はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆11月度

2021-12-27 21:30:58 | 受賞作品
 はがき随筆11月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)
【月間賞】21日「親捨て」近藤安則=鹿児島県湧水町
【佳作】6日「美しい言ノ葉」永井ミツ子=宮崎県日南市
▽27日「今は分かる」山下秀雄=鹿児島県出水市
 6日「難解なカタカナ語」増永陽=熊本市中央区

「親捨て」は、95歳で亡くなった母親を、病院や介護施設に預けてしまった自分の行為に自責の念が消えなかったが、最近になってようやく自分を許す気になった、という内容です。この内容は時々随筆の素材になります。それだけ、このことに悩んでおいでの方が多いということでしょう。この文章は、老母の性格や老いの状況など、普段なら書きたくないことを、客観的に淡々と書かれていることが魅力になっています。そのことは自分の「親捨て」の自責の念についても同様で、そのために文末の「自分を許す」心境も引き立っています。
 「美しい言ノ葉」は「お福分け」という言葉を例に、言葉の持つ魅力や不思議な力についての感想が述べられています。結びの「季節の変わり目、お身体おいといくださいね」という美しい言葉でのあいさつには、こういう遊び心というか、さらりと美しい言葉を使えるのには感心しました。
 「今は分かる」は、中学生の時は分からなかった先生の魅力が、今は分かるようになったという気持ちの変化が書かれています。夕方忘れ物を取りに行ったら、教頭先生が戸締りをしていた。それを大変だとは言わず、楽しみながらしていると言われた。この先生は、花壇の水やりも、花たちが嬉しそうでね、と言われる。その時は変な人としか思わなかった。筆者の心の豊かさへの成長を直接には言わず、先生の描写ですべてを語っているところが優れた文章になっています。
 「難解なカタカナ語」は、カタカナ外来語の氾濫に怒っておいでの文章です。ブレークスルーは辞書では「(科学的な発明による)飛躍的な前進」とあった。そういえば、生命科学ブレークスルー賞というものがあった。コロナ禍も分る日本語で説明しろ、というお気持ちのようです。私も大賛成で、私の経験では英語をしゃべれる人は、やたらとカタカナ英語を使わないようです。
 鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

植物の生命力

2021-12-27 20:00:32 | はがき随筆
 青い新芽を見つけた時、それは思いがけない発見だった。9月に入っても夏の暑さは収まらず、鉢から抜かれ日差しにさらされ、水なしの体でごみ袋へ行く宿命だった。待てよ、と少し惜しくなった。ピンクの高貴な球根リコリス。葉が枯れた後にスーッと直立に四方に咲く。その生命力に驚いた。
 美しい花が咲く。今季の冬の寒さ、雨に耐え、来年はどのような花の物語をつづれるかと楽しみができた。考えるのは植物のことばかり。園芸の本は何度開いても飽きない。花は生きがい。気持ちを静め、癒してくれる。
 鹿児島県鹿屋市 春野フキ子(72) 2021.12.18 毎日新聞鹿児島版掲載


それなりに

2021-12-27 19:51:28 | はがき随筆
 始めたのが、50代後半だったからもう10年以上もヒップホップダンスをやっていることになる。なんていうとかっこいい響きだが「それなりに」の言葉がしっかりついている。
 70代ともなると、さすがに膝や腰などきしみが生じて現実をしっかり自覚ぜるを得ない。
 家からダンススタジオまで近いのも長続きしている理由だろう。ダンスの振りに入る前にストレッチでしっかり体をほぐしていく。これが気持ちいい。
 多分、スタジオで最年長者は私だろう。始めた頃は「若者に交じって大丈夫かな?」だったが、しれっと今も通っている。
 宮崎市 藤田悦子(73) 2021.12.08 毎日新聞鹿児島版掲載

歯科診察

2021-12-27 19:43:23 | はがき随筆
 以前お世話になっていた歯科医の先生のつてで新しい歯科に通うことになった。「磨き残しが4.8%ですよ。前回から19%も減っています。しっかり磨かれたんですね。私たちだってこうはいきません」。女性の先生に褒められた。にこやかに親しく声をかけて緊張をほぐし、「遠い所から着てくださって。今回は1回で済ませましょう。時間がかかりますが大丈夫ですか」と有り難い配慮。「歯の健康を保つため、無理でなければ月1回お掃除しましょうか」。この先生にお任せしよう。郊外を走る電車に揺られながら、来月の健診が楽しみになった。
 熊本市中央区 渡邊布威(83) 2021.12.18 毎日新聞鹿児島版掲載

