はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

春の息吹

2008-02-29 21:19:06 | はがき随筆
 寒さ厳しい中にも「春遠からじ」の兆しは、あちこちの身近なところで感じられる。ささやかな年中行事の一つ、立春にひな人形を飾ることから、わが家の春は訪れる。
 居間から見える四方に、枝を張った古木の白梅を手折り、菜の花を添えるだけで、閉ざしがちだった部屋中に明るさとぬくもりが満ちて、自然と心身が外へ向いてしまう。
 嫁いだ娘の年齢と同じ時を経て、きらびやかなお召し物も色あせ、色白の端正なお顔立ちも染みが増えられた。「老雛(おいびな)」に我が身を重ね合わせ、いつになくいとおしい春待ちの日々。
   鹿屋市 神田橋弘子(70) 2008/2/29 毎日新聞鹿児島版掲載

そして母は

2008-02-28 15:11:46 | はがき随筆
 1月末、90歳の誕生日を前に、母は大量の吐血と下血をして救急病院に運ばれた。すぐに姉妹に連絡して病院に詰めた。
 点滴を自分で外したり、少し良くなると深夜はいはいをする不良老女だった。半月ほどで、ハンサムな先生や優しい看護士さんたちのお陰で、退院できるまでになった。
 「大変御迷惑をおかけしました。ありがとうございました」
 「とっても楽しかったですよ。帰るのね。寂しくなります」
 母はここでも、皆さんに愛されていたようだ。
 家では、しだれ梅が母の回復を祝うように咲き誇っていた。
   阿久根市 別枝由井(66) 2007/2/28 毎日新聞鹿児島版掲載 
写真はよっちゃんさんからお借りしました。

チェスト!

2008-02-27 08:40:41 | かごんま便り
 福岡ソフトバンクホークスの川崎宗則選手が先日、センバツ初出場の母校・鹿児島工への応援旗に寄せ書きした。「チェスト行け!!」。ご存じ、鹿児島特有の、気合を入れる時の掛け声である。
 23日、昨夏に県内で撮影された映画の完成披露試写会に足を運んだ。タイトルはずばり「チェスト!」。錦江湾横断遠泳を題材に、子供たちのひと夏の成長を描いた作品である。
 主人公は正義感の強い男の子。カナヅチのため恒例の遠泳大会をサボり続けてきたが、最後の6年生の夏、参加を決意する。彼を取り巻くのはクールで陰のある東京からの転校生、過敏性腸症候群でトイレが近いのを級友にからかわれる気のいい少年、大人びた学級委員の美少女──たち。先生や家族に見守られながら、薩摩伝統の「郷中(ごじゅう)教育」の精神そのままに、仲間同士で助け合いつついろんな困難を乗り越えていく……。
 舞台あいさつで雑賀俊郎監督やキャストの皆さんは、鹿児島の豊かな自然と人の〝熱さ〟が作品の下支えになったことを説明したうえで「忘れていたもの、忘れかけていたものを思い起こさせる映画です」と力説した。
 誰もが頑張っていた時代、一生懸命は美徳とされた。だが今「頑張る」は、はやらない。時には格好悪いとさえみなされる。でも本当にそうか?
 作品は「『ガンバレ』なんて気安くいわないで!」のキャッチコピーの通り、勤勉実直だけを鼓舞する内容ではない。それでも「全力を出し切って初めて見えるもの」をさりげなく伝えようとしていることは確かだ。
 菱刈町出身の榎木孝明さんが言った。「この映画が鹿児島発というのが一番うれしい」。鹿児島からのメッセージは県外の人にどう受け止められるだろう。楽しみだ。
 県内での先行上映は3月1日から。15日から九州各県で、4月19日からは全国で公開される。

鹿児島支局長 平山千里 2008/2/25 毎日新聞掲載

時代

2008-02-27 07:59:48 | はがき随筆
 ラジオの深夜放送で懐かしい人気番組を聴いた。
 川内市での録音。宮田輝さんの司会で盛り上がる会場、色濃く残る方言、笑い、出場者の明るい語りと歌。私は昭和30年代にタイムスリップしていた。夢うつつの中で当時の生活や思い出がよみがえり会えるはずのない人々にも出会った気がした。
 車やテレビもわずか、携帯電話など想像もしない時代。私たちは少しも不自由を感じず、毎日楽しく精いっぱい生きてきた。そのころは温かい人情と自然があふれていた気がする。
 まもなく還暦。懐かしい人たちに会える日が来る。
   指宿市 有村好一(59) 2008/2/27 毎日新聞鹿児島版掲載

