はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

爆撃機見た岩国の空  

2021-08-18 20:48:39 | はがき随筆
 降伏はラジオの「玉音放送」で国民に知らされたが、幼かった私に記憶はない。まもなく進駐軍の車両が岩国市の街を走るようになり、これが占領下なのだと思った。
 小学校に入学後、ほどなくして朝鮮戦争が勃発した。連日、岩国基地から出撃する爆撃機を見上げていた。1機が市内に墜落し死傷者が生じたこともある。ベトナム戦争の時も出撃基地となった。
 今は極東最大級の米軍の航空基地であり、最新鋭ステルス戦闘機が配備され、機能は強化されている。
 町に爆音が絶えることはない。基地から離れた地区に住む知人が、最近、基地の近くを訪れた際、ごう音に驚き、「付近の人は大変だ」と話してくれた。
 米真珠湾攻撃を命じる旧海軍の「新高山登レ」の暗号電文が、沖合の柱島近海に停泊中の戦艦から発信されて80年。再び町が出撃の地にならないことを願う。
 岩国市 片山清勝(80) 2021/8/15 中国新聞掲載 岩国エッセイサロンより 

白昼夢

2021-08-18 20:39:55 | はがき随筆
 十万年前、地峡にはヒトという生物が存在した。それまでの地球の歴史で最も繁栄した生物だが突然絶滅した。その理由として主に2説が考えられる。
 その一は環境の悪化を止められず地球の温暖化が進み、ヒトには耐えられぬ熱波が襲った。加えてウイルスのパンデミックにも襲われた。ヒトの化石の遺伝子の解析で類推できる。
 その二は何らかの誘因で強力な殺傷能力を持つ核兵器で互いに敵を殺戮した。子供をかばって折り重なった親の化石が随所に発見されて、その可能性は十分推認される。ヒトは自らの愚かしさで地球上から絶滅した。
 熊本市中央区 増永陽(91) 2021.8.18 毎日新聞鹿児島版掲載

セミ

2021-08-18 20:31:22 | はがき随筆
 庭先でくつろいでいた夫が「地面に穴、空いてるよ。何かな」と。「アリの巣じゃないの」と私。3㍉ほどの穴が夕方、1㌢ほどに。翌朝、穴が二つになり、底がつながっている。興味津々のぞいてみる。細い棒で手触りを確認。穴の中から私を凝視している。「セミの幼虫だ」。脱皮の直前かな。2日後、梅雨明け宣言が発表される。同時に、我が家の周りがシャーンシャージャージャン。セミたちの合唱団が結成され、耳の奥まで響く声楽。穴をのぞくと、居る気配なし。無事脱皮したのだろう。今季限りの生命、あらん限りの声をあげ、鳴くがいい。
 鹿児島県指宿市 外薗恒子(67) 2021/8/17 毎日新聞鹿児島版掲載 

野良仕事

2021-08-14 21:22:29 | はがき随筆
 蔓を大方切った郁子の下、藪柑子が枯れた。が、今年は芽吹き小花がつく。郁子の葉が繁り、遮光して元の環境が戻ったからだ。小さな庭にも相関作用はある。草木の素性を知らず弄ると、傷めると分かった。最近、自然環境の本を読み、不耕栽培を知った。雑草と作物、害虫も益虫も相身互いで共存する。これまで私は草取り、水やり、肥料をやって耕し、整えるのを優先してきたが、多少荒れても、自然に任せた。不耕起の野良仕事に目から鱗であった。計画性、持続性、忍耐、そして学習とが必要な不耕起の方が、よほど難しいのである。が、面白い。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(66) 2021/8/14 毎日新聞鹿児島版掲載

コロナと空襲

2021-08-13 17:01:07 | はがき随筆
 この1年半はコロナに翻弄されて怖かった。それでも私がはっきり記憶している恐怖は小学生の時に体験した空襲である。
 昭和20年、鹿児島でも米軍の空襲が始まった。学校の授業は空襲を避けて、山の中で行われた。空襲警報が鳴ると、防空頭巾をかぶり防空壕に避難する。8月には母校が焼夷弾で焼失し、間もなく終戦となった。
 戦後は食糧難に見舞われた。「おなかがすいた」と、母に弟と訴えると、なけなしの切干カンショを煮て食べされてくれた。空襲の怖さとあのひもじさを思えば、コロナなど何のそのと言いたくなる。
 鹿児島市 田中健一郎(83) 2021/8/13 毎日新聞鹿児島版掲載

