はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

干し柿

2007-10-31 08:10:11 | はがき随筆
 毎年送ったくれる母からの干し柿。10年ほど前、食べた柿の種をまいたら芽が出るだろうかと試しに庭に埋めた。10㌢くらいになった苗を見つけた時はうれしかった。大事に見守り、屋根を越すほど大きくなった。昨年初めて8個なり、今年はたくさんの実をつけた。少し小さいがつやつやした柿を収穫、早速皮をむき始めた。子供のころ縁側で母がくるくると柿を回しながら包丁と手の間から繰り出す皮を姉と取り合ったのを思い出した。母のように上手にむけないが、静かな午後を思い出に浸りながらむき終えた。思えば母から最後の干し柿からの木である。
  出水市 年神貞子(71) 2007/10/31 毎日新聞鹿児島版掲載
  写真はhideさんからお借りしました。

月影

2007-10-30 08:03:26 | はがき随筆
 縁先のお供え物を、百日草の枝越しに十五夜の月影が照らしています。彼岸花の茎元から鈴虫の競演が聞こえてきます。思い巡らせば昭和23年、就職列車にゆられ北九州の履物問屋に住み込み店員として就職、夜は夜間部の高校に通学していました。行き帰りの道でいつも疲れた体を優しくつつみ癒してくれた月影。倉庫の屋根裏の小窓から差し込む月影を眺めて、ふるさとが恋しく懐かしく涙ながら口ずさんだ歌の数々。五十余年過ぎた苦境の日々が昨日のごとく思い浮かんで参ります。今夜この名月に庭先の桃源郷で浸れることに改めて感動することでした。
   鹿児島市 春田和美(72) 2007/10/30 毎日新聞鹿児島版掲載

真珠婚

2007-10-29 09:34:19 | はがき随筆
 今年は、私にとって大きな節目の年である。60歳という還暦、結婚して30年という真珠婚である。60年生きてきて、その半分を妻と同じ家の中で暮らしてきたことになる。喜び悲しみを共にし、時には激しくぶつかり合うことも……。人生には上り坂、下り坂の他に〝まさかの坂〟があるという。この三つの坂を幾度となく経験した。長いような短いような30年である。
 10月15日の結婚記念日には、妻に感謝し、真珠婚にちなんだパールのネックレスをプレゼントした。20年後の金婚には、金かダイヤモンドのネックレスを贈ることを約束して。
   鹿児島市 川端清一郎(60) 2007/10/29 毎日新聞鹿児島版掲載

草木から元気を

2007-10-28 17:41:26 | はがき随筆
 今年の猛暑は、体調の悪い私にはとっても厳しかった。でも歩いて買い物に行く途中、アスファルトの道路の端から、踏まれても色あせることなく上へ上へとのびている雑草を見て、元気をたくさんもらった。特に川辺の防壁にまとわりついていたカズラの一種。夏の最中に紫色のブドウの形をした花が咲いて、そっと手をふれてみたら、茎にはとげまで付けて、ちくりと刺した。命を守る防備策かなあと思った。
 草木にも 命尊さ教えられ
   明日への希望 胸にいだきつ
 私も、草木に負けぬように頑張って生きていきます。
   出水市 池田春美(76) 2007/10/28 毎日新聞鹿児島版掲載 

充実の一日

2007-10-27 23:20:08 | はがき随筆
 10月7日、大川小の運動会に参列した。68人の元気な児童と2階まで伸びたヘチマが出迎えた。9時、紅白の応援合戦がエール交換で開幕。本年は酷暑の中、児童の足が黒光りしていた。かけっこ前に名前を呼ばれて挙手する姿がほほ笑ましい。阿久根市が誇る「華の50歳組」運動会は昭和44年卒と45年卒が午前、午後に分かれて実施。児童との追いつ追われつ、韋駄天ぶりを存分に発揮。趣向を凝らし、地域住民総出の大声援の中、学校史に特筆できるイベントだった。大川っ子も脚力、走力がついたことでしょう。この感動を明日への糧にいつまでも!
   阿久根市 松永修行(81) 2007/10/27 毎日新聞鹿児島版掲載