卒業

2008-02-26 19:28:21 | はがき随筆
 卒業の最後の授業受けており
 6年かかって加治木高校を卒業した。どんなにこの日が来ることを待ったことか。夢にまで見た卒業式。当日、卒業証書を手にした時、感激と涙で顔がぐしゃぐしゃになった。中途退学しないで良かった。長い人生、挫折にあった時、卒業したことで、困難を乗り越えられた。
 高2の時、肺結核で、3年休学。療養所で過ごした青春の日々。後でわかったことだが、誤診だった。ああ無情。
 今から40年前の3月1日、念願の卒業。私を支援していただいた級友、先生方にお礼を言いたい。心から感謝しています。
   山口県光市 中田テル子(61) 2008/2/26 毎日新聞鹿児島版掲載

平凡な幸

2008-02-25 07:38:20 | はがき随筆
 小学校のころ習字を習っていた。「平凡な幸」と書くことがあった。平凡な幸とは何ぞや? と思いつつ。
 今、夫の病状も一段落。私もどうにか健康で仕事も楽しい。日だまりの中、洗濯物を干しながら庭に目をやると、パンジーがほほ笑み、梅の花も青空に向けて満開。何気ない一日の暮らし。「平凡な幸ってこんなことかなあ」としみじみ思う。
 最近、明けやらぬ冬空、山の稜線(りょうせん)、ほほを刺す北風さえもやけにいとおしい。「もしかして私は芸術家になったのかも?」と実家の母に電話すると「年を取ったのよ」と一蹴(いっしゅう)された。
   出水市 井尻清子(58) 2008/2/25 毎日新聞鹿児島版掲載
写真はazumiさんにお借りしました。

がっくり!

2008-02-24 19:15:38 | アカショウビンのつぶやき










 春の嵐が吹き荒れた昨日がうそのよう、朝から穏やかな一日だった。
 今日は、鹿屋市民合唱団の定期演奏会。教会の日曜礼拝が終わってから、久しぶりに会場まで歩くことにした、私の足で20分ぐらいかな。
 野鳥の姿などを追いながらいい気分で歩き続けた。「まあ、最近この辺りも開発されちゃって…」なんて思いながらしばらく行って気がついた。
 どっか違う、ええっ! どこで間違えたの、信じられない。でも引き返すのは悔しい。
 方角は文化会館の方に間違いないんだから、時間はたっぷりあるし行ける所まで行っちゃえーと。30分以上も歩き回ってやっと着いた。
 待ち合わせた高校時代の友人に早速報告。「私、やっぱり認知症が始まったみたい、これこれしかじか…」と。
 でも愛する友は「あるある、私も、これこれしかじか…」と慰めてくれるが、ショックは大きい。もともと、超方向音痴で「お前1人ではどこにも出せん!」と夫に言われ続けた私、そろそろ要注意の時期が来たのかなあ。

 でも、楽しいステージが、迷子の情けない思いを忘れさせてくれた。
 楽しい一日だった(*^_^*) お父さんしっかり見守っててよう。

ツルマラソン

2008-02-24 18:42:06 | はがき随筆
 2月10日、ツルマラソン。快晴にほっとした。熱湯を入れたポットを持って友と出かけた。
 37㌔の地点で、給水や栄養の物を準備して待つ。11時20分、トップランナーが見えると、飲物を知らせる友の声。軽快な足どりで走りすぎた。
 まもなく犬のぬいぐるみを着た人も交じる一団が来る。接待が忙しくなった。美女や動物の仮面をかぶった走者もいて、その愛きょうにほほ笑む。暖かい茶を所望された72歳の健脚に驚いた。あと5㌔、頑張れ。
 北海道からも参加があり、私は応援しながら、走者から元気をもらった。
   出水市 年神貞子(72) 2008/2/24 毎日新聞鹿児島版掲載

