写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

業容拡大

2021年04月20日 | 岩国時遊塾

「では今週の日曜日によろしくお願いします」という電話をもらっていた。自由業をしている岩国時遊塾の会員の一人が、店の看板の塗装が劣化して各所に錆が出て見苦しくなってきているので塗装したいという1か月も前から、協力を頼まれていた。「暇を持て余しているのでいつでもいいですよ」と安請け合いをしていた。

 当日の朝9時に迎えに来てくれた。天気は良いが風の強い日である。汚れてもいいような防寒着を着て、必要な道具を抱えて迎えの車に乗った。湾曲した看板の上に、日傘を差したような形で厚い鉄板を覆いかぶせた構造である。見ると、3本の鉄製の支柱と鉄板がかなり錆て赤くなっている。

 早速脚立を立て、まずは電動ドライバーの先にワイヤーブラシを取り付けたものを2人が1台ずつ持って錆落としを始める。30分もやったころ、赤い錆はきれいに落とすことが出来た。休むことなく次の作業を始める。

 あらかじめ買い置いている錆止めの塗装をした後は、これが乾くまで休憩を兼ねて昼食に出かける。天気がよいので乾きは早い。午後からイエローホワイトの塗料を丁寧に少し厚めに塗っていく。1時間が経ったころ、どこから見ても美しい仕上がりとなった。

 「これでいいでしょう」というと「思っていた以上にうまくできましたね」と満足そうな言葉が出た所で、握手をして別れた。塗装工事は、下地の処理が大切である。錆を完全に除去しておかないと、またすぐに錆が顔を出す。何ごとも、目に見えないところをきちんとやっておかないとダメなところは、人間の行動でも同じであろう。

 かくして岩国時遊塾の業容実績に、「塗装工事」というジャンルがまた一つ増えた。


立ち話

2021年04月19日 | 生活・ニュース

 家の前に立って、今を盛りに咲いているハナミズキを眺めているとき、裏の団地に住んでいる同年配のMさんが自転車で通りかかった。目が合って挨拶をすると、自転車にまたがったまま止めて話しかけてきた。

 奥さんの認知機能が少し衰えていることは以前から聞いていた。「近くのグループホームに入所している。コロナ禍で会いに行っても面会はできない」とこぼす。奥さんと2人だけの生活であったが、1人の生活になっている。

 「朝早くから、どちらにお出かけですか?」と聞くと「門前にあるスーパーまで買い物に行こうと思っている」と答える。「そんなに遠くまで行くのですか」に、「あそこは、アナゴの巻きずしが1本120円と安くておいしく、女房が好きだったのでよく買いに行く。ミカンも便秘にいいので、買って持っていってやろうと思って」と話す。

 短い会話であったが、離れて生活をしている奥さんのことを思いやる話ばかりである。数年前まではよく2人で買い物に出かける姿を見ていた。仲の良い夫婦であったが、今はそれもかなわない状態のようである。

 「遠くまでの買い物、気をつけて行ってらっしゃい」「ありがとう」と言って別れた。いつ出会っても自転車を止めてMさんの方から話しかけてくれる。話題は、奥さんの様子とホテルでのパート中の出来事と、スーパーのお買い得品の話をしてくれる。

 ある時、お買い得品のミカンを「お宅の奥さんにも一つ」と言って2個もらったこともある。誰に対しても優しいMさんは、つい先日までスーパーカブのバイクに乗っていたが、どうしたのだろう。自転車で4㎞も先にあるスーパーに買い物に行く後ろ姿は、まだまだ元気そうに見えた。


アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ・ボンゴレ

2021年04月16日 | 生活・ニュース

 昼前のテレビを見ているとき、有名なイタリアンのシェフが、簡単に出来るパスタを紹介している番組を見た。 料理の名前は「アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノ・ボンゴレ」というものである。

 名前は長いが、一体どんな料理なのか?  まずはイタリア語の解説から。 アーリオはニンニク、オーリオはオリーブオイル、ペペロンチーノは赤唐辛子、ボンゴレはアサリを意味し、塩ゆでしたスパゲティをニンニクとオリーブオイルだけで調味し、これに赤唐辛子を加えてアサリで炒めたものである。

 お昼前のことである。 久しぶりにスパゲティが食べたくなった時、先日見た料理番組を思い出した。 いつか作ってみようと思い、メモ用紙にレシピを丁寧に書いておいた。 奥さんにそのことを宣言し、アサリを買ってきてもらえば、私が作ってみることを宣言した。

