はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

石の顔

2006-05-31 10:11:25 | はがき随筆
 朝の散歩コースの途中に自然石を積み上げた石垣がある。
 ある朝、石の一つ一つが蓄えている表情に気付いた。それぞれが喜怒哀楽を鎮めて穏やかな顔だ。
 地表に出てから、幾たびかの風水害を経験し、激流に久しく耐えた表情だろう。 彼らも軍靴のあの響きを体感し、空襲におびえ、戦後の暗い飢えの時代を過ごしたのだと思うと、親しみを覚える。
 四季の移り変わりにつれて、遠ざかる激動の昭和を石の面に偲ぶ。
 青嵐や昭和ひきずる石の顔 啓刀
   鹿児島市伊敷 福元啓刀(76) 2006/5/31 掲載

昼の月

2006-05-30 07:54:17 | はがき随筆
 時折帰ってくる1才8カ月の孫と、天気が良ければ散歩に出るのが日課。あの日もそんな一日の一コマ。
 昼下がり、家を出てすぐ空を見上げ指さしながら「月、月」と叫ぶ。私は、はるか彼方へ目を凝らす。やっと視界に入ったそれはうっすらと上弦の月であった。
 絵本で覚えた月を、本物の空で見つけて嬉しいのだろう。「よくわかったね」と、ほめながらしばし見とれた。
 大人が見過ごしてしまう日々の、新鮮な驚きを孫を通して知る。
 野の花を摘んでは小さな流れに浮かべる。ゆったりした2人の時間である。
   薩摩川内市青山町 馬場園征子(65) 2006/5/30 掲載

気になる人たち

2006-05-29 13:49:58 | はがき随筆
 2年近く前、鹿児島の随友仲間10人で下関へ旅をした。男7人のうち4人が同じ年という奇遇であった。痩身のアスリートKさん。ホームラン記録更新中のMさん、人生の達人Iさん、そして私。同世代と言うことで親近感を覚えたのは事実で、1泊2日の旅を堪能する。その後、特別な付き合いはないが、随筆を通して近況を知り、自分を鼓舞している。Mさんの投稿が見られないのは気になるが、Kさん、Iさんは毎月楽しい話題で心和ませてくれる。私もと思うが、なかなかどうも……。その時々の心の動きに任せるしかない。
   志布志市有明 若宮庸成(66) 2006/5/29 掲載 特集版-6

心の中のハミガキ

2006-05-29 13:41:58 | はがき随筆
 9歳の三希子の日記に、とってもいいキラリと光る文章を見つけた。うれしい。すごい。ピカピカに光って、気持ちがバーンと伝わってくる一文。母ちゃんには決して書くことができない宝物のような文章。
 「これ、とってもステキだから新聞に出してみたら?」と勧めてみた。「うーん、やめとくよ」「えっ、何で?」。
しつこく食い下がろうとしたその時、「母ちゃん、心の中のハミガキをした方がいいよ」と言われて、私はうなだれた。
 9歳の気持ち。やっぱりピカピカに光っている。
 鹿児島市真砂本町 萩原裕子(54) 2006/5/29 掲載 特集版-5

老いては妻に?

2006-05-29 13:35:06 | はがき随筆
 我が家はマンションの1階。庭付きなので花や木が大好きな妻には住み心地満点のようだ。「あちらにはこれを植えて、こちらにはあれを植えて」と、頭の中は常に庭づくりの図面が描かれているようである。毎年恒例の春の木市が始まると気ぜわしくなる。「さあ、木市に行くよ」「俺もか」「当たり前よ。花壇の縁に久留米ツツジを植えるのだから。6株いるから1人では持てないでしょう」「はい、はい」「返事は1回でよろしい」「老いては子に従え」と言うが「老いては妻に従えってあったっけ?」。何はともあれ行くしかないか……。
   鹿児島市鴨池 川端清一郎(59) 2006/5/29 掲載 特集版-4 
画像は季節の花300より

みどり交々

2006-05-29 13:22:12 | はがき随筆
 4月1日から京都へ紅枝垂桜をあてに行ったが花に会えなかった。19日は川内に用あって、まあ金山峠の霧に潤んだ緑の優しさを存分、車窓から楽しんだ。帰途、駅舎から見える山々の緑の濃淡に感嘆。幼かった緑も5月になるとたくましい青年期になる。5月5日の指宿。休暇村に聳える断崖に「ここも阿多カルデラ?」。まるで太古爆発の時の炎かと思われる灼け茶色の岩々。橋牟礼川の遺跡に、水のあることが命とかかわることを解し、池田湖畔から開聞への山地の岩山も阿多カルデラと知る。南薩摩の緑は初夏色に輝いていた。次は万緑。
   鹿児島市唐湊 東郷久子(71) 2006/5/29 掲載 特集版-3

