はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ハルピン育ち

2019-12-31 10:20:18 | はがき随筆
 忘年会も終わるころ、宝田明さんの名前が耳に入ってドキッとした。旧満州のハルピン育ちと知っていた。私も同じ街で育ったのだ。
 中国大陸の一部とはいえ、ひと口でそうは言いがたいオシャレでモダンな街なのだ。
 その昔、白系ロシア人が築いた処で、ハルピン駅をはじめ街並みも芸術的な往時を偲ぶ風情が未だに残っていて、テレビを見ながら一人懐かしんだ。
 もし宝田さんと会えたらあのむごい敗戦当時の話などはしないだろう。「よくここまで生きてきましたよね」と握手をしたい。
 熊本市中央区 木村恵子(88) 2019/12/31 毎日新聞鹿児島版掲載

おにぎり

2019-12-30 16:18:40 | はがき随筆
 「おばあちゃんのおにぎりが食べたい。Yが来るときに持たせて」と京都で大学生活をする孫娘がリクエスト。手のひらに塩をつけて俵形に握り、のりを巻いただけのもの。
 「おにぎりだけでは愛想がないから弁当を作るよ、手伝いはいらない」と娘に言って夕食後に下ごしらえ。当日、4時起きして2人分の弁当ができた。
 孫息子のYは奈良の聖地に行く途中。姉と合流し京都観光。秋空の下で弁当を広げたという。「おいしかったよ、おなかがいっぱいになった。ありがとう」と電話の向こうで孫娘の弾んだ声。ばばこそありがとう。
 鹿児島市 内山陽子(82) 2019/12/30 毎日新聞鹿児島版掲載

菜園

2019-12-30 16:10:18 | はがき随筆
 小さい頃に住んだ田舎の家は左手に母の菜園があった。もう遠い昔なのだが、今でも毎年冬になると手がかじかみながら手伝いをした頃がよみがえる。
 正月を迎える暮れ頃は、菜園のネギゃニラやほうれん草などを採り、母のまな板に運んだ。
「膾も作るから大根もな」と後で言うから、そんなときはさすがに膨れっ面して動かなかった記憶がある。
 昔は雪の日が多く、お手伝いも子供ながらにつらかった。しかし、母の作る料理の匂いと白いエプロン姿の母に二つ返事。もう70数年過ぎたんだと改めて思い出す冬です。
 宮崎県延岡市 前田隆男(82) 2019/12/29 毎日新聞鹿児島版掲載

続慣習の謎

2019-12-30 15:57:08 | はがき随筆
 「洗濯したての物は一度たたんでか着なさい」とは母の教えだが、その理由は知らないとこの欄に書いた。
 毎日ペンクラブ熊本の忘年会でこの話をしたら、15人の参加者中この慣習を聞いたことがあるのは私を含め3人だった。
 インターネットで検索したらの助言で早速調べたら「死に装束は縫ってたたまずに着せたから」という説明。死を連想させる行為はとかく忌み嫌われ避けられたようだ。水に湯を注ぐのも湯灌の逆さ水につながると母は戒めた。焼酎のお湯割りは湯に焼酎を注ぐのが一般的だがこれに起因しているのだと思う。
 熊本市北区 西洋史(70) 2019/12/28 毎日新聞鹿児島版掲載

息子の結婚

2019-12-27 14:56:08 | はがき随筆
 三十を過ぎて、やっと息子が結婚する。親としてこんなうれしいことはない。高校卒業後何回か転職し、今の仕事に生きがいをみつけ、ポジティブに頑張っている。ある日突然、お付き合いしている女性を紹介してくれた。本当にびっくりし、息子の本心を問いただした。本人の結婚の意志が固く、また女性の両親も承諾しているとの話だった。私たち夫婦もこの上ない喜びだった。
 お嫁さんになる人、笑顔のすてきな明るい女性で安心している。これからの長い2人の人生、幸せに寄り添って歩いてほしい。2人の未来に幸あれ!
 