 奥さんが買い出しに出かけている間、ニンニクを下処理した後、赤唐辛子とバターとスパゲティとオリーブオイルを適量用意して待つ。 アサリが届いた後、早速調理に取り掛かった。 ポイントは、ニンニクと赤唐辛子の炒め方と、最後にバターをひとかけら入れてコクを出すことか。

 レシピに忠実に従って作り始めて20分が経ったころに完成した。皿に盛ってテーブルに出すと、 「おいしそうね」と奥さんが上から目線でまずは暖かい一言。 口に入れると「見た通りで、とてもおいしいわ」とお褒めの言葉。 早速私もノンアルコールのビールをひと飲みした後、スパゲティを口に入れる。 「おー、美味しいじゃあないか」思わず大きな声で自画自賛してみた。

 「これからは、このスパゲティを週に1回くらい作ってほしいわ」と圧力がかかってきたが、月に1回くらいなら作ってもいい気になっている。暇が増えるに比例して、料理のレパートリーが増えてきた。時代の流れに即して「男子厨房に入るべし」を実践している。


カフェ開店情報

2021年04月13日 | 生活・ニュース

 我が家から国道2号線を西に300m下ったところに、昨年末から「麻里布珈琲」というカフェと軽食の店の建設が始まっていた。ちょっとお洒落な外観が目を引き、このところ散歩の都度、工事の進捗状況を見ていた。

 「アルバイト募集」という仮設の看板が掲げられていて、そこには「3月中旬オープン」と書いてあったが、その時期が過ぎたあとには、その文字は消され、工事だけは進んでいた。昨日のことである。奥さんと散歩で店の前を通りがかり、立ち止まって店の構造を観察していると、中から若いイケメンが出てきた。

 すかさず奥さんが「いつ開店するのですか?」と聞くと「今月の20日です」と愛想よく答える。「いつも通りがかるたびに、開店を楽しみにしていました。何時に開店ですか?」と聞くと、「ちょっと待って下さい。聞いてきます」と言って中に入った後「9時半です」と教えてくれる。「開店の日、ぜひ来たいと思います」と言って別れた。

 一昔前にはこの辺りには、ファミリーレストランがあって、時にモーニングや食事にくることが出来た。今はなくなり、こんなことが近くで出来なくなっていた。このカフェが出来れば、お洒落な気分でモーニングでもするという楽しみが出来る。

 まだ開店日時の看板は掲げてないが、身内でもないし出資もしてはいないけれど、このブログでいち早く開店日をPRしておきます。南北にテラス席もあって、憩えるカフェのようです。興味ある方、20日の9時半に「麻里布珈琲」で会いましょう。


折れた枝

2021年04月12日 | 季節・自然・植物

 33年前、家を建てたとき、奥さんが狭い南の庭に紅白2本のハナミズキを植えていた。土地との相性がよかったのだろうか、すくすくと成長し、今では背丈は6、7mほどになっている。

 ハナミズキの寿命は長く、約80年だと言われている。それであれば我が家のハナミズキはまだ若い方だと言えるが、紅い花をつける木は、ここ数年、花の数が少しずつ減ってきていたり、小枝が枯れてきているのが気になっている。

 その木が、素晴らしい気力を見せてくれているのに気がついた。一昨年の秋のことである。出窓から見える太い枝に、長さが50cmばかりの細い枝が1本上向きに伸びていた。台風ではないが強い風が吹く日であった。ふと見ると、その枝は元から折れて垂れ下がっていて、吹く風にあおられてぶらぶらと揺れている。

 そのまま年を越したが、枯れ落ちることもなく、風に揺れながらも翌年、若葉をつけた。このことを奥さんに話すと「あの枝には、まだ道管がつながっているのね」と生物用語を使って解説してくれる。

 それからまた1年が経った今年のことである。風が強い日には小枝は真下にぶら下がったまま揺れていたが、小さなつぼみをつけているのに気がついていた。果たして花は咲くのだろうかと思いながら毎日観察していた。

 ところが、試練にめげずこの春、折れた枝の先に見事、紅い花を1輪咲かせたではないか。驚くやら愛おしいやらで、拍手喝さいをする。揺れる小枝を見て、何度も剪定しようと思ったが、残してやってよかった。改めてハナミズキの強い生命力を感じながら、我が身もあやかりたいと思うことしきりである。


根本的対策

2021年04月09日 | 生活・ニュース

 日本にコロナの感染者が出始めて、すでに1年と2カ月が経過している。この間、新聞やテレビでまさに連日のごとく、日々の感染者数や感染防止対策について、繰り返し巻き返し国民がとるべき行動についての指導が行われている。