母の習字

2006-05-29 13:12:50 | はがき随筆
 特別養護老人ホームで暮らす母は、米寿を期に始めた毛筆習字が生き甲斐の一つになっている。顔を合わせる度に「習字は全部花マルで、私が一番上手とほめられるよ。見てきて」とせきたてる。展示された十数人の作品すべてに、朱が大きく回され、明るさいっぱい。母は自分の作品がいつも左端に張られるのでトップと思い込んでいる。さすがに「年の順では?」とは言えない。
 車椅子で手が不自由な母が、力強い線で<みどり こいのぼり>と書き、紙面の雰囲気も良い。92歳に筆と半紙をまた頼まれた。
   出水市高尾野町 清田文雄(67) 2006/5/29 掲載 特集版-2

母さんの温もり

2006-05-29 13:03:34 | はがき随筆
 ピアノ教室の発表会に出かけた。2歳ぐらいの幼い娘連れの母親の先生が、教室の4歳の生徒の出番の補佐のため、娘を1人ぼっちにした。赤いチョッキの幼い娘は泣き出した。すぐ、母を追い舞台の近くで、習慣になっていたのか、母と掌を合わせパンと打った。安心したのか、その娘は自分の席に着き、舞台のピアノの椅子を調節している母を見つけ「ママー」と叫んだ。
 終戦の混乱時、2歳のころの私は、熱が出て頭が痛かった。母はどこで見つけたのか、スイカの甘い汁を飲ませた。母の温もりは、世界の全てだった。
   出水市大野原 小村 忍(63) 2006/5/29 掲載 特集版-1

入門書は嘘を…

2006-05-28 15:48:13 | はがき随筆
 万能川柳の門をたたいたのが10年前。その間の掲載は7回の体たらくである。師も無く、打開策も無いまま、悶々と日を送っていた。
 去年の夏、1冊の川柳入門書と出合い、暗記するほどに読んだ。多読と多作を奨励しているが、市内の本屋では4冊を求めるのが精いっぱいだった。ところが図書館に32冊も鎮座して居るではないか。入門書に万能川柳8巻と濃縮版上下、ボケ川柳その他。
 入門書は嘘をつかなかった。1月末に投稿した句の入選の電話が二度も入った。他川柳で腕を磨き、夢はでっかく万能川柳の年間大賞だ。
   出水市緑町 道田道範(56) 2006/5/28 掲載

断片

2006-05-27 09:55:30 | はがき随筆
 私の菜園は戦時、出水航空隊があった跡地にある。子供のころは、そこら中に爆弾の落とし穴と防火用水池があった。なので今でも瓦礫が出てくる。
 鍬で地中から掘り起こされる時、煉瓦の欠片は濡れて赤く、血の色をしている。私は、それを見るとゆさぶられる。何かを語りかけているような気がするのだ。爆死した無数の人たちの伝言かもしれない。恐らくそれは「忘れないで」なのだと思う。
 私は、いくら合祀されていても、彼らが人の殺りくのためにかり出されて、死んでいった無念さを忘れまい。
   出水市高尾野町 松尾 繁(70) 2006/5/27 掲載

さわやか

2006-05-26 15:31:37 | はがき随筆
 三差路で、大型トレーラーがバックする。何回もハンドルを切り返す。通行車両が2~3台たまると道を譲り、また、最初からやり直す。それを何度も繰り返す。
 そのマナーの良さと高度なテクニックに見とれて一部始終を見守る。
 40代と思われるドライバーが「みつまっごたもんで(道を間違えたものだから)済みません」と、高い運転台から笑顔でピョコンと頭を下げた。「さすがプロですね。ご苦労さま」と私は思わず拍手を送る。
 さわやかさを残してトレーラーは走り去って行った。
   垂水市市木 竹之内政子(56) 2006/5/26 掲載

