧島市 久野茂樹(60) 010/8/24 毎日新聞の気持ち欄掲載

風止め籠り

2010-08-24 11:18:18 | 女の気持ち/男の気持ち
 起源ははっきりとは分からないが、先祖から受け継いできた小さなお宮がある。春は境内にある桜の花のころに花見籠り、秋の二百十日ころには風止め籠りを村の行事として行い、台風から農作物を守る祈りを捧げてきた。
 お籠りが近づくとみんなでお宮の掃除をして、家庭ごとにだんごや漬物など自慢の我が家のものを持参してお供えした。
 お籠りには子どもから年寄りまで家族そろって参加する。手作りの弁当を重箱に詰めてお宮に集まり、それぞれの家庭の味を交換しながら、味の批評や世間話に花が咲くのである。
 少し高い所にあるお宮まで、緩やかな坂道を登ってくる年寄りたちの手を引いたり、背を押したりするのが子どもらの役割だった。
 二十数戸の村も1人また1人と離農する人が増え、田畑を耕作する人がわずかになって、8、9年前に風止め籠りも廃止になった。
 今夏のお宮の掃除の時に誰かが「ねえ、今年は風止め籠りしようやないねえ」と言った。「うん、しようや、しようや。ごちそうやらないでいいやないね」と久しぶりに小さな村人が風止め籠りをすることになった。
 本当にうれしい。昔の素朴なにぎわいと、みんなの笑顔に会えるのだ。
 早速我が家の梅干し、漬物などの準備にかからなくちゃ。そうそう、弁当開く前にみんなで唱えるご詠歌の稽古もしなくっちゃ。
  福岡県岡垣町 藤井和保(61) 2010/8/23 毎日新聞の気持ち欄掲載

ジーナとハナ

2010-08-24 11:04:57 | 女の気持ち/男の気持ち
 8月10日の朝刊に犬の「記憶」という記事が掲載されていた。米軍の軍用犬として半年間のイラク任務を終えて戻った2歳のドイツシェパード犬についての記事だった。ジーナという名のこの雌犬が戦場での爆弾捜索時の記憶により心的外傷後ストレス障害になったというのだ。動物さえ半年間でこんな状態になるのに、兵士の心の傷はいかほどであろうか。
 我が家にも8歳になるハナという雌のドーベルマンがいる。彼女は昔、ブリーダーに飼われていたらしい。成犬になり、雄のダルメシアンとの間に子犬を5匹生んだ。ブリーダーの不注意からだったが、純血でない子犬に商業的な価値はない。そのまま母子で公園に捨てられ、保健所から動物管理所へ。かろうじて子犬には里親がついたが、ドーベルマンという犬種は獰猛というこことで母犬は殺処分と決まった。
 犬の里親ボランティアをしている知人が粘りに粘って彼女を助けたのは、炭酸ガスで命を絶たれる20分前であった。
 今、ハナは穏やかな目をして私の手からジャーキーをもらっている。しかしいまだにケージに入れようとすると足をつっぱり抵抗するのだ。また捨てられたり殺されたりしないかと思うのだろうか。 
 ジーナの記事は、私にハナの過去を思い出させた。口こそきけないけれど、犬も情緒豊かな動物なのである。
  大分市 三房真知子(61)2010/8/22 毎日新聞の気持ち欄掲載

夢の続きを…

2010-08-24 10:58:50 | はがき随筆
 ゴーグルを額に上げ、氷壁に続く頂を見上げ、充実感に満ちた笑顔の妻が、そこへ向かうルートを指さす。青い空を切り裂くように稜線が走り、ただ青と白の世界。希薄な空気に胸苦しさを覚えた時に目が覚めた。
 妻もそうだが、登山の経験などない。見る夢もサラリーマン時代のものが多く、仕事の遅れや失敗で迷惑を掛けている自分、いわゆる追われている部類がほとんど。しかし今の夢なら続きを見たい。寝苦しい夜を忘れさせてくれる稜線のかなたへ。目をとじ続きをと、念じながら眠りに落ちるのを待つが……。
  志布志市 若宮庸成(70) 2010/8/24 毎日新聞鹿児島版掲載