安否確認

2021-12-27 19:35:33 | はがき随筆
 昨年初めて「めまい」を体験した。そして今回2回目のめまい。朝、目を覚ますと寝室の壁や窓が流れて見える。様子を見ようと寝ていると、関東にいる大学2年生の孫の綾子からLINE電話が来た。「はーい」と応えると「どうしたの?」と心配そうな声が返る。大学入学時からほとんど毎日メールか電話をくれる孫は、私の普段と違う様子をすぐに察知したようだ。母親にいわれたのか、それとも自分も1人暮らしを始めてみて祖母の寂しさに思いが及んだのか。聞いてみたことはないが、コロナ禍の日々に安否確認してくれる孫をありがたいと思う。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(81) 2021.12.18 毎日新聞鹿児島版掲載

マクワウリ

2021-12-27 19:28:45 | はがき随筆
 父が上機嫌で「マクワ食べるか」と畑から幾つかウリをもいできた。旬をすぎたうらなりの陽の温みがあるウリがうまいはずがない、と私は思った。
 明日には台風の接近が予想される夕方、家族総出の稲の脱穀が全て終わったのだ。
 稲の切り株が並ぶ田んぼで、赤とんぼや不穏な雲の流れを見ながら食べたマクワウリは、目が覚めるほどおいしかった。父が「これ、うまいのう」と言った。プププッと兄と私が種を飛ばし、妹がまね、母が笑った。
 あれから60年。兄、父、母の順に逝き、店頭にマクワウリを見ることもない。
 宮崎市 柏木正樹(72) 2021.12.18 毎日新聞鹿児島版掲載

私の先生

2021-12-27 19:21:34 | はがき随筆
 今までちょうど良かった服が長くなってワンピースになりました。腰が曲がり、身長が縮んでアレレです。けん玉を久々に出して練習してみました。手が言うことを聞かず、足や膝に当たって痛いばかり。けん玉から声が聞こえてきました。「あなたはみんなをアッと言わせようとの魂胆でしょう。私にはお見通しです。そのような傲慢な心は大嫌いです。私に心を預けて楽しんでください。肩の力を抜いてください」。玉がだんだんきれいな線を描き、音もなく大皿にそして小皿にのるようになりました。けん玉は私に楽しみを教えてくれる先生です。
 熊本県八代市 相場和子(94) 2021.12.18 毎日新聞鹿児島版掲載

イチョウの葉

2021-12-27 19:14:46 | はがき随筆
 市電を降り、黄色いイチョウの落ち葉がきれいだな、と思った瞬間、足元がツルリ。危うく転倒するところだった。
 「熊本市の木」でもあるイチョウ。市街地のいたる所で私たちの目を楽しませてくれるが、欠点は葉に含まれる油脂で滑りやすいこと。この季節、熊本市交通局は早朝に路面電車の線路の掃除や砂まきが欠かせないそうだ。
 お城の天守閣前にそびえる大イチョウは加藤清正のお手植えと伝わる。そんな歴史を思い浮かべ、「転ばなかったのはラッキー、以後、細心の注意を払うべし」と改めて誓った。
 熊本市東区 中村弘之(85) 2021.12.17 毎日新聞鹿児島版掲載

迷い猫

2021-12-27 19:07:45 | はがき随筆
 母は90歳近くまで猫を飼っていた。野良猫が床下で子猫を産むと、育てたこともあった。白毛の洋猫がよくうちに遊びに来る。池の水を飲み、庭の築山に寝そべっている。私が顔を出すとすぐ逃げる。100㍍あまり離れたIさんの飼い猫だった。先日、会ったら「4日前から戻ってこない」と心配されていた。翌日の夕方、あの猫が庭にひょっこり現れた。すぐに連絡。Iさんが隠れている猫に「どうしたの。首輪までなくして」と優しく呼び掛けたら出てきた。迷い猫は飼い主に保護され、お礼にと柿とマスクをいただいた。ちょっと得した気分になった。
 鹿児島市 田中健一郎(83) 2021.12.16 毎日新聞鹿児島版掲載