少年野球

2006-05-25 09:54:58 | はがき随筆
 朝の7時、テレビを見ていると電話のベルが鳴った。こんな早い時間に……と思い受話器を取ると甥の孝一君だ。今年の少年野球県大会で優勝し、茨城で開かれる全国大会に出場が決まったと言う。妻と両手をたたいて喜び合った。チームの名は川内サンダース。今年で結成26年。
 現在、孝一君が会長で長男で小6の寛君はレギュラーで活躍、小4と小2の弟も会員。巨人の木佐貫投手も、このチームで育ったと聞く。過去には全国大会で準優勝1回と、県大会では10年ぶり9度目の優勝の実績と聞く。全国制覇を目指してキバレ。
   姶良町平松 谷山 潔(79) 2006/5/25 掲載

はがき随筆4月度入選

2006-05-24 12:38:11 | 受賞作品
 はがき随筆4月度の入選作品が決まりました。
▽ 志布志市有明町、若宮庸成さん(66)の「今年の桜」(18日)
▽ 出水市高尾野町柴引、山岡淳子さん(47)の「ありがとう」(16日)
▽ 鹿児島市真砂本町、萩原裕子さん(53)の「志風さんのこと」(24日)の3点です。

 3月は春を称えるたくさんの文章を読んだのでした。4月も、三隅可那女さんが「陽気に誘われ」という文章にまとめておられますが、若宮さんの「今年の桜」、秋峯いくよさんの「雪柳」、上野昭子さんの「優しい香り」、福元啓刀さんの「桜の夜」、東郷久子さんの「入学」などなど、多くの方々が春の美しさや喜びを送って下さいました。道田道範さんは冬から春への大変換のすばらしさを、個性的な「スペクタル手品」という表現で表しておられます。
 とにかく、4月も春を称える文章がたくさん出され、楽しく読ませていただいたということなのです。また、春に関することだけでなく、皆さんとにかく、楽しいことを書きましたね。わかりやすいところでは、小村忍さんが「出水のツルマラソン」、小村豊一郎さんが「マラソンを見て」を書き、武田静瞭さんが「ピアノと金魚」、松尾繁さんが「ピアノ」を書き、それぞれ好きなものに触れる喜びを表しました。
 そういえば、同じように春を語っても、楠元勇一さんの「蕨の宿命」や清田文雄さんの「おかえり」、清水昌子さんの「ピンキーリング」などは、少し趣の変わった奥深いものがあります。ピンクのレンゲ草を美しく描きながら今は亡父への思いを描く山岡さんの「ありがとう」もいいですね。同じく亡父を偲ぶ別枝由井さんの「父の日記帳」、神田橋弘子さんの「亡き恩師に捧ぐ」や、萩原さんが皆さん方のお仲間だった志風さんを思う文章「志風さんのこと」などもしみじみします。
 これらに文章は、春への思いや風景などに郷愁や寂しさなどをしっとりと重ねて書いたもので、それぞれいい味を出しました。高野幸祐さんの「蕎麦とエッセー」はたとえを使ってうまく書かれたエッセー論ですね。さて、繋ぎと唐辛子とは何?
   (日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)

 係から

入選作品のうち27日午前8時40分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。作者へのインタビューもあります。「二見いすゞの土曜の朝は」の「朝のとっておき」です。

雨音の中で

2006-05-24 10:59:10 | はがき随筆
 桜の花が散り、若葉薫る季節から、梅雨入りを思わせるような天気へと、目まぐるしく季節が移り行く。
 この時の中に、取り残されてモタモタしている私がいる。この4月、夫の転勤で新しい土地での生活が始まった。結婚して6度目の引っ越し。この土地は、人・光・風も優しく包んでくれて、心地よいのだが、心がなかなか前に進もうとしない。いつもリセットしながらの生活に、少し疲れたのかなぁ。ゆっくり時間をかけて、自分を見つめ直したい。「こうしなければいけない」から、少しでも解き放されて自分らしく生きて行きたい。
   志布志市有明町 西田光子(48) 2006/5/24 掲載

おやつ

2006-05-23 11:17:28 | はがき随筆
 連休にある食堂で切り干し大根の漬物が出た。おいしかった。60年余り前の対空戦の合間の一コマを思い出す。
 鉄帽の下、薄汚れた顔、目だけギラギラ。首に防毒面、腰に銃剣。雑のうに乾パン2袋、その他。命令無しでは飲食不可。
 高射兵の戦闘服姿。
 激しい対空戦の合間、戦友と干し大根をかじる。干し大根がこんなにおいしかったとは。最高のおやつだった。
 今、干し大根を見る度に当時を思い出し、平和であることをしみじみ実感。
 本土空襲が激しくなったひとときの事である。
   薩摩川内市樋脇町 新開 譲(80) 2006/5/23 掲載