鹿児島県姶良市 永福正二(70) 2019/12/26 毎日新聞鹿児島版

写真

2019-12-27 14:50:01 | はがき随筆
 集まってハイポーズ! そんなとき、みんな手にしているのはスマホだ。送信し合って素敵なショットが保存として増えていく。拡大も自由自在でいつでも見たいときに見られる。
 私の場合、気に入ったのや思い出深いショットはプリントしたい、という思いがある。だがどうも私の周りの皆さんは撮りまくっているだけみたいだ。便利なモノが出現して誰もがカメラマンとモデルを呈している。
 アルバムに貼った記念の写真を、ゆっくりめくりながら昔の楽しかったひとときに思いを馳せる…なんてのはもう時代遅れの構図なのだろうか。
 宮崎市 藤田悦子(71) 2019/12/26 毎日新聞鹿児島版

一本の糸から

2019-12-27 14:42:23 | はがき随筆
 1.2.3と数えながら編み針を動かす。就活の年代に入った友人から毛糸がドサリと届いた。太さも色も様々な残り糸。
 まず一尋分の目を作る。そして、後は長編みでひたすら編み続ける。糸がなくなればつなぐ。配色は文句は言えないができるだけ統一感を出すように考えながら……。
 ひと月近くかかってどうにか膝掛けが出来上がった。単なる一本の糸が針にかけて編むことによって、平面の布になっていく。そして暖かい。50年前に母が編んでくれたのを使っている私。これは妹に送ろう。使ってくれるだろうか。
 熊本県宇土市 岩本俊子(70) 2019/12/26 毎日新聞鹿児島版

ビワの共同作業

2019-12-27 14:33:23 | はがき随筆
 今年もビワの花を摘む季節を迎えた。来春に向けてけて大玉の果実にするため欠かせない作業だ。円錐形の花茎てっぺんを剪定ばさみでちょん切り3個残し下をすごいて一丁あがり。気の遠くなる作業だが、甘い香り漂う果樹園に身を置き摘花すると時間がたつのを忘れる。
 今年はそこへ珍客がいっぱいやって来た。メジロの群だ。ヒュッヒュッと枝から枝へ飛び移り、まるで私の摘花と競争してるみたいだ。
 メジロが花の蜜を吸うことで受粉を手助けすることを思えば、メジロとの共同作業と言えるかもしれない。
 鹿児島県垂水市 川畑千歳(61) 2019/12/26 毎日新聞鹿児島版

餅踏み

2019-12-27 14:02:08 | はがき随筆
 ひ孫の誕生日の動画が送られてきた。昔からの習わしどいおりに、ワラゾウリをはいて、まだ歩けないひ孫は母親に支えられ、紅白の餅を踏んでいる。
 聞くと最近では、ネット注文すれば、当日届くと言う。さらに、一升餅を入れた風呂敷を重そうに背覆っている。
 ボール(スポーツ向き)、ソロバン(商売向き)などどれを取るかで将来を占う「選び取り」のカードも入っててたらしく、「万年筆をとったよ」と声がした。
 4歳の姉ちゃんが「おめでとう」を繰り返す。私もスマホに向かい、おめでとう。
 宮崎県日向市 榎田安恵(78) 2019/12/26 毎日新聞鹿児島版

無声映画時代

2019-12-27 13:53:34 | はがき随筆
 新聞で「活弁『語り』に息づく」を読み幼少時代の映画館を思い出した。住居がすぐ前で、上映があるたびに無料で入れた。きっと迷惑をかけているお詫び料だったのかもしれないが。
 紙上で書いてあった通り、弁士さんがしゃべり、楽士が伴奏し、観客は映像に合わせて、掛け声をかけ、最高潮の場面では、口笛、拍手でにぎわった。「鞍馬天狗」は大人気。活動写真になり、成長した私は入場料を払い、見に行くことも減った。
 やがて戦争。映画館も廃館になった。古き良き時代だったかも。今は静かにテレビでみる。
 熊本市中央区 原田初枝(89) 2019/12/26 毎日新聞鹿児島版

メジロを待つ

2019-12-27 13:03:51 | はがき随筆

 今年は庭木の剪定作業をいつもより1カ月早めた。「暑い日が長く続いたので、害虫の多い年でした」と庭師さんが言う。そういえばイヌマキはキオビエダシャクに、ツバキの葉はチャドクガに随分食い荒らされた。
 行きつけの理髪店主が「山に入ったらメジロの幼鳥の鳴き声が例年より多いので、この冬はメジロがたくさい来ますよ」と言った。ツバキの花がもうすぐ咲きそうだ。10年前、横浜から移植したアブチロンの花もいっぱい花をつけている。庭の手水鉢をきれいに掃除して、水を替えた。準備万端整い、メジロの飛来を待つばかりである。
 鹿児島市 田中健一郎(81) 2019/12/27 毎日新聞鹿児島版