バリウム検査

2021-08-13 16:53:06 | はがき随筆
 3年前、会社の検診で胃透視検査を受けた。その時もう二度とやらないと決めたのに……。今年定年退職予定の私は、最後だからと受けることにした。
 しかし、段々募る不安。問題は狭い台の上でのすばやい体位変換だ。極め付きは台が傾き頭が下がる状況。両手で手すりをつかんでいるだけ。手を離したら絶対落ちる。ああ、やっぱり3年前と変わっていない。むしろ3年分、私の体力は落ちている。「早くして! まだ?」。心の中で叫ぶ。ほんの数秒が、とてつもなく長く感じられる。
 無事終わったが、次は絶対、胃カメラにする。
 宮崎県延岡市 渡邉比呂美(64) 2021/8/12 毎日新聞鹿児島版掲載

虫の勉強

2021-08-13 16:45:49 | はがき随筆
 ブロック塀に止まった黄色い虫の写真を小2の孫娘に送る。折り返しかかった電話で「これはチャドクガ。絶対触っちゃだめだよ。ツバキの葉などにいっぱい卵を産み付けてるかもしれないから、十分注意してね」ときつーいお叱り。
 一緒に送った写真も「これはツマグロヒョウモン、こっちはしっぽの先が大きいからウチワトンボ」など、すらすら。図鑑でしっかり勉強してるらしい。当世〝虫を愛づる姫君〟の知識。昆虫ではせいぜいモンシロチョウやイトトンボ、アブラムシ止まりのこっちは、あぜんとさせられるばかり。
 熊本市東区 中村弘之(85) 2021/8/11 毎日新聞鹿児島版掲載

天気管

2021-08-10 09:57:02 | はがき随筆
 父の日に娘から贈り物が届いた。段ボール箱に「ガラス、こわれもの注意」のシールが貼られていたので、妻は「ワインかビールのグラス」と見立てた。箱には、入り口を閉じた試験管とガラス球2個をガラス管でつないだ理科実験室にありそうなオブジェが入っていた。
 19世紀初頭の欧州で、航海時に使われたストームグラス(天気管)だった。ガラス容器には、樟脳を溶かしたエタノール液が詰められている。白い結晶のでき方で天気を予測した。
 娘からは「魚見測候所開設」のコメントが。船長兼天気予報士の気分を味わってみるか。
 鹿児島市 高橋誠(70) 2021.8.10 毎日新聞鹿児島版掲載

泣かせてください

2021-08-09 21:34:57 | はがき随筆
 長女の毒舌にまた傷つき、亡き両親の顔が浮かんで、泣けて仕方なかった。年を重ね、少々のことはケセラセラと流せるオバさんになったはずなのに、まだガラスのハートの私がいた。
 お父さん、お母さん、成長できない娘を笑っていますか。いくつになっても泣きたい時があります。泣かせてください。
 「泣いてんの?」と次女は冷ややかだ。友達に話すと大爆笑。母親を泣かせたとはつゆ知らない長女は、涼しい顔でやって来て、また「よろしく~」と孫の守りなど頼むだろう。
 父と母が、無性に恋しいこのごろです。
 宮崎県延岡市 品矢洋子(67) 2021/8/9 毎日新聞鹿児島版掲載

2021-08-09 21:23:51 | はがき随筆
 ポツン。「あれっ雨?」。見上げる空に雨雲はない。またポツンと来た。ミスと状態でちょっとヒンヤリする。散歩の帰り道、虹を見た。凡人の目には五色しか見えないが、はっきり色の区別ができるほどきれいな虹に感動する。虹の下には宝があると聞いたことがある。行ってみたいと願ったあの日。虹には夢がある。人の気配に振り向くと、その方も虹を見上げて綺麗と言われた。「あらっ、わんちゃんは?」とその方。「遠い所に行きました」と私。「私も同じ思いをしたからわかります。無理しない方がいいですよ」。やさしい心遣いが嬉しい。
 熊本県八代市 鍬本恵子(75) 2021/8/8 毎日新聞鹿児島版掲載