保育園の思い出

2021-12-27 18:25:41 | はがき随筆
 保育士だったころ、給食の時間に突然、園児の泣き声がした。大口を開けて泣いているので見ると、魚の骨がのどに突き刺さっている。取ろうとするが、泣きじゃくるばかりで、なかなかうまく取ることができない。
 急いで近くの病院まで連れて行った。するとベテランの看護師がピンセットを持ち、じっとかまえる。園児が口を開けた瞬間、素早く骨を取ってしまった。
 あっという間の早わざで園児も私もきょとんとするばかりだった。その後、保育室にピンセットを置いていたが、私が退園するまてそれを使うことはなかった。
 宮崎市 藤田綾子(76) 2021.12.15 毎日新聞鹿児島版掲載

里芋の収穫

2021-12-27 18:13:32 | はがき随筆
 ジャガイモやリンゴの皮、ナスのへた、カボチャの種など調理の際に出る生ゴミは、庭の随所に穴を掘って埋めている。里芋にできた小さな芋も切り落として生ゴミに入れている。1カ月もたつと生ゴミは土に還っているが、里芋は芽を出し、数本の芽が伸びて先端にハート形の大きな葉が広がってきた。今秋。4株の里芋をスコップで掘り起こしてみると、それぞれの根に数個の芋が成長していた。スーパーで購入するのと大差のない大きさだった。味噌汁や煮しめなどの具罪に利用しているが、我が家で育った里芋だし、特においしく賞味している。
  熊本市東区 竹本伸二(93) 2121.12.14 毎日新聞鹿児島版掲載

寝つけない夜

2021-12-27 18:05:54 | はがき随筆
 日曜夜8時。何とはなしにМBCラジオを入れると「こよいは霧にまつわる曲の特集です。まず、こんな面白い俳句を見つけました。『裕次郎振り向きさうな夜霧かな』。では、石原裕次郎さんの『夜霧よ今夜も有難う』から‥‥」。
 あぜんとしました。何と全国紙の俳壇に準特選として掲載された私の俳句が、出し抜けに披露されたのです。
 ベッドから跳び起きて妻に知らせます。二人して切り抜き帳を確認。「あった、あった!」。ただでさえ眠れない老人の夜がその夜は一層寝付けない夜になりました。
 鹿児島県霧島市 久野茂樹(72) 2021.12.12 毎日新聞鹿児島版掲載

父の笑顔

2021-12-27 17:59:12 | はがき随筆
 あの時父はたぶん90歳を超えていた。父が退院することになり、弟と私が迎えに行った。
 父は私たちの顔を見ると「あー来てくれたね」。満面の笑みを更に輝かせていた。父はこの日を待っていたのだ。
 手続きが終え、父はいよいよ退院した。帰りの車に乗るなり「お前たちとこうして帰ることができる。オレはうれしいてたまらんわ」と言った。
 私は父の言葉を聞いて「よかった」と安堵した。そして車は母の待つ家へと向かった。
 父が亡くなり10年が過ぎた。
 宮崎県日向市 黒木節子(74) 2021.12.11 毎日新聞鹿児島版掲載

固定電話

2021-12-27 17:52:36 | はがき随筆
 キンモクセイが香る頃、固定電話にさよならをした。家に掛かってくるのは、セールスなど、不要の電話が多い。子どもや友人とはもっぱら携帯で事足りている。結婚と同じころに設置した長い付き合いの電話。夫の転勤の都度、番号も変わった。呼び出し音に転びそうになりながら受話器を手にしたことも今では懐かしい。配線の束も片付きテーブル上もすっきり。これが我が家のSDGs。呼び出し音にせかされることはもうない。なんだか寂しい気もする。事情を知らないと電話がつながらないことに驚くかもしれないと、友人たちに連絡した。
 鹿児島県鹿屋市 中鶴裕子(72) 2021.12.11 毎日新聞鹿児島版掲載

ジュズサンゴ

2021-12-27 17:42:03 | はがき随筆
 ジュズサンゴの苗を3株いただいた。小さな苗がグングン伸びるので、大きい鉢に替える。すると、細い枝を広げ白いかれんな花が咲いた。そして、鮮やかでツヤツヤしたオレンジ色の数珠のような実がたくさんついた。細長いハート形の葉もすてきだ。
 ある朝、遅咲きの一株に、何とピンクの実がついていた。「ももたまジュズサンゴ」という名前までも可愛い。キラキラ輝いて、まさにサンゴのような宝石を見ているようで感動する。
 風に優しく揺れるジュズサンゴにホンワカ癒され、穏やかな気持ちと笑顔になれる。
 宮崎県延岡市 品矢洋子(67) 2021.12.11 毎日新聞鹿児島版掲載