 なかでも今年に入ってから、対策の切り札とされるワクチンの接種が始まったが、今もってその供給を輸入に頼っているため、国民全体に行き渡る見通しは示されていない。ワクチンこそが大流行の対策に欠かせないものである。

 医療先進国と自負していたはずの日本が、肝心なワクチンの製造を外国に頼るしかない現状を、国はどう認識しているのであろうか。テレビでも新聞でも、この点を厳しく追及しているのを見たことがないと憤慨しているとき(4月8日)、毎日新聞の社説で初めてこのことが掲載されていた。「国内ワクチンの遅れ 中長期的な戦略が必要だ」と見出しに書いてある。

 「第4波」への懸念が出始めたころになって、新聞も「中長期の戦略が必要だ」なんて指摘は遅すぎはしないか。菅総理がよく「私の責任は国民の命を守ることです」と言うからには、グローバル化の進展で、感染症拡大のリスクが年々高まっている日本で、ワクチンの開発研究や生産できる体制の整備は常日頃からやっておくべき重要な課題であろう。

 日本のワクチンが遅れている背景には、副反応が社会問題化した歴史があって、官民協調の研究開発が進んでいないからだというが、与野党ともに内輪の揚げ足取りなどでうつつを抜かす暇はない。一刻も早く予算をつけて、日本の優秀な研究者を結集して、国産ワクチンを生産できる体制を整備してほしい。

 こんなことが出来ない内は「日本は医療先進国です」なんて胸を張る資格はない。

 


バックカメラ義務付け

2021年04月08日 | 車・ペット

 国土交通省は来年5月にも、新車を対象に自動車後方の状況が確認できるバックカメラか、センサーの装備を自動車メーカーに義務付ける方針を明らかにした。

 駐車場などでバックする際、死角を補うことで歩行者を巻き込むような事故を防ぐことを目的にしたものである。義務化するのは「後退時車両直後確認装置」で、二輪車を除く全ての自動車が対象。バックカメラは車体の後方0.3~3.5メートルの範囲にいる歩行者を運転席で確認できる必要があるという。

 現在私が保有している車は年式が古いため、バックカメラなどは装備されていなかった。2年前、煽り運転による事故が何件か起きたのを機会に、市販されている安価なドライブレコーダーをネットで購入して取り付けた。

 電源をシガーソケットに差し込み、車のフロントガラスと後方にカメラをセットするだけで、立派なバックカメラとして機能してくれる。煽り運転をされるようなことは、そうあることではないが、買い物に出かけたときバックで駐車するようなことは日々の運転でよくある。

 そんな時、モニターを後方のカメラに切り替えると、後ろの様子がよく分かる。バックするときに、バックカメラに全面的に頼るだけでなく、サイドミラーやルームミラーでも安全を確認しながら運転することはもちろんのことである。

 近頃の新車には、360度全方向が認識できるカメラが装備されているものもあるようだが、そこまではいかないまでも、安価で前後の様子が確認できるドライブレコーダーが発売されている。私のように古い年式の車でも簡単に取り付けることが出来るので、車を買い替えなくともバックカメラの機能を持たせることは可能である。あとは、高齢者によくあるというブレーキとアクセルの踏み間違えに気をつけなければいけないという課題は残っている。

 

 


さくら

2021年03月30日 | 生活・ニュース

 3月に入った途端、身辺にいろいろなことが起きた。連日その対応に努め、全てが無事に解決し、気がつけばもう3月の終わり。古い新聞を取り出して読んでみると、今年の錦帯橋の桜の開花日は、3月18日と出ている。

 それから11日後となる29日の月曜日、散歩がてら錦帯橋に出かけてみた。時おり吹いてくる強い春風に数片が舞い散る程度で、今が真っ盛りに咲いている。上河原には、そこかしこに2~3人の家族連れが弁当を広げている。大勢が車座になって大声を出しているようなものはいない。

 さすがにコロナ禍である。皆さん節度を保って花見を楽しんでいる。暖かい日差しを浴びながらお茶を飲み、奥さんと2人だけの花見を楽しんで帰ってきた。絶好の花見日和ではあったが、人出は随分少なかったと夕方のテレビが伝えていた。