楽しみな餅つき

2008-02-23 09:46:28 | はがき随筆
 餅米が蒸し上がり、ブザーが鳴る。「つく」のボタンに切り替えると、面白いように回転しながら、餅が出来上がる。
 釜から餅を移し、ちぎり分けるのは私の役目。「アッチッチ」と叫びながら、ちぎっては手渡す。夫は、器用に丸めて箱に並べていく。呼吸はぴったり。お飾り持ちの出来上がりである。
 2回目の餅米を釜に入れ「蒸す」のボタンを押す。「あっ」。水を入れていないことに気づき、大慌てである。餅つき機より、脳が故障し始めたらしい。
 30年以上も頑張っている餅つき機さん、今年もよろしくね。私も頑張るからね。
   鹿児島市 竹之内美知子(73) 2008/2/23 毎日新聞鹿児島版掲載

幸せに感謝

2008-02-22 12:43:15 | はがき随筆
 小さな幸せを感じながら生きている。一人暮らしを余儀なくされた結果かもしれない。宝石の輝きではなく河原で見つけた小石の美しさのような、時分だけが心豊かになれる幸せである。見過ごしてしまいそうなところに、その幸せはある。
 笑顔であったり料理をする後ろ姿であったり。犬や猫に投げる慈愛の視線でもいい。いや、笑い声でも鼻歌であっても足音でもいいのかもしれない。いとしさが実感できれば……。
 わたしを心地よくさせてくれる一つ一つが小さな幸せの源であり、それを感知できる自分を大事にしたい。ありがとう。
   志布志市 若宮庸成(68) 2008/2/22 毎日新聞鹿児島版掲載

コイン乾燥機

2008-02-21 21:42:43 | はがき随筆
 太陽が顔を見せてくれない。洗濯物が乾かない。やむなく向かう先はコインランドリー。乾燥機に半乾きの衣類、コイン投入口に300円を入れ、近くのスーパーに行く。
 買い物をすませてランドリーに戻ると、ドラムはまだ回っている。色や形の違う衣類が、絡み合いながら回転するさまは、〝しがらみ〟の中で生きる人間を見る思いだ。
 子どもが3人いる知り合いの女性が「ここがあるから助かるけど、出費が痛い」とぼやく。
 西の空が明るくなった。あしたはお天道さまを拝みたい。
   出水市 清田文雄(68) 2008/2/21 毎日新聞鹿児島版掲載

教育に新聞を

2008-02-20 21:46:13 | かごんま便り
 
 「生徒に反省文を書かせたら『すいません』と書いてきた。最近の子供たちは正しい日本語が分からなくなっている」。嘆きの主は、県NIE推進協議会の鷲東重明会長(松陽高校長)だ。
 NIE(教育に新聞を)は授業の教材として新聞を活用する取り組み。1930年代に米国で生まれ、世界に広がった。国内では日本新聞教育文化財団が音頭を取り、鹿児島では前述の推進協議会が選んだ研究委嘱校で授業が展開される。冒頭の発言は、16日に鹿児島市であった1年間の実践報告会でのものだ。
◇ ◇
 昨年9月に毎日新聞が実施した第61回読書世論調査で、新聞を「読む」と答えた人の割合は全体で78%。だが20代では57%、10代後半は48%にとどまる。一方「活字離れが若者の日本語力低下につながっている」と思う人は77%に上っている。
 NIEは新聞に親しむことから始まり、特定のテーマで複数紙を読み比べ、感想を述べ合うことなどで判断力や思考力、情報を「読み解く」能力を高めるのが狙い。併せて活字離れを食い止める役割も期待されている。
 07年度の県内の実践校(小学校4▽中学校5▽高校4)では、国語や社会、総合学習などで新聞を活用した授業を実施した。報告会では「世の中の出来事に興味を示すようになった」「情報をうのみにするのではなく評価・識別する能力(メディア・リテラシー)の芽が養われた」などの成果が聞かれた。
 文部科学省が15日に公表した学習指導要領の改正案では、言語活動の充実が盛り込まれ、具体的には批評・評論・論説などの活用重視や、報道による情報を比較して読むことなどがうたわれている。NIEの有用性を多少なりとも意識してのことだろう。我々も今まで以上に、正しい日本語でより分かりやすい記事を提供していかなければと痛感している。
鹿児島支局長 平山千里 2008/2/18 毎日新聞掲載