男Aと男B

2007-10-26 21:53:42 | はがき随筆
 ヒガンバナが咲き始めたある日、母が部屋から外を眺めていた。
 「由井ちゃーん、男が単車で来たよ」
 母が大声で呼んだが、放っておいたら手すりにつかまって走ってきた。
 「由井ちゃん、また来たよ。わっせか太か単車だよ」
 母はおびえて私の腕をつかんだ。
 「研一と昌仁だよ。お母さんの孫でしょう。よく見てごらんなさい」
 「まあ、そうなの」
 真っ赤と真っ白フルフェースのヘルメットを着け、1000㏄と1300㏄にまたがり、私たちに片手を上げて、霧島を目指して走っていった。
   阿久根市 別枝由井(65) 2007/10/26 毎日新聞鹿児島版掲載

ようやく秋です

2007-10-25 21:29:14 | アカショウビンのつぶやき
 今日は日中の気温は27度まで上がり、相変わらず暑い秋。
鹿児島にはほんとに秋がない(>_<) のです。
毎年、今ごろになると、昨日は半袖で過ごしたのに、
今日はカーディガンを羽織る…こんな感じで夏から冬へ一足飛び。
爽やかな秋の日なんて数えるほどしかありません。

 ブログも何時になったら秋に模様替えしようかと
悩みましたが、せめてプログだけでも、秋の紅葉を!
ということで、秋を先取りしました。

 我が家の庭では、ブルーベリーの紅葉が美しく映えています。
そして例年より大部遅れて、フェイジョアを拾いました。
この果樹は、幹を揺すって落ちた実が食べ頃なのです。
部屋中に芳香が漂っています。

りんごジュース

2007-10-25 12:29:16 | はがき随筆
 7月ごろから果汁100%のりんごジュースを飲み続けている。
 りんごにはがんの抑制、ストレス解消、高血圧予防そして老化抑制によいポリフェノールが多く含まれているそうだ。りんごは医者を遠ざけると昔から言われている。ジュースは吸収されやすいとのことで早速、産地より直送してもらった。
 今年の暑さには、のど元を遠る冷たいジュースで生き返ったようで、夏バテもどこえやら。血液の流れをサラサラにする効果もあったのか、お陰で血圧も平均値になったようだ。血圧値が安定しているのが何よりもうれしい。
  鹿児島市 竹之内美知子(73) 2007/10/25 毎日新聞鹿児島版掲載

はがき随筆9月度入選

2007-10-25 11:45:18 | 受賞作品
(日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子) はがき随筆9月度の入選作品がきまりました。
▲霧島市国分中央1、口町円子さん(67)の「父の入院」(5日)
▲鹿児島市上荒田町、本山るみ子さん(54)の「『命のリレー』に向け」(20日)
▲出水市武本、中島征士さん(62)の「白い顔」(21日)
の3点です。

 口町さんの「父の入院」は、メリハリのきいたスピーディーな文章を使って、お父さんの入院やそれによる生活の苦しい思いを書きました。本山さんは「命のリレー』に向け」で、がんと闘う子供たちのために千羽鶴を折るイベントに参加して苦労したのです。また上野昭子さんの「Mさんに感謝」(24日)は、猛暑で弱り果てているところに、がん治療中の友人から励ましの便りをもらい少しでも応えようとしてるのです。これらの3作品は、命を大切にするということをじっくり書いたものです。
 中島さんの「白い顔」は、若い日の女性への思いを長い間忘れずに秘めている様子をさらりと美しく描いたのです。題目もいいですね。馬渡浩子さんの「南瞑館」(23日)は、枕崎市の南瞑館で開催中の「風の芸術展」に合わせて開かれた演奏会で、自分がハープを弾くため事前に訪ねた館のスケッチがよく表現されました。福崎康代さんの「心の肥満」(13日)は、文体が詩的でリズミカルですね。3作品とも美しい感性がよく伝わってきました。
 竹之井敏さんの「思い付き」(22日)は、年齢を重ね、本が読みづらくなってきたので、好きな詩歌、俳句などを手書きで大きな文字で写してゆくことを思いつきました。既に10冊に達したのですが、いいことですね。吉松幸夫さんの「粋なおしゃれ」(6日)は、冒頭に着物が好きなことを、後段で暮らしの中での着物の快さを書きました。広い心の表現がなされています。東郷久子さんの「真夏のルビー」(15日)は、かつてどの家庭でもみられた土用の日の梅干しつくりの光景でした。女性の手を通して伝えられる暮らしの知恵を美しい題目で表現しました。
 暮らしの中での思いを自分なりの表現で表したいい文章を、今回も楽しませてもらいました。
 (日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)
 係から  入選作品のうち1編は27日午前8時20分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。「二見いすずの土用に朝は」コーナー「朝のとつておき」です。