勝負師

2021-08-07 13:52:09 | はがき随筆
 脳の活性化のためにマージャン教室に通い始めた。
 約50年ぶりで驚いたことは、全自動マージャン卓があり、全部自動で牌を並べてくれることである。文明の利器に感心するばかりだ。
 実戦形式で約5時間したが、役作りや他の相手の言動にも注意して、自分がいかに対処するかを瞬時に判断しなければならない。
 頭の回転を速めるには、健康マージャンは自分にとっても有意義なものだと思う。
 そして勝負師になって永劫に続けられることを願うばかりである。
 鹿児島市 下内幸一(72) 2021/8/7 毎日新聞鹿児島版掲載

自然災害

2021-08-07 11:50:44 | はがき随筆
 山肌を削りながら土石流が、家や気をなぎ倒していく。車は流され消防士が危機一髪で難を逃れる様子を当日テレビで見た熱海の土石流災害。行方不明者を早く救出してほしいとテレビの前でつぶやいてはむなしさを覚えた。
 ここ数年で似たような映像を目にするようになった。甚大な被害をもたらすのは、温暖化による異常気象らしい。
 少しでも二酸化炭素が減ればと、エコバッグを利用している自分。一方、ガンガンと、クーラーを使っている自分。はたして地球温暖化防止に協力していることになるのだろうか?
 宮崎市 津曲久美(63) 2021.8.7 毎日新聞鹿児島版掲載

今そしてこれから

2021-08-07 11:43:45 | はがき随筆
 「元気ですか。近ごろはがき随筆で見かけませんが」と20年前知り合ったAさんからの電話。Aさんの実家が私の家の近くで、今年初めお母さんを亡くされていた。実家の座敷に案内されると床の間に徳川家家訓の掛け軸が。渋沢栄一氏の本の中で出合った家訓である。Aさんのお母様はこの家訓で厳しく育てられたとのこと。栄一氏のようにこの家訓で育った人は日本にいっぱいいるのだと実感した一日だった。Aさんとの再会に感謝し、「論語と算盤」「いい生き方いい死に方」を読みながら71歳の自分と93歳の母と向き合う日々である。
 熊本県八代市 今福和歌子(71) 2021.8.7 毎日新聞鹿児島版掲載

人生の一日の重さ

2021-08-07 11:35:57 | はがき随筆
 一日がその後の人生を支える。そんな一日が人生にはある。1986年7月20日、鳥取県の皆生トライアスロン。あの日が後年、自殺衝動に駆られるたびに私を立ち止まらせ、現在まで生き抜く力になった。他者から見ると泳ぎ、こぎ、走る距離の長いレースを完走しただけの日に人生を変える、支えるだけの力と重さが確かにあった。田舎者が都会に出て自分を見失い、自信を失い、その自分を取り戻すために完走することで……。あの日から35年がたつ今でも、鮮やかな色彩をもって老いに生きる私に熱く語りかけてくる。
 鹿児島県湧水町 近藤安則(67) 2021/8/7 毎日新聞鹿児島版掲載

ウグイスの訪問

2021-08-07 11:29:06 | はがき随筆
 ツキョケッキョ。声は近い。笑ってしまうくらい拙い初音。5月半ばから毎日庭に来る。
 ひと月後、ホーホケキョの朗々たる声は「私の美声きいてよ!」と言わんばかり。夫と耳を澄ませ「うまくなったねぇ」とうなずきあった。
 そして7月、2日間声を聞かない。山に帰ったのかなあと一抹の寂しさを覚えた夕刻、長々とくり返し鳴いた。梅雨空に名残を惜しむように。
 40年ここに住むが、連日の訪問は初めてだった。コロナ禍で高齢者が多い住宅街の人通りはまばら。透き通る声は隣人たちにも届いたかなあ。
 宮崎県日南市 矢野博子(71) 2021.8.7 毎日新聞鹿児島版掲載