ごめんね

2008-02-20 18:30:30 | はがき随筆
 「ごめんね、母ちゃん。ありがとう」。私が半身まひの夫の手伝いをするたびに夫は「ごめんね」と言う。ごめんねは困る。ありがとうだけでうれしい。ごめんねはつらい。悲しい。
 「父ちゃん、もっと堂々としてくれていいんだよ。当たり前のことをしてるだけなのだから。不器用で迷惑かけているのは私の方だし。『ごめんね』は絶対イヤだよ」と言ったら、時々しか言わなくなった。
 「つらいなあ、母ちゃん」
 そのことばがもっとつらい。私の方が「ごめんね、父ちゃん」とあまりたくなる。
   鹿児島市 萩原裕子(55) 2008/2/20 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆1月度入選

2008-02-20 18:24:57 | 受賞作品
 はがき随筆1月度の入選作品がきまりました。
▽出水市高尾野町、岩田昭治さん(68)の「夢抱く古稀」(6日)
▽薩摩川内市木脇長市比野、下市良幸さん(78)の「心のリハビリ」(17日)
▽肝付町前田、吉井三男さん(66)の「へんてこりん」(16日)
──の3点です。

 立春を過ぎ、太陽の光に春らしさを感じさせられます。1月度は新年特集(上・下)が組まれました。岩田さんの「夢抱く古稀」は、自分が発行する新聞への強い思いを述べています。大いに元気で独立心をみせています。西尾フミ子さんの「兄ちゃんの休暇」(4日)は、戦死したお兄さんを忘れられない、つらい気持ちを描いた文章です。その他、田中京子さんの「正月っどん」(4日)、小村豊一郎さんの「げたの思い出」(4日)は子供の時分の、正月を迎えるうきうきした気持ちをリアルにうまく表現してあり魅力を感じます。
 下市さんの「心のリハビリ」は、離れて住む娘さんから常時、暮らしの中で、車の運転、火の用心など十分気をつけるよう注意され、そこで一大決心をします。そのことを心のリハビリと心得るところが活気みなぎっていますね。文章の構成がよくて分かりやすく書かれています。
 吉井さんの「へんてこりん」は、文章の始めに定年を実感する一つが朝の連続テレビ小説を見られることだ、と書き、充実した朝の暮らしが伝わってきます。さらの次々に展開する、人生経験豊かな夫婦の関西弁の味がとてもよく、会話中心の文章であるのに言葉の面白さが文章を引き立てていますよ。また、題が内容をよく読ませるきっかけになりましたね。
 有村好一さんの「年越しそば」(12日)は、恒例のお母さんと自分との年越しそば打ちに期待していたが、お母さんが突然の体調不良で来られなくなり、1人で頑張る姿が面白く個性的に描かれました。馬渡浩子さんの「あんかと共に」(20日)は、あんかの操作ミスを自虐的に表現してシャレた文に仕上げましたね。竹之内美知子さんの「義姉と妹」、秋峯いくよさんの「健康第一」は、いずれも文章が鮮明で明るくいいですね。
 今回のように個性あふれる文章は、魅力を感じさせます。

(日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)

係から 入選作品のうち1編は23日午前8時20分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝の取っておき」です。

発掘仲間と私

2008-02-19 12:14:55 | はがき随筆
 経験したことのない仕事に従事し、生きがいを見つけたい。その強い思いが実現し、鹿児島大学構内での遺跡発掘の仕事に機会を得た。日本の歴史発見にロマンを感じ、健康で働ける有り難さや、そこで働く老弱男女の力強い生きざまも垣間見た。
 細やかに黙々と働く女性、この仕事をバネに再起を誓う若者や壮年組、人生の荒波を乗り越える高齢者の勇姿に心打たれ、私は元気と勇気をもらった。
 体力的に疲れる日々もあったが、作業も最終段階。発掘関係者の皆さんや、働いた仲間との別れの寂しさが、胸に一段とこみ上げてくる。
   鹿児島市 鵜家育男(62) 2008/2/19 毎日新聞鹿児島版掲載