暴力追放

2007-10-25 09:36:27 | かごんま便り

 19日朝、支局からほど近い鹿児島市西千石町の路上で、ゴミ出し中の男性が近づいてきた男にいきなり尻を刺される事件が起きた。被害に遭ったのは暴力団追放の地元住民団体「山下校区安心安全まちづくり推進連絡協議会」の会長を務める妹尾博隆さん(65)。
 男は21日夕現在、捕まっていない。だから暴力団絡みの犯行と決まった訳ではなく、偶発的な通り魔事件の可能性も否定できない。だが暴力団追放運動のリーダーが狙われたと聞けば誰もが活動に対する報復と考えるだろう。県警もそうした見方を強めている。
連絡協議会は、今年3月に近くのビルを暴力団が取得したことから発足した。その後、ビルは組事務所として使われ始めたため、今月9日には決起大会を開き、大勢の市民がビル前で「暴力団事務所はいらない」と訴えたばかりだった。
 近隣に組事務所ができれば平穏な生活が脅かされる。誰だって暴力団は怖い。それでも勇気をふるって立ち上がった。人々の悲痛な願いをあざ笑うかのような今回の凶行、断じて許せない。
 県警組織犯罪対策課によると、県内の暴力団組員数はここ数年横ばい傾向で、06年度末現在では準構成員を含め740人。全国の組員数は8万4700人(警察庁調べ)だから、人口10万人あたりでは鹿児島は約43人と、全国平均の約66人をかなり下回っている。
 だが今回のような事件は住民の不安を増幅するだけでなく都市の印象も大きく損なう。2代続けて市長が銃撃された長崎市は観光都市の名が傷つき、長崎出身の私は会う人ごとに「怖い街なんだね」と言われ二の句が継げなかった。昨年暮れから今年にかけて発砲事件が続いた前任地の北九州市は、過去の事件の記憶も相まって「暴力の街」のイメージを引きずり続けている。
 一刻も早い検挙とともに、この事件で今後の暴力団追放の気運が先細りにならないことを願うばかりだ。
  毎日新聞鹿児島支局長 平山千里
  2007/10/22 毎日新聞鹿児島版掲載

60歳

2007-10-24 22:17:10 | はがき随筆
 休日で集まりやすいだろうからと、10月28日の命日を引き寄せ、24日に父の七年忌を執り行った。その日は私の誕生日でもあり、めでたく?60歳になった。
 席に着き、数珠を取り出そうとしたら、ない。確かに入れたはずなのに……。妹も弟もちゃんと用意している。姉ちゃんだけ手ぶら。きまりが悪い。せめて誰にも負けないくらいのまごごろを込めて祈ることにした。
 目を閉じて合掌していたら「いくつになっても〝ほ〟がなかねえ」と苦笑いしながら言う父の声が心の耳に聞こえた。
   鹿児島市 馬渡浩子(60) 2007/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載