カレー涙味

2010-08-24 10:00:53 | ペン&ぺん
 そうか、今は大学3年の秋に就職活動が始まるんだ。じゃあ、君も、もうすぐだね。僕の時は4年の秋だった。いや、実を言えば大学5年目の秋か。
 父母に無理を言って「どうしても新聞社に入る。もう1年、就職は待って」と頼んだ。後輩の4年生と3人で、マスコミ受験向けの勉強会をし、傾向と対策を学んだ。記者になった先輩に手紙を出し、会いに行った。
 バイトにバイトを重ね、資金を約50万円ためた。僕は地方の大学にいて、東京のマスコミだけでなく各地の地方紙を受験して交通・宿泊費も多額だったんだよ。
 1986年。地価が高騰し始めていた。バブルの走り。テレサ・テンが「時の流れに身をまかせ」を歌い、宮崎駿の「天空の城ラピュタ」が封切られた年だ。
 もちろん、僕らに映画を見る時間はなく、歌謡曲を口笛で奏でる余裕もなかった。勉強会仲間のうち一人が放送局に内定した。もう一人もメドがつきそうな時、僕だけは暗中模索を続けていた。
 そこに1社から最終面接の案内が来た。東京の本社。会議室だったか。会社幹部3人が居並ぶ。僕は独りで座った。面接中、向かって右側の白髪の男がこう言った。「お前みたいなのが、入社後、労組で赤旗を振るんだ」。質問じゃない。断言だ。
 僕は、カッとなって言い返す。「何を根拠に言うんです? 僕は大学1年の時、父が店をつぶしてバイトばっかり。学生運動なんか嫌いですよ」
 どう面接を終えたか覚えていない。帰りは新幹線。立ち食いの食堂車でカレーライスを食べた。「不合格だな。10社目か」。カレーの上に涙が落ちた。
 でも、数日後、その社(毎日新聞ではない)から通知が来た。「内定です」。今にして思う。あれは、怒鳴られると、この青年は、どう反応するか見定めていたんだ。
 まぁ、参考にならない古い体験談。大変だね、君も。でも目標があるなら努力するんだよ。険しい道だからこそ進め。応援しているよ。
  鹿児島支局長・馬原浩  2010/8/23 毎日新聞掲載

「思い出の中で」

2010-08-23 23:11:38 | 岩国エッセイサロンより
2010年8月22日 (日)
山陽小野田市  会 員   河村 仁美

食べ物というのは思い出と結びつく。ふるさとの我が家を思い出す時、真っ先に私の目に浮かぶのは庭のゆすらの木だ。増築の時、母の里へ移植させたが子供のころよく食べた。真っ赤に熟れた小さな実を口に含むと甘酸っぱい昧がした。

 毎年この時期になると必ず父からゆすらの絵手紙が届く。誰も見たことがないので、写真を送ってと頼んだら今はないという。父が記憶をたどって描いていたそうだ。ゆすらには、もう思い出の中でしか会えなくなった。絵手紙をずっと見ていたら、ふるさとを思い出し、懐かしい昧が口中に広がった。
  (2010.07 毎日新聞「はがき随筆」掲載)岩国エッセイサロンより転載

ごめんね

2010-08-23 23:03:34 | はがき随筆
 出水に住む友の電話は第一声から個性的。「おいおい、奥吉どん、あたいやが」「久しぶり、でも珍しい、日曜日に電話をくれて」「うーん、話すことが……」。ためらう気配に問いただすと、長男の訃報を伝えた。
 24歳で発病、14年の闘病の末に38歳で亡くなった。たまに近況を聞くと「家におっど」。深く聞かずにいた。お父さんの背中にもたれながら安らかに旅立ったとのこと。自分にも何か手だてはなかったか。
 鹿児島市の友と2人でお悔やみに。泣いたり笑ったり、1年ぶりの再会に話が弾む。「連絡して良かった。元気をもろた」
  いちき串木野市 奥吉志代子(52) 2010/8/23 毎日新聞鹿児島版掲載

クワガタ君

2010-08-22 18:12:35 | はがき随筆
 深夜3時、なんとなく物の動く音に目覚め、灯をともすと、部屋の隅の木彫り道具のあたりからこげ茶色の虫が──。もしやゴキブリかと見定めるが、逃げ足が遅い。やがてのっそりゴソゴソとお出まし。すばやく捕らえると、なんと小クワガタがツノを広げ、まるで捕まるのはイヤダ、イヤダとしている。
 いつ、どこから入って来たものか。昨日、あまりのぬくさに入り込んだか。それとも幼虫時代を私の木彫材の中で過ごし、たまたま生まれたのか。孫へ見せよう。ラジオは「いつまでもいつまでも」の曲が流れ、クワガタと友に聞いている。
  鹿児島市 東郷久子(76) 2010/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載

惜別の命

2010-08-22 18:01:18 | はがき随筆
 「ペットたちの盆供養を行いたいので是非ご協力いただきたい」というペット霊園からの丁重な連絡であった。盆前の午後であったので快諾した。
 参列して驚いた。霊園のホールは、亡くなった犬猫たち約50匹のそれぞれの家族でいっぱいであった。読経に続いて法話を頼まれていたので、私は16年間一緒に暮らした愛猫「チー」との思い出を話した。子どもたちは次々に巣立ち、残された夫婦の生活にどれほど潤いを与えてくれたことでうろうかと。わが子を虐待する事件が多発する昨今。物言わぬいのちを惜しむ人たちの集まりであった。
  志布志市 一木法明(74) 2010/8/21 毎日新聞鹿児島版掲載 写真はフォトライブラリより

海の事故

2010-08-20 09:23:35 | はがき随筆
 去る8月10日、西方海岸(薩摩川内市)で高3の若人が行方不明、懸命の捜索がヘリコプターで続いた。沖には漁船や巡視船なども見えると、老漁民が話してくれる。行方不明者の親の気持ちを察し、一刻も早く見つかってほしいと祈るばかり。
 さて、古老たちの教示に「未知の海、山、川などに入水、入山する折りには気をつけよ! その場所特有の危険箇所があるからね」とある。今回は台風の通過で海の水の「底換(そこがえ)」があったので、波浪が静まるまで時間がかかったのだと思う。
  阿久根市 松永修行(84) 2010/8/20 毎日新聞鹿児島版掲載