 今年の錦帯橋には、例年よりも一足早く、そして静かに春がやって来た。さて、今日は何をして過ごそうか。少しなまった体に、気持ち鞭を入れてみよう。


岩国検定の残り火

2021年03月13日 | 岩国検定

 2010年の1月に10人の仲間と「岩国検定」というご当地検定を立ち上げて、その年の11月に第1回の検定試験を実施した。その後2012年と2014年に試験を実施して以来、受験者が減ってきたのを機会に活動を休止している。

 世代が代われば又ぞろ始めてもいいのではないかと思い、全ての資料は大切に保存し、新しい情報など追記したりしている。そんな中、突然見知らぬ人から電話がかかってきた。

 「岩国検定の事務局ですか?」という。周南市に住む若々しい声の男性からであった。過去、周南市と山口市の検定を受験したことがある。岩国検定も受験したいというが、現在は休止している旨を説明する。

 検定というものに非常に熱心なので「失礼ですがお年は?」と聞いてみると、昭和13年生まれ・82歳だというではないか。未だ現役で、公民館で仕事をしているという。「声を聞いて60歳くらいの方かと思いました」と言っておいた。

 「それほど岩国検定に興味をお持ちでしたら、メールで検定の参考書と、3回分の問題集をお送りしましょうか」と言った。「是非お願いします。おいくらでしょうか」「代金は結構です。お暇な時に目を通してください」と鷹揚に答える。

 住所も氏名もメールアドレスも、年を感じさせないくらい的確に伝えてくれる。電話を切る前に一つ質問してもいいですかと言って「毛利本藩は最後まで、なぜ岩国を『藩』と認めなかったのですか」と聞いてきた。

 関ケ原の戦いのとき、吉川広家が徳川側に有利となるような行動をとったことに端を発したものであったが、時は移り、岩国12代藩主・経幹が四境の役・芸州口の戦いで挙げた功績が認められて、岩国領は悲願であった岩国藩となった、と簡単な説明をしておいた。

 振り返って見ると、岩国検定を休止してから早くも6年が経っている。それなのに、岩国検定に係る問い合わせが入ってくる。あと4年で10年が経ったころ、再び岩国検定をやって、岩国を愛する人に岩国の歴史や文化などに興味を持ってもらいたいものだと思っている。


運否天賦(うんぷてんぷ)

2021年03月12日 | 生活・ニュース

 徳川家康の良く知られた遺訓がある。「人の一生というものは、重い荷を背負って遠い道を行くようなものだ。急いではいけない。不自由が当たり前と考えれば、不満は生じない。心に欲が起きたときには、苦しかった時を思い出すことだ」という意味のことが書かれている。

 昨日、いつものように奥さんと2人で裏山の散歩に出かけた。その都度、夫婦連れや仲間と連れ立って上る何組かと挨拶したり、少し立ち止まってその日の天気やよもやま話をしたりする仲となっている。

 裏の団地に住むKさんが、白いスポーツウエアを着て、竹の杖を突いて下りてくるのと出会った。1年以上も顔を見ることはなかったが、元気そうな足取りである。お母さんと2人だけの住まいであるが、5年前にお母さんが脳梗塞で倒れたあと、1人息子で独身のKさんが自宅で面倒をみていることは以前聞いていた。

 「お母さんはどんな様子ですか?」と聞いてみた。相変わらず左半身は不随だが、週に5日はデイサービスに通っているので助かっていると、笑顔混じりで話してくれる。Kさんの顔色もよく、大変な苦労もあるのだろうが顔に出すこともない。

 別れ際に「わしゃあ、若い頃にゃあやんちゃして、お袋には随分苦労をかけたが、今、もとを取られよるよ」と笑う。すかさず私は「人間の一生は、最後になると、苦労と楽の帳尻が合うといいます。いろいろな苦労は、やってくる時期が早いか遅いかだけで、あなたは今、その帳尻を合わせているのでしょうね」と言うと「そうかもしれんね」と笑顔で手を振って別れた。

 長い人生である。いいことばかりの人生なんてありえない。逆に、悪いことばかりの人生もない。人は苦労して生きているときには、きっと楽な時が来ると信じて生きていく。楽に生きているときには、いつやって来るか分からない苦労を最小限に出来るような生き方を心掛けて生きていく。

 そのあとは運を天に任せるしかない。運否天賦というではないか。時はまさに入学試験の合格発表の季節。ベストを尽くした後はまさに運否天賦。合格したからと言って奢ることなく、失敗したからと言って落胆することはない。「人の一生というものは、重い荷を背負って遠い道を行くようなもの」である。頑張ってさえいれば急に荷が軽くなる日はきっとくる。