虫の音は心の潤い

2007-10-23 10:35:01 | はがき随筆
 10月に入り日暮れも早くなった。
 窓の外から、秋の虫たちが全身を楽器にして美しいシンフォニーを奏でてくれる。コンダクタはいなくても澄んだ音色は耳に快く響く。
 秋の夜長をかこつ暇などない。秋の夜空の星のまたたきの下、虫たちがこのシーズンだけのコンサートを開いてくれるのだもの。私はいつも静かに耳を澄ます。
 時には朝方、モーニングコンサートもしてくれる。
 人間社会のせわしない中で、しばし心に潤いを与えてくれる虫たち。自分たちの短い命を削りながら……。
   鹿児島市 吉利万里子(61) 2007/10/23 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真は里人さんからお借りしました。

稲穂実るころ

2007-10-22 07:20:16 | はがき随筆
 稲穂が黄金色になると小柄で丸顔の中学生だった誠を思い出す。「こん頃(ごろ)んガネ(かに)ん味が一番良かど!」と目を細めて話をした。兄弟が多く貧しい家の誠は、ゴミ捨て場にあった子供用自転車を立派に解体修理して乗っている。山太郎ガネも彼の生活の一部なのだ。「じゃっどんガネテゴん餌がなか」と言う。学校下にあるAコープのTさんを思い出して誠を連れていった。「こん子が来たら魚の内臓を分けてくれん?」。朝寝坊の誠が早起きになる時がきた。夕方ガネテゴを仕掛けて早朝引き上げるのだ。時に教室のバケツの底に鈍く光るガネたちがいた。
   出水市 中島征士(62) 2007/10/22 毎日新聞鹿児島版掲載

山羊

2007-10-21 17:35:01 | アカショウビンのつぶやき
 鹿児島県指宿市で「全国山羊サミット」が開かれたと言う。
終戦直後の食糧難を救った山羊も、日本の農業の変化によって、牛、豚、鶏など3大エリートにはかなわず、商品家畜として生き残れなかった。
 今や「幻の家畜」になりかかった山羊を再評価しようと10年前から始まったのが「全国山羊サミット」らしい。
 
 私が幼い頃、我が家にはいつも山羊がいた。
 最初に貰った子山羊は、家族の留守中に柿の木に紐を巻き付け死んでしまった。毎日泣き続ける子供たちの願いに負けた母が、次に貰ってきたのは、あご髭をはやした大人の山羊だった。
 この山羊は子供たちをバカにして言うことをきかない…。姉と私は竹の棒を振り回して、朝は草の一杯あるところに連れて行き、夕方は帰りたくないと抵抗する山羊を押したり引っ張ったりしながら家に連れて帰った。
 そしてある日可愛い2匹の子山羊を生んだ。愛くるしい子山羊は子供たちとよく遊んでくれた。そして母山羊の大きな乳房からは、乳をたくさん出してくれた。
 バケツの中にジュージューと泡を立てながら絞られる山羊の乳は、青くさい草の匂いがして、最初はいやだったが、やせっぽちの私に飲ませようと母はなだめすかして飲ませ、そのうちに大好きになった。
 近所に体の弱い人がいると母は「山羊の乳は滋養があるから」と、差し上げて喜ばれていた。
 この年で山羊を飼うことなどできそうもないが、名脇役として再評価されてきた山羊と再び出会えるようになれば嬉しい。

写真はgootaroさんからお借りしました。

意欲

2007-10-21 16:44:39 | はがき随筆
 9年間、認知症の妻の所へ通った家内の叔父は95歳。5月に愛妻を亡くされた。このたび歌集「牛飼いの歌」を出版。95歳でこの意欲。夫婦の愛情の深さ、強さを今更ながら実感。
 叔父は手先が器用で体を動かすことや読書、創作への意欲も旺盛。文化祭への出品数知れず。叔父に教えられる毎日だ。ある図書館で95歳になるおばあさんが「宮本武蔵」の単行本を面白そうに読んでおられたお姿と重ね合わせ、意欲的に取り組むことの大切さをしみじみと感じている。
 老いるにはまだ早い気がする。元気を出そう。
   薩摩川内市 新開 譲(81) 2007/10/21 毎日新聞鹿児島版掲載