岩国の歴史学ぶ連載

2019-12-25 19:50:51 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月24日 (火)
   岩国市   会 員   片山清勝
 私は10年ほど前、岩国の「ご当地検定」実現に関わった。検定は5年前に終了したが、郷土の歴史に強い興味を持つようになり、防長路版に月1回掲載される「岩国史探訪」を楽しみにしている。12月は20回目「広家築城の横山」。これからも続いてほしいと切り抜きしながら思った。
 連載は、関ケ原合戦の後、岩国へ移された吉川広家が手掛け、現在の岩国の原型となった干拓事業から始まった。統治、通商、交通など岩国の成り立ちを知る貴重な資料になった。また、キリシタン弾圧、農民の名字、足軽や鉄砲組の悲哀、祭礼など歴史読み物としても面白く読んだ。
 14回目は、岩国という地名の由来が書かれ、市民として必須の内容と思う。
 少子高齢化などで市の人口は減少し、活力の低下を感じている。取り戻すには自ら生み出すものを持ち、定着させなければならない。連載には、岩国藩が城下町を繁栄させた工夫が多々示してあった。市勢回復のヒントになるかもしれないと思う。
     (2019.12.24 中国新聞「広場」掲載)   




枯れない花

2019-12-25 19:48:58 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月22日 (日)
   岩国市   会 員   横山恵子 
 今もはっきりと目に浮かぶ光景がある。それは枯れない花だった。話は胸に刻まれた日々をさかのぼる。
 夫は63歳の時、脳梗塞を発症した。その後の闘病生活は10年に及んだ。特に最後の1年は坂道を転がるがごとく悪化の一途をたどった。一緒に闘う私は心が折れそうだった。それでも奇跡を信じ、細い望みの糸を必死で手繰っていた。
 しかし、平成26(2014)年4月29日未明、最期の時を迎えた。夫の顔をなでながら私は自然と言葉がこぼれていた。
 「お父さん、ありがとう、ありがとう、つらかったね、よう頑張ったね・・・」
 一瞬、夫の唇がわずかに開いた。笑みを浮かべるように見えた。「まあ気が付いたの。心配したよ」と思っても言葉に詰まった。必死で体をさすった。だが目を開けることはなかった。
 幻だったのかー。われに返ると、看護師の方が何も言わず、私の背中をさすり続けてくれていた。
 通夜、葬式を終えて四十九日法要を迎えた。まだ墓はなく納骨できなかった。少しでも長く家にいたいという夫の意思のような気がした。
 供える花も暑さのため、すぐに枯れてしまった。その中で、1輪のアジサイだけは生き生きとしていた。何とも不思議だった。
 そして9月11日、納骨の時が来た。枯れないアジサイを挿し木にしようとして驚いた。昨日まで元気だった花がしおれていた。まるで役目を
終えたかのようだった。
   (2019.12.22 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)




モグラ捜し

2019-12-25 19:31:08 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月21日 (土)
   岩国市  会 員   片山 清勝
 
 5歳くらいの女の子とその両親が花壇周りで作業している。「花植えですか」と声を掛けると「モグラが見つからない」と悔しそうに子どもが答える。
 「いないのは分かっているんですが、娘が捜すというのでお付き合いです」と母親がそっと説明し、うれしそうに笑う。花壇にあったモグラのトンネルを掘り返しているところだった。
 何でもネット検索で解決する世代だが、子どもが抱いた疑問や好奇心のため、一緒になって掘り返す若い両親に感心した。この体験は成長につれて必ず身について花が咲く。かわいい移植ごてを見ながら思った。
  (2019.12.21 毎日新聞「はがき随筆」掲載)




 「これからは菌よ、菌」

2019-12-25 19:30:08 | 岩国エッセイサロンより
2019年12月19日 (木)
70代の挑戦
   岩国市  会 員   沖 洋子

 若いころ刺しゅうを習っていた仲間の集まりでのことである。その時のメンバーの一人の発言が心に響いた。
 数年ぶりに会う友は、クルミなど自然の食物から、自分で作った酵母菌を、パン種や石鹸などの物作りに活かしているという。大好きでつい食べ過ぎてしまうパン作りを、ここ数年ダイエットのために封じていた。
 友を見習い、自分が育てた酵母菌で作ったパンを食べてみたい。パン作りに再挑戦しよう。
 うまくできるかどうかは分からない。でも、取り掛かろうと体が動いてきた。
  (2019.12.19 毎日新聞「はがき随筆」掲載)