敬老プレゼント

2010-08-19 22:12:27 | アカショウビンのつぶやき
 鹿屋キリスト教会では、今年も手作りの敬老プレゼントをご高齢の教会員と各地にお住まいの信友に贈ります。
今年のプレゼントは可愛い小物入れです。
いつの間にかテープルを占領している小物たち…。
それらを片付けるのにちょうど良い大きさの布製の小物入れです。




今日は、お便りを添えて発送準備です、わいわいがやがやと楽しい時間となりました。
お便りを書く人、宛名ラベルを貼る人、袋詰めをする人とそれぞれ得意の分野で頑張ります。






75枚の封筒入れも終わりました。
そろそろお腹もすきましたぁ。

小枝子さんが用意してくださったのは、お煮染め、おこわ、カボチャサラダ。
紀子さんはお漬け物とゴーヤーサラダ。



感謝して、お腹いっぱい頂きました。

やっと前向きに

2010-08-19 21:47:30 | はがき随筆
 検診日までに入院手術の準備を整えた。1ヶ月前から不安と悪夢と睡眠不足で食欲がなく、当日の検査結果は1年間の努力も効果なし。ペースメーカーの位置が下がり、心臓に悪影響があるので油断禁物とのこと。パニックに陥り、あとの注意は上の空。帰宅後は涙の電話をし、最悪の心理状態で引きこもり、横になる。苦しい。
 心配した知人の励ましで買い物と講座へ参加。学習で描いた小さな赤い花から、生気を感じて、やっと前向きに治療を続けようと思えるようになりつつある。
 助けてくれる人々に感謝を。
  薩摩川内市 上野昭子(81) 2010/8/19 毎日新聞鹿児島版掲載

天国からの笑み

2010-08-18 09:48:34 | はがき随筆
 あった! マウスを動かす右手を止めた。やっと見つけた先生の投稿。パソコンの画面に「上村泉」の文字。先生の若いころの顔がはっきり浮かんだ。最近「はがき随筆」を知り、ブログにたどり着き「毎日ペンクラブ鹿児島」の初代会長が先生だったことを知った。5年前、他界した父と先生は同じ学校の同僚だった。私が小学生のころは家にもよく遊びにみえていた。「娘がもっと早くはがき随筆を知っていたら共通の話題で話が弾んだのにねぇ。本当に残念だったねぇ」と父と先生が天国から私を見てほほえんで話している気がした。
  垂水市 宮下康(51) 2010/8/18 毎日新聞鹿児島版掲載

何一つもできぬ

2010-08-17 21:51:01 | はがき随筆
 再就職先も最終ラウンドか。意気込みも知力もやる気も皆無の有り様。しかも、家賃・税金で10万も飛ぶ。投資も下落、下落で追い打ちをかける。これでもか、まいったか。
 これでは、100歳までのパワーを失う。この時に、1月研究公開で参観者も多数やってくる。パソコンと大喧嘩で、老眼鏡が邪魔して1行打つのに時間も要してしまう。眼鏡なしでは何一つ出来ぬ。
 嗚呼と言う間に時間は過ぎる。欲張るから、邪念を切り捨てなければ、今は何一つも出来ぬ。生きる道も見つけ出さなければ……。
  出水市 岩田昭治(70)2010/8/47 毎日新聞鹿児島版掲載

倚りかかってもいいよ

2010-08-17 21:32:03 | 女の気持ち/男の気持ち
 「病名は何ですか」「腫瘍とはがんってことですか」「第何期ですか」……。
 MRIの写真を見ながら、医師に淡々と質問をする母。付き添いの私の方が動揺して何も言えない。
 「そうですか。それでおなかが痛くなるんですね。原因が分かってすっきりしました」
 母らしいスパッとした物の言い方である。しかしドキンドキンと母の心臓の音が伝わる。
 3人姉弟の真ん中で一番できの悪い私を、母はいつも引っ張り上げてくれた。「あなたはあなたのいい所がある。人は人、自分は自分」と言い続けてくれた。それがどれだけ私の心の支えとなったろう。
 母のモットーは「自分でできることは自分でする」。詩人の茨木のり子さんの「倚りかからず」がお気に入りで「倚りかかるとすればそれは椅子の背もたれだけ」の言葉をかみしめて、弱音を吐かずに凜と生きている。母は私の理想の女性であり、誇りでもある。
 でもお母さん、もうそんなに頑張らなくていいよ。倚りかかっても私はびくともしないから。こんなに強くなるように育ててもらったから。だからこれからは私たち子どもにしっかり甘えてほしい。
 「老いては子に従えだよ」という私の言葉に「そうね」と、すっかり小さくやせてしまった母が力なく笑った。
 どうぞがんに負けないで、私たちのそばにいて。
  福岡県宗像市 中村純子45歳 2010/8/17 毎日新聞の気持